本日、義姉スジャータと義兄ラグヴァンの招きで、IIS(インド科学大学)キャンパス内の彼らの家へ赴く。ユカコさんとビル、ジェイクくんも招かれていて、わたしたちがついたときには、すでに到着していた。
まずは本日、アルヴィンドとスジャータがラクシャー・バンダン(ラーキー)の儀式を行う。姉、もしくは妹が、兄、もしくは弟の腕にラーキー(Rakhi)と呼ばれる紐を巻き、男兄弟の健康や厄除を祈るのである。
去年、そして2年前も行ったので、ご記憶の方もあるだろう。去年は日本の母も来ていたのだった。なんだか遠い昔のことのようだ。
儀礼ののち、IISへ来るのが初めてのユカコさんたちのために、ラグヴァンがキャンパスを案内してくれる。
「昔のバンガロールは、街全体がこうだった」と聞かされるたびに、過去のこの街に思いを巡らせずにはいられないこのキャンパスの、その緑の豊かさ。
雨あがりの、緑のしっとりとした匂いと、ひんやりと清らな空気が、まるで国立公園のようである。テントを張ってキャンプでもしたくなるような様子である。
タタ・インスティテュートとも呼ばれるこのインド科学大学。正式にはPh.D (博士号)取得と研究機関であり、大学というよりは大学院である。ラグヴァンはここで教鞭をとると同時にエイズ・ワクチンの研究をしている。
わたしはすでに何度か訪れたことがあるのだが、ユカコさんたちとともに、ラグヴァンの案内に従って研究室についていく。
インド最高峰の研究機関であるが、率直に言って、設備はミニマム。予算がなさそうな気配でいっぱいである。が、米国ではなくインドを拠点に選び、ここで十年以上過ごしているラグヴァンは、この研究室にとても愛着を持っていることがよくわかる。
2000年、アルヴィンドがMIT(マサチューセッツ工科大学)の同窓会に赴いたおり、当時はまだガールフレンドだったわたしも数日かけて行われるイヴェントに参加するべく同行した。
ちょうどそのとき、ラグヴァンは研究のために1カ月ほどMITの研究室に在籍していて、わたしたちを研究室内に案内してくれた。その設備のよさといったら、当たり前といったら当たり前だが、IISの比ではなかった。
研究を遂行するためには研究資金が必要で、そのために製薬会社など、自分たちでスポンサーを探さなければならないこともあるらしい。詳細はさておき、ラグヴァンの仕事もなかなかに大変のようである。
ちなみに右上の集合写真。休日だというのに作業をしていた男女学生がいたので、ラグヴァンが「写真を撮って」と撮影を頼んだのだが、どうやら彼らは自分たちも一緒に写真を撮りましょうと勘違いをしたようで、にこにこと一緒に並んでくれたことから、やむなく坂田が撮影した。
かくなる次第で、いつものように、わけがわからないものを見せてもらいつつ、わけのわからない説明を受けつつ、何がなんだかわからないまま、研究室を出る。
屋上に出て曇天の空を仰げば、舞い飛ぶ鳥たち。かと思えば、なんと大きなコウモリ群! こんな大きなコウモリを見るのは初めてのことで、しかもその姿がまるでバットマンのロゴにそっくりで、「うわ〜っ、バットマンみたい!!」と騒ぐ。何か間違っている気がしないでもないが、ともあれ。
研究室から戻り、まずはラグヴァン博士特製のカクテルで乾杯する。博士の作るカクテルは、分量が厳密に守られているような、律儀さを感じる。
しかし、「ブルーハワイ」といいながら、見た目グリーンなのはどうしたことか。何らかの化学反応か。そんなことはさておき、たいそうおいしい。何度も作ってくれるので、何度もおかわりをしてしまう。
インドスナックをおつまみに、しばらくおしゃべりののち、ジェイク君もちょうどおやすみしてくれてディナータイム。今日はスジャータが、北インドの家庭料理を食べる機会がないであろうユカコさんとビルに、手料理をごちそうしたいと腕によりをかけて準備してくれていた。
米国で購入したスロークッカー(わたしも欲しい)で、ゆっくり一晩かけて煮込んだという骨付きマトンのカレー。身がとろとろと柔らかく、抜群に風味がよい。
それから野菜入りのダル(豆の煮込み)、カリフラワーのソテー、プーリー(揚げたパン)、自家製ヨーグルト、タマネギのスライスなどが並ぶ。スジャータの愛情が伝わって来る、やさしくて温かい料理だった。
写真右のタルトは、本日坂田作のレモンタルトだ。なぜ大小あるかには事情がある。
そもそも今日は、久々にアップルタルトを作る予定であった。昨日、SPENCER'Sでリンゴを探したのだが、買おうと思っていたニュージーランド産のグラニー・スミスが新鮮ではない。どうしよう。
別のよく知らないリンゴの方が新鮮そうだ。それを買うと同時に、インド北部産のリンゴも買う。ところがこの2つともが、もっさりと寝ぼけた味で、焼き菓子に向かなかった。少々傷んでいてもグラニー・スミスを買うべきだったと悔やむが時既に遅し。
ニューヨークのソーホーで人気があるベーカリー、"Once Upon a Tart"のレシピブックを開く。素材を見たところ、レモンタルトが目に留まった。レモンは近所の八百屋でも手に入る。レモンタルトにしよう。プレシラにお使いを頼む。
さて、生地を作って冷蔵庫に寝かせている間、タルト型を探すが、なぜか大きな型の「底」がない。周囲と底が別になっていて、焼き上がりを底からカパッと押し上げて取り出すタイプのタルト型なのであるが、その底がないとあっては、どうしたもんだ。
最後にタルトを焼いたのはいつだか思い出せない。仕方なく、パイ皿で代用するとする。それに加え、小さなタルト皿4枚も使い、若干多めに焼くことにした。
なにしろ、初めてレシピであるのに加え、インドのレモンは米国や日本のレモンとは異なる。写真右下のライムのようなものがそれだ。
これがどのような味わいになるのか、未知数ではあるが、取りあえずはレシピに従って作ってみる。
小さなタルト型はあっという間に焼けたが、しかし大きな型は、なかなか焼けない。加えて、オーヴンの温度設定が難しい。なにしろインド製のオーブンである。この新しいオーブンで菓子を焼くのはまだ3度目で、加減が掴めていない。
200度に設定したとしても、それが本当に200度である可能性は限りなくゼロに近い。高めか低めかの見当もつかぬ。オーヴン対応の温度計を、今度米国を訪れたときに購入せねばと思う。
それはさておき、どうにも焼け具合からして、大きいものよりも、小さいもののほうが、おいしそうな気がする。大きい方はレモンカード(具)が多すぎた気がするのだ。
そんなわけで2種類を持参し、みなに味見をしてもらった次第。やはり、小さい方が、タルト生地が香ばしく焼けていて好評であった。
今後の改善点としてまず挙げられるのはレモンの分量。インドのレモンの方が、米国のレモンよりもかなり濃い。味がシャープだ。従っては、次回はスイートライムを加えて少しマイルドにするとか、生クリームを若干多めにするなどの工夫をすべきだと思われた。
次に、焼く際には、やはりパイ型を使ってはいけない。大型タルトの底が見つかればそれを使って少し浅めに具を流し入れる。あるいは小型タルト型で作るべし。
ちなみに生地は、今回、精製小麦粉のMAIDAを使用したが、無精製のATTAでも素朴な風味のおいしいタルト生地ができる。
バターは今回、ニルギリス製をの無縁バターを使った。しかし、ブリタニアでもマザーデイリーでもアムルでも、おいしくできる。砂糖はオーガニックのやはり無精製の砂糖。これをふるいにかけて使った。
インドは菓子の素材が非常に安価で手に入る。特にバターは、日本で不足していることが信じ難いほど、どさどさと大量に、しかも安価で店頭に並んでいる。
わたしたちが太らない体質だったら、もっと頻繁に菓子を焼くところであるが、そうではないので、控えめにである。
帰宅して後、満腹&酔っぱらい状態であるが、撮ってもらった。
今後、サリーを頻繁に着用しようと心に決め、ちゃんと写真も撮っておこうと思ったのだ。
本日着用は、ラジャスタン地方産。木のスタンプでペタペタと柄を押されたものである。
2年前、アートスクールのエキシビションで購入した。
最早、「日印サリー親善大使(非公認)」になって、日本のみなさんにサリーの美しさの一端を見ていただこうとの思いである。
サリーを買うための、たいそうな口実、ともいえる。