●魚市場の朝。料理の午後。
今朝は6時半起床。庭ウォーキングに朝食のあと、久しぶりに、いざ魚市場へゆかん! と家を出ようとした瞬間の午前8時、電話が鳴る。
日本のクライアントからだ。あれ、電話取材は午後だったはずだが……。と思った瞬間、自分が時差の計算を間違えていたことに気づいた。
米国と日本のように10時間以上も違うと、昼夜が逆転するので間違えることはまずなかったが、インドと日本は3時間半という微妙な違い。
「インドが3時間半遅れている」と言いながら、自分の中ではインドが進んでいる状態で計算し、スケジュール帳に記入していた。情けない限りだ。
「申し訳ありません! 3分後にもう一度、お電話いただけますか?」
と言って、慌ててて資料を取り出し、準備を整える。
つつがなく、1時間ほど、語る。早めに起きて、覚醒しておいてよかった。
しかも、家を出る直前で、よかった。
さて、1時間遅れで出発すれば、予想通り、朝のラッシュに巻き込まれ。
目的地ラッセルマーケットの界隈は、より一段と喧噪で。
バスに「ぶら下がり乗り」している人々の、慣れた身のこなしの乗り降りの様子。
牛車や馬車やロバ車が左右を行き交い。
雨期も終わり、ラッセルマーケットは、今が魚介類購入の「好適なシーズン」らしいが、しかしここは相変わらず古典的な市場だ。毎度書いているが、朝早い時間であれば、舞い飛ぶハエも少なく、まだまだいける。
今日のところは冷凍保存しても味があまり落ちないものを主に購入した。生きたカニが何種類もあり、かなり興味をそそられたが、夫は出張中だし、今夜は来客だし、今日のところは見送った。
おなじみポムフレット(マナガツオ)、それからインドサーモン、タイガープラウン。
このほか料理しやすいキングフィッシュのスライス(輪切り)を購入した。
エビを扱っている店は多いが、今日はこの大きめサイズのタイガープラウンを扱っているのは1軒だけだった。
Bamburiesよりもかなり安いので、多めに購入。
いかにも、いい「だし」がとれそうである。
さてさて、魚市場から帰りしのち、今日は午後の予定だった電話取材もすでにすんでいて、午後はフリーだ。
今夜の来客に備えて、約10人分の夕食の準備をしておこうとキッチンに立つ。
今日買って来たばかりのエビでプラウンカレー、パラックパニール(ホウレンソウとカッテージチーズのカレー)、アフガニ・チキン(ヨーグルト風味のマサラチキン)、ひよこ豆のカレー、キュウリのライタなどを準備する。
去年、全9回に亘って行った「ミューズ・クッキングクラス」のレシピが基本だ。つまりはやはり、モハン師匠のレシピ。
タマネギやトマトをブレンダーにかけてピューレ状にしたり、ホウレンソウを茹でたり、ミルクを沸騰させてチーズを作ったり、タマネギとニンニクとショウガを炒め、ターメリックとコリアンダーとキュミンを加えてペースト状にしたり……を淡々と行う間は、無心でいられるのがいい。
「無心」のあいまに、「縁」について、思い巡らす。
モハンに教わった料理は、形を変えながらも我が家のインド料理の定番となり、これから先、多くの人々に食べてもらうことになるのだろう。その、奇妙な感じ。
たとえそれが、一つのレシピだけだったとしても、誰かに延々と引き継いでもらえるものを持ち得ているということは、すばらしい才能だと思うのだ。引き継がれる何か、残される何かを、身につけていること。
●福岡市からのお客様来訪。
今夜のゲストは、福岡市からの視察団だ。数週間前、西日本新聞の「激変するインド」担当編集者を介して、経済部の女性記者Kさんから、連絡を受けていた。
福岡市は数年前より、地元の産学官とともにインドとの産業交流に取り組んでいるとのこと。JETROの支援を受けての訪問団派遣となっている三度目の今回は、南インドを中心に視察をするらしい。
特には、福岡(日本)において技術者不足が懸念されている「IT組込ソフトウェア分野」に交流の焦点があてられている。チェンナイ、バンガロール、トリバンドラム(ケララ州)の三都市を巡り、各地の政府機関や企業視察を含めたプログラムだとのこと。
Kさんは今回、記者として一行に同行されるらしい。インドの経済や教育に関してのお話を聞きたい、とのことだったので、それではバンガロールにお越しの際には、ぜひお立ち寄りくださいとお声をかけていた次第。
ご同行の方でもしご興味があればご一緒に、とお伝えしていたところ、参加者の方々と計8名でいらっしゃると連絡があった。それでは「インドの家庭」で「インドの家庭料理」でも味わっていただきつつ、「インドの現状の一端」をお伝えしようと思い至った。
夜の9時近く、スーツ姿の男性7名と、紅一点のKさんが到着。まずはわたしの好きなビール、「キングフィッシャーストロング」で乾杯をし、インド的にしばらくはリヴィングルームでおつまみを食べながら歓談し、夕食。
福岡市をはじめ、私企業、公的機関、大学と、それぞれに属する場所の異なる方々が、しかしIT関連という共通項でインドを訪れていらっしゃる。IT方面には明るくないわたしだが、インド全体の経済や産業について、わたし自身の知る限りのことを、実体験を通してお話しする。
しゃべりすぎだろ、と思うぐらい話す。
食後は、あらかじめ、Kさんにもお伝えしていた通り、わたし自身がインド情報を整理しているパワーポイントの資料で以て、プレゼンテーションなども行う。
みなさんには、インドのワインSulaのバックグラウンドを説明しつつ、インド産ワインの「近年におけるがんばり」について力説しつつ、赤白両方のワインを味わってもらう。
仕事でもないのに、なんなのだ、この張り切りようは。
誰か、わたしを止めて。
と自分でも思うのだが、故郷の福岡からいらした方々、と思うだけで、なんだか「親近感」が沸いて「お構い」したくなるから不思議なものだ。
そんなこんなで、主には目上のキャリアある方々に、僭越ながらもインドに関するお話をさせていただき、翌朝はすっかり喉が枯れていた。
それでも、まだお話ししたかったことはたいそうある。
インドは、あまりにも尽きない国なので。
いつまでも、いつまでも、怖いくらいに語れる。
ということに、自分でも改めて気づいた夜だった。