今朝は、4時起床。自宅を5時に出て、バンガロール市街南部へ。世界最大の給食センターであるNGO、「アクシャヤ・パトラ」を見学するためだ。
在バンガロールの米国の大学卒業生によるクラブが主催のイヴェントで、毎度、夫に同行しての参加だ。
バンガロール拠点のヒンドゥー教の寺院であるイスコン・テンプル(ISKCON TEMPLE)が母体の「アクシャヤ・パトラ」。
No child in India shall be deprived of education because of hunger.
(インドの子どもの一人とて、空腹を理由に教育を奪われてはならない。)
を理念に、給食サーヴィスが開始された。児童就労の子どもたちを減らすためには、まず学校を整備せねばならない。
腹が減っては勉強はできぬ。というわけだ。
膨大な数の貧困層を抱えるこの国。もしも学校で栄養のバランスがよい食事ができれば、給食が目的で学校に通う子どもたちも増える。
先進国から見れば、考えられない事態かもしれないが、それがインドの現実だ。
ここでも幾度か記したが、インドの公立学校は州によって差異があるにせよ、学校としての機能を果たしていないところが多い。
教育設備以前に先生の技能が足りない、トイレの設備がない、そして給食などがないといった実態から、貧しくても私立学校に通わせる家庭が多数だ。
これに関しては、過去にも記しているので、下記、参照されたい。
■インドの教育事情。超、断片。2010/09/06 (←Click!)
■貧困層の子らに英語とコンピュータ教育を。2012/02/29 (←Click!)
「アクシャヤ・パトラ」が2000年に創始された当初は、バンガロール市内5つの公立学校(ガヴァメント・スクール)、1500人の生徒たちが対象だった。
現在は、インド全国9州約20都市に給食センターを配備。毎日9000校、130万人の子どもたちに、給食を届けるに至っている。
最初は寺院の「社会奉仕」からスタートしたアクシャヤ・パトラだが、「給食を目当てに」子どもたちが学校に通い始めたケースがレポートされ、多くの公立学校から依頼が来るようになった。
アクシャヤ・パトラの活動は、インド政府が2004年に公立校の給食を義務化する契機にもなったという。
現在では、政府からの補助金と、企業や個人からの寄付金によって賄われている。バンガロールで最も有名なIT企業であるインフォシスも支援。野村ホールディングスなど日本企業も寄付をしているとの記事を見つけた。
給食の調理時間のピークは午前6時前後だとのことで、6時に約10名の参加者が集合。ジェネラルマネージャーのムラリダール氏の案内で見学が始まった。
数カ月前からアクシャヤ・パトラで働き始めたというムラリダール氏。かつては米モトローラで品質管理の業務に携わっていた。
この給食センターが、「大量の食事を短時間に調理できる」「栄養価の高い食事を廉価で提供できる」「独自のグラヴィティ・フローで作業を効率化している」といった、画期的なシステムで運営されていることを、説明してくれる。
グラヴィティ・フローとは重力を利用して、効率化を図っている作業工程らしい。
公立学校の給食が義務化された現在でも、アクシャヤ・パトラの人気が高いのは、その料理のおいしさにもあるという。
壁には、「大切な5つのS」として、なんと日本語が並んでいる。
「整理」「整頓」「清掃」「清潔」そして「しつけ」
なんだか、くどい気がしないでもないが、丁寧に説明書きが施されている。今、調べてみたら、これは日本の製造業、サーヴィス業では比較的一般的な概念なのですね。知らなかった。
■5S (←Click!)
海外でもよく知られているところの「KAIZEN(改善)」も意識しているとのことで、バンガロールにあるトヨタ・キルロスカー・モーターの工場へ視察に行ったこともあるという。
さて、見学は屋上からはじまった。ここには、米や豆など穀物を貯蔵するためのサイロがある。ここから、作業を上から下に落としていく、この給食センター独自の「グラヴィティ・フロー」が開始する。
ここは素材の準備フロア。
上のサイロから大きなパイプを通して素材が「落ちて」くる。
それらをここで洗浄し、調理の準備を整える。
下の写真は、すでに作業が終わって清掃をしたあとの状態。非常に清潔な印象だ。
左下は、トマトをジュース状にしているところ。右下は、洗浄、カットをし終えた素材を、下の階の調理釜に「落とす」べく、穴。
このほか、冷蔵室などもあるが、その規模は、さほど大きくない。野菜などの素材は、基本的に日々、調達される。
ちなみに、料理は約30種類あり、毎日異なる料理が2、3種類。そしてカード(ヨーグルト)が添えられる。
さて、ここが調理場。上階から落とされる素材が、鍋に直接、落下するよう備え付けられている。
メニューは、ヴェジタリアン。しかも、アーユルヴェーダでも推奨されているところの、「サトヴィック・フード」が基本となっているという。
一方、身体にとってよくないとされる加工食品など「タマシック・フード」は一切使われない。
なお、アーユルヴェーダでは、一度冷めた料理も「タマシックな食べ物」だと判断されるため、冷凍食品などは決して好まれない。
サトヴィック食について、日本語でわかりやすく書かれているサイトがあったので、興味のある方は、こちらをご一読されることをお勧めする。
新鮮な野菜や果物、豆類、無精製の穀物、乳製品、そしてスパイス……。自然の恵みをふんだんに生かした、粗食ながらも健康食である。
ちなみにサトヴィックでは、玉ねぎやニンニクも用いない。揚げ物や炒め物もなく、主に「蒸す」「煮る」料理であることから、キッチンが油っこく汚れることもない。
これは、トマト風味の炊き込みご飯。ともかく、たいへんなヴォリュームだ。こんなに一度に炊いても、米の形が崩れてしまわないことに驚く。
炊きたてアツアツの料理は、台車に移され、すぐ後ろにある穴から、下に、またしても「落下」させる。
落ちて来た料理を、そのまま釜に移し、ベルトコンベアに載せ、すぐ外で待機しているトラックに積み込み、配達される。
重力(グラヴィティ)を最大限に利用したこの作業工程。素材の移動に無駄がなく、シンプルで手早い。
なお、料理はここを出る時には、華氏90度(摂氏約32度)、食事の際には最低でも華氏60度(摂氏約15度)に保たれるようにしているという。
センターの見学を終えたあと、会議室で簡単なレクチャーを受け、その後、わたしたちも朝食をいただいた。
ここで作られたばかりの給食だ。給食には、これにカード(ヨーグルト)が添えられる。
手前のトマトライスは、スパイスの風味がしっかりとしており、しかし塩分控えめでヘルシーなおいしさ。奥はプランテーションバナナと豆の煮込み。ほんのりと甘い料理だ。
なお、北インドではチャパティが主食となるらしく、アクシャヤ・パトラが開発した「1時間で4万枚のチャパティを焼く機械」が使用されているという。
下に、いくつかの動画を載せておいたので、ぜひご覧いただければと思う。
なお、バンガロールには、ここともう1カ所、計2カ所の給食センターがあり、毎日12万食を調理し、820校に届けているという。
給食のコストは、州によって若干の差があるものの、平均すると1食あたり6.38ルピー。即ち10円ちょっと、である。
なお、政府からの補助金が3.66ルピー、寄付金が2.72ルピーという割合だ(2011年の資料)。
わたしたちも、心ばかりではあるが、寄付をさせていただくことにした。
「アクシャヤ・パトラ」とはヒンドゥの神話に出てくるモチーフで、サンスクリット語で「無尽蔵の器」を意味する。
この給食のコンセプト。サトヴィック・フードを供しているという点においても、強い感銘を受けた。インドの底力を感じさせられた朝である。
★財団の詳細については、下記のホームページを参照のこと。
■AKSHAYA PATRA (←Click!)
今、はたと思い出して、過去の記録を遡ってみた。
写真を拡大すると……やはり。
この青いバス。写真を拡大してみると、アクシャヤ・パトラの文字が見える。これを見たことが、わたしが慈善活動に対して、少し足を踏み入れる契機にもなったのだった。
活動を始めた経緯を、かつて記していた懐かしの「インド発、元気なキレイを目指す日々」に記していた。こちらも、目を通していただければと思う。が、こちらにも、思い出の青いバスの写真を。
2年前(2007年)のあるとき、路上でこんなバスとすれ違いました。子供たちが食事をしている様子が、バスのボディに描かれています。給食サーヴィスの車のようです。
バスの後部の文字が、目に飛び込んで来ました。
"Feeding for a hungry child is not charity. It's our social responsibility."
「お腹を空かした子供に食事を与えることは、チャリティ(慈善)ではありません。我々の社会的責任です」
社会的責任です。
というひと言に、心を射抜かれました。
それまでは、貧しい人たちに対して何らかの施しや支援を行うことに対し、「慈善活動」「ヴォランティア」と定義して来たからこそ、わたしの中の理屈っぽい感情が拒絶反応を起こしていたのだと思い至りました。
しかしそれらの活動を「社会的責任」と表現すると、より積極的に関われるような気がしました。
以来、便宜上はわかりやすさを尊重して「慈善活動」と表現していますが、わたしの心の中では、「社会的責任の一端を遂行している」と定義して、活動を始めることにしました。
■社会的責任としての、慈善活動 (←Click!)
★ ★ ★
●ONE MILLION MARK (2009)
●BBC WORLD NEWS (2011)
●1時間で4万枚のチャパティを焼く機械。