本日は、先週行ったチャリティ・ティーパーティで集められた寄付金を携えて、バンガロール北西部にある動物保護施設CUPAへと赴いた。
いつもは、OWCが支援している20を超える慈善団体の中から寄付先を決めているが、CUPAはその中に含まれていない。まずは「人間向けの施設」が優先されているのだということ。
今回、ご自身もイヌをお飼いになっていて、CUPAとの関わりをお持ちのティーパーティ参加者から、CUPAの活動内容を説明されたと同時に、支援を示唆されたこともあり、寄付と訪問を実施することにした次第。
チャリティ・ティーパーティは基本的に、わたし自身がOWCの日本人会員のお世話係をしていることから、日本人会員の方を対象にお声をかけているが、実際のところ、OWCとは関係がない。従ってはOWCとはつながりのないこの団体を選んでも支障はない。
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CUPAは故クリスタル・ロジャーズ (Crystal Rogers) という英国人女性によって1991年にバンガロールに創設された団体。クリスタルは1959年に、首都デリーにおいて見捨てたられた動物たちのための施設である "The Animal Friends" を立ち上げて以来、インドでさまざま動物に関わる活動を展開し、動物愛護の活動家として多くの人々に影響を与えてきたという。
さて、CUPAでは、まずマネージャーであるスパルナの部屋を訪ね、挨拶を交わし、寄付金を託す。わたしたちからの寄付金(合計7000ルピー)は、ABC(Animal Birth Control) Program 、つまり野良イヌなどの産児制限の手術費用に充ててもらうことにした。
バンガロールで唯一の動物保護施設であるCUPAは、獣医大学から借り受けている大学裏の一部敷地を拠点としている。慈善団体の多くがそうであるように、ここもまた多くの人々のヴォランティアで成り立っており、ぎりぎりの資金でまかなっているようだ。
バンガロールで、動物たちが事故やトラブルに巻き込まれた場合、CUPA唯一の救急車が出動し、現場に駆けつける。野良イヌの他、ネコ、牛、ラクダ、ヤギ、野鳥など、さまざまな生き物たちが運び込まれて処置を受ける。
なにしろバンガロールで唯一の動物向け施設である。24時間態勢で動いており、ともかくは忙しいようだ。
ところでインドでは、食用を除いては「動物を殺してはならない」と法律で定められているらしく、日本のように保健所が野良イヌを捕らえて殺処分するなどということはない。
だからこそ、路傍にはさまざまな動物が溢れているわけだが、それは同時に、狂犬病ほか多くの問題を抱えている。
野良イヌが子どもを襲ったというニュースは時折、新聞で見かけるし、逆に人間が動物を虐待するケースも少なくないという。
イヌに関しては、自動車などに撥ねられるなどの交通事故が多いとのことで、市井でも足が一本足りない身体障害犬をしばしば目にする。
インドでは神聖視されているはずの牛ですら、負傷している場合も多いという。ちなみにデリーの牛はゴミの中からプラスチックやビニル袋を誤って食べてしまい、身体に変調を来す牛が多いらしいが、バンガロールでは事故が多いとのこと。
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CUPAでは、傷を負った動物の保護だけでなく、野良イヌの狂犬病予防注射の接種や、去勢/避妊手術の実施、野良イヌの里親募集とその実施など、動物に関わるさまざまな助けを行っている。
里親は常時募集しているとのこと。里親希望者には数回に亘って来訪してもらい、面接にて住まいの環境などを確認する他、イヌとの散歩などを通して相性の善し悪しを確認した上で、里子に出すのだという。
わたしたちが訪問している間にも、引き取られていくイヌがいた。
ちなみに、引き取り手のないイヌたちは、然るべき治療と予防接種、虚勢/避妊手術を受けた上で、再び路上に戻す場合もあるという。
インドの路上でよく見かける感じの、だらしないイヌたち。しかしよく見ると、彼らはそれぞれに負傷者、いや負傷犬である。
左上の、おもちゃの乳母車を解体して作られたと思しき義足を着用したイヌ。運ばれて来たときは瀕死の状態で、助かる見込みは浅かったとのこと。それが今では元気いっぱいのわんぱく犬。他の犬たちを「仕切っている」ムードを醸し出している。
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ちなみにCUPAは、民間からの寄付によって成り立っているが、中でもゴールドマン・サックスとドイチェ・バンク(ドイツ銀行)が主たるサポートとなっているとのこと。
金銭的な寄付だけでなく、社員を含め、肉体労働を伴うヴォランティアも行っているようだ。建物の外壁なども、企業の支援によって行われたとのこと。思えば前回訪れたアシュウィニの壁画もまた、米企業が施したものだった。
わたし自身が、少なからず慈善団体に関わるようになって1年余り。欧米の企業が、CSR (Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任) (←文字をクリック)の一環として、このような施設を支援していることを目の当たりして、思うところ、多々ある。
以前も書いたが、欧米の企業は、駐在員らの夫人に対して、現地でのヴォランティア活動を奨励するべく、さまざまな情報提供などを積極的に行っている。
滞在査証(ヴィザ)の都合上、本国で仕事をしていたものの、駐在員の妻というステイタスでは仕事ができない。そういう女性たちの力を、ヴォランティアに向けさせるというものである。
このような姿勢は、日本人も真似して悪くないと、個人的には常々感じている。まさに、「社会的責任」として。
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日本の殺処分の現状を知りたく、インターネットで検索したところ、いくつかのショッキングな映像を見つけた。見るに辛いシーンもあるが、知っておくべきことでもあると思う。
わたしは特段、動物愛護精神を持っているわけでもなく、菜食主義者でもなく、極めて普通である。その普通のわたしでも、そこには堪え難い事実があった。
殺処分されるイヌの大半は、飼い主たちが動物管理センターに運んでくるという。飼い犬の種類に「流行り廃り」があって、流行を過ぎた種類のイヌが運び込まれてくるのだという。
信じられない。信じられないが、殺されるイヌやネコは年間約39万匹に上るという。
CUPAの、あのおんぼろな保護施設とは比べ物にならないほど、清潔な場所。
比べ物にならないほど、機能的で、高級感漂う施設の中で、預けられて3日後には、次々に殺されているイヌたち。しかもそれは、経費節減のために選ばれた、安楽死ではなく、密室に二酸化炭素を送られての「窒息死」という方法で、苦しみながら。
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インドはとても問題の多い国だ。日本とは比べ物にならないくらいに。しかし、先進国である日本で、こんなことが起こっているとは、わたしもこの映像を見るまで、知らなかった。
殺処分となるのは、野良イヌよりも、飼い主が手放すイヌたちの方が圧倒的に多いという事実。
野良イヌの多いインド。それはいかにも「立ち後れている感じ」が漂う光景で、先進国から訪れた人たちにとっては、眉をひそめられがちな状況だ。
道ばたには、野良イヌがごろごろとしていて、最早人間とイヌとが共存しているといった様子でもある。昼間は路傍で、いや、道路の真ん中に寝そべって怠惰で、しかし夜になると妙に元気になって街を駆け巡るイヌ。
まるで「昼間の世界は人間たちに譲ってやっているが、夜の世界は俺たちの天下だ」とでもいわんばかりに。
しかし、この事実を知って、考えが大きく変わった。確かに問題はあれど、インドは、インドなりの、こうして住んで、触れてみて、実態を知ってようやく理解できる、立ち後れているとは言い切れない、あるいは懐の広さというものがあるということを。
路傍に暮らすおじさんが、野良イヌの頭をグイグイと撫でながら、ニコニコしている。
門番の坐る傍らで、同じように坐る野良イヌのつぶらな瞳。
敢えて歩道のど真ん中の、歩行に邪魔になる場所にどてっと寝転ぶイヌ軍団。
いろいろな、野良イヌの光景が浮かび上がって来て、あんたたち、殺されずに生きられるところに生まれて来てよかったね、と、思う。
この国に暮らし始めてから、学ばされることは、とても多い。