12月だ。晴れやかに爽やかな気候からはピンと来ないが、ついには師走。季節感が鈍くなってしまった昨今は、イヴェントごとをむりやりのように盛り上げて、月日の流れに起伏をつけるように。
さて、今日はMGロードの東端にあるセントマークス・カテドラルへ。ここでOWCが主催するクリスマスバザールが行われたのだ。わずか2時半ほどだが、受付の手伝いをするべく赴いたのだった。
さまざまなブースの中には、慈善団体で作られたクラフトを販売する店もいくつかある。
日本人駐在員夫人の有志を募って、折り紙を教えるために月に一度訪問している聾唖学校、SKIDもブースを出していた。子供たちが描いた絵で作られたグリーティングカードを売っている。右下の写真がそれだ。
澄み渡る青空を眺めつつ、受付の椅子に一人腰掛けていたら、見慣れた笑顔の少年が目の前に現れた。一瞬「誰だっけ? この子」と思ったが、次の瞬間思い出した。SKIDに通っている男の子だ。
普段は制服なのが、今日はTシャツなどを着ているものだから、別人のように見えたのだ。
思い出した瞬間、懐かしい人に出会ったかのような心持ちになった。
「ここでなにしてるの?」
「今日は、ひとりなの?」
筆談を織り交ぜながら、話しかけてくる。
「この次はいつ、学校に来てくれるの?」
いくつかの言葉を交わした後、彼は手を振って、受付を離れた。
10メートルくらい歩いて、また振り返って、彼は手を振った。わたしも、手を振り返した。
出口へ向けて歩いていく彼の後ろ姿を、見つめていた。
お互いが見えなくなりそうな直前で、再び彼はこちらを振り返り、大きな笑顔をみせながら、大きく大きく手を振った。そうして、わたしの視界から、消えていった。
なんて、無防備で、屈託のない笑顔を持っているのだろう。
名前すら、覚えていない。何度かしか会ったことのない少年なのに、まるでわたしにとって、とても大切な人間の一人であるような存在感で。
とりまくさまざまが、やりきれないようでもあり、幸福のようでもあり、そのはかりがたい紙一重のようすに、この国では日々、戸惑わされるばかりなのだ。