今年は9月26日に始まった「ダセラ/ダシェラ」と呼ばれる祝祭の期間。これはインド二大叙事詩のひとつ『ラーマーヤナ』の主人公であるラーマ王子が、10の頭を持つ悪魔ラヴァナを退治したことを祝することに因んでいる。
あまりにも宗教ごとの祝祭が多いため、毎年のように記していても、毎年のように詳細を忘れてしまい、自分の記録を遡って「そうだった、そうだった」と確認する始末。以下も、昨年の記録を参考にした。
「ダセラ/ダシェラ」とは、「ナヴラートリ」と呼ばれる女神を讃える「9日間に亘る祝祭」のあとの締めくくり、10日目にラーマ王子が鬼退治を成就するハイライトだ。
サンスクリット語で「9つの夜」を意味するナヴラートリ。9日間に亘り、毎日異なる姿で現れる女神を祀る。それぞれの日に、異なる色が定められており、その色に因んだ衣類などを身につける女性たちもいる。
この9つの色彩はまた、インドにおいては宝石にも反映されており、「ナヴラトナ・ストーンズ」と呼ばれる。太陽を表すルビーを中心に、太陽系の惑星や恒星、日食や月食を示す石で構成され、身につければ幸運を招くと言われている。わたしは移住当初、しばしばこの指輪を身につけていたものだ。
また、2013年に天皇皇后両陛下がインドへいらした際、わたしはチェンナイで開催されたお茶会にお招きいただいたのだが、そのときにナヴラトナ・ストーンズのイヤリングを購入した。いずれのジュエリーにも深い思い出がある。
思えば、わたしがニューヨーク在住時代に起業した出版社の名前「ミューズ・パブリッシング」の「ミューズ」は、ギリシャ神話に登場する9人の女神の総称だ。文学や天文、記憶や実践、歌や踊り……といった芸術などを司る女神たち。9という数字の持つ意味に共通の何かがあるに違いない。
さて、ナヴラートリの祝い方は、インド各地で異なる。たとえば、東インドのベンガル地方では、ドゥルガー(複数の手を持つパワフルな戦闘の女神)を讃える盛大なお祭りが展開される。
一方のここ南インドでは、 ダセラの時期に合わせて、ゴル (Golu)と呼ばれる人形のお祭りが行われる。飾られる人形は、ヒンドゥー教の伝説に因んだものから、マイソールなど宮廷の生活、結婚式、市場の情景、おままごと風の台所用品など、ヴァラエティ豊かだ。
日本の桃の節句、雛祭りと非常によく似た女の子のお祭りでもある。「奇数」の段が設置されるところも同じ。日本の雛祭りは、多分このインドの祭りの影響を受けているのではないかと察せられる。
この日のドレスコードは「シルク」ゆえ、迷わずサリーを着用することに。実は先日のムンバイでKala Niketanを訪れた際、伝統的な絵画をプリントしたサリーが目に止まった。「プリント」という技法は、伝統的ではないものの、タッサーシルクの上に渋目の色合いで描かれた女神たちが美しく、しかも極めてリーズナブルとあって、即、購入したのだった。
本来ならばテイラーに出してブラウスを作り、裾やパルーの部分に手を加える必要があるのだが、どうしても着たかったので、パルーの部分の共布(ともぎれ)を切断し、フレキシブルな浅い緑色のストレッチブラウスを合わせた。後日、テイラーに出そうと思う。
ナヴラートリには、9日間に亘って、それぞれの日の「色」が決められている。昨年は、招かれた日が「青の日」だったので青系のサリーを着ていった。今年は、先にサリーを選んだので、色を確認せずにいたのだが……さきほどチェックしたら「緑の日」だった。ブラウスを緑にして正解だった。
昨年に引き続き、少し大きくなった次女が、ゲストに対して丁寧に、人形にまつわるストーリーを説明してくれる。最近はインドでも、古くからの伝統を受け継ぐ家庭が減りつつある中、彼女たちのように文化を継承する子供たちの存在の大切さを思う。神々を讃え、日々の暮らしを慈しみ、豊穣に感謝する。ライフのさまざまが込められたお祭り……。
ところで友人宅は、今年、市街中心部のキングフィッシャー・タワーに居を移されていた。20階から見下ろす周囲の情景は、見事なまでに緑豊か。カルナータカ州庁舎を取り囲むようにカボン・パークの森が広がる。この物件には、何人かの友人家族が暮らしているが、それぞれの窓から異なる市街の光景が眺められ、いずれも圧巻だ。
昨日、顔を合わせた別の棟に暮らす友人曰く、雲の動きを眺められるモンスーンの時期が、彼女にとっては最もすばらしいという。年明け、色とりどりの樹の花が咲き乱れる時期も美しいが、確かに、パノラミックに広がる曇天の空は、刻一刻と表情を変えて魅力的なことだろう。
🎎日本の雛祭りにそっくりな、南インドのお祭り、Navratri Golu(昨年の記録)
https://museindia.typepad.jp/2021/2021/10/golu.html
💍指にきらめく宇宙。9つの石のNavratna Stones
https://museindia.typepad.jp/fashion/2009/12/navratna.html