モンスーンの時節はすでに終わっているはずなのだが、雨が多い昨今。恒常的に水不足のこの地においては、それもまた恵みの雨。
街路を洗い流し、緑を目覚めさせ、空気を輝かせてくれる。
デカン高原の、この天に少しだけ近い場所から仰ぎ見る、空と雲の様子は、この地に暮らし始めてからずっと、変わることなく好きな情景のひとつだ。
上の写真は、先日、市内のレインツリーというブティックの庭から撮影したもの。被写体となった木は、庭の大きな大きなレインツリー。その向こうにITC WINDSORというホテルが見える。
それにしても、歳月は容赦なく流れてゆく。
あとひと月ほどで、我がインド生活も、丸10年となる。
* * *
インドでこれから暮らす人、働く人に対して話すことの一つ。
「インドは週休3日制か4日制と思って予定をたてた方がいいですよ」。
家族や親戚との結びつきが強いインドでは、冠婚葬祭や病気の看病などで仕事を休むケースが非常に多い。加えてインフラの不全によるトラブルその他。日本的な感覚でスケジューリングをすると、とても追いつかずにストレスをためることになる。
もちろん、それを補うために人員を確保するとか、予算を投入するとかいう代替案はあろうが、ともあれ、思うように事が運ばないのが日常である。
それが、8月以降には顕著になる。15日の独立記念日。今年はラマザン(断食節)が例年より早く7月に終わったが、通常は8月から9月あたり。ムスリム(イスラム教徒)が全力で働けない時期だ。8月末はケララ州最大の祭、9月には象の頭を持った神様「ガネーシャ」のお祭り、月末にはムスリムのイード(犠牲祭)、10月はマハトマ・ガンディの誕生日にはじまり、ダセラと呼ばれるヒンドゥー教の一大祭、そして今年は11月にディワリ(ヒンドゥー教の新年)と続く。もちろん12月にはクリスマスなどキリスト今日のお祭りもあり。
多様性の国、多宗教が混在し、共存する国にあっては、それぞれの宗教をリスペクトしつつ、強調して暮らし行くことが大切なことでもある。
祝祭日だけが停滞の理由ではない。ストライキあり、選挙あり、大雨やら要人来訪やらでの道路封鎖あり、なにかと街の機能が停止する事態も織り込まれ、いちいち気ぜわしく、滞る。
そんな「週休5日制?」とでも言いたくなるような状況下でも、確実に時間は流れ、個人的には、成したいことがなかなか成せず、今年もまた中途半端な思いを抱えて年の瀬を迎えてしまいそうだ。
ただ、欲張らず、今年はミューズ・クリエイションをNGOにした、ということにだけでも、心の達成感を持とうではないか、と自分に言い聞かせつつ、10日後には、年に一度の日本への一時帰国だ。
まとまったことを書く精神的環境がこのごろは整っておらず、しかしインドに暮らし始めて以降の、ネット上に残している記録は、自らの来し方を顧みるのに非常に役立っている。どんな状況であれ、簡単にでも、残し続けようと思う。
というわけで、手元に残している写真から、今日のところは振り返ってみたい。
インド移住当初やムンバイ在住時には、面白くてしばしば足を運んでいた展示会。このごろは、ミューズ・クリエイションのメンバーをお連れしてのサリー選びのために、アートスクールや伝統工芸の展示会に訪れるばかりで、派手な世界からは足が遠のいていた。
ウエディングシーズンを控え、この手のイヴェントは、都市部でこれから益々増えるころだろう。久しぶりに色の洪水。化繊や機械刺繍の商品が目立つ中、わたしの目は、それらを弾いて、伝統工芸や手刺繍、手織りのブースにしか、引き寄せられない。
質のよいイカット(かすり)を利用し、デザイナーがオリジナルで「現代風」にアレンジしたというサリーの数々。アートスクールの値段の軽く倍以上はするが、色合わせの妙やデザインの斬新さがユニークだった。
幾度となく記しているが、インドでは結婚式に招かれたゲストも「派手に着飾る」のが一般的。基本的に黒や白の衣類は好まれない。最近でこそ、ファッショナブルにモノトーンを着こなす人も増え、受け入れられているところもあるが、避けた方が安全だ。
本来、白のサリーは「未亡人が着用する」もの、即ち喪服であり、ハレの日には不適とされている。
尤も、お隣のケララ州は白地に金のボーダーが入ったサリーが一般的であり、ハレの日にも着用されるが、いずれにしても、なにかしら装飾が入った華やかなサリーなどの衣類を身につける。
小物類も、この華やかさ。
サリーの醍醐味は、ブラウスを変えることで、印象がガラリと変わるということ。たとえば母親から譲り受けた地味なサリーも、ブラウスを華やかにすることで、若い女性を引き立てるものになる。
この業者は、コルカタから来たとのことで、一目で手刺繍だとわかったことから、あれこれと見せてもらった。たとえば白やクリーム色、レモン色など静かな色のサリーでも、このように派手なブラウスを合わせれば、たちまち艶やかになる。
あまり着ることのなかったサリーが生まれ変わるチャンスでもある。店頭で、持っているサリーに思い巡らせつつ、黒か赤か、悩んだ末、黒いロウ・シルク(生絹)に手刺繍が施されたブラウス生地を購入した。これはテイラーに持って行き、自分のサイズに合わせ、好みのデザインに仕上げてもらう。
この日の買い物はこれだけだったが、満足だった。
が、今、写真を見るに、もう1枚くらい買っておけばよかったか、とも思う。お兄さんが手に持っているマテリアルも、なんだか素敵。裏地の色次第では、刺繍が浮かび上がってとてもおしゃれになりそうだ。と、今更ながら、思ったり。
●ミューズ・クワイア&ダンサーズも参加の「THE 音楽会」。
9月末は、バンガロールの老舗合唱団「ロイヤルエコー」のメンバーが主催する音楽会に、ミューズ・クワイアもゲストとして出演した。5月に開催された音楽会と同じようなコンセプトのイヴェントだ。
今回は、ユーミンの『やさしさに包まれたなら』、ゴスペルの『I will follow him』、そしてダンス付での『JAI HO!』を披露。
今回は初めて「サリー」を着用してのパフォーマンスだ。いつもよりもぐっと、舞台が華やいだ気がする。ただ、サリーのブラウスは身体にピッタリとフィットするように仕立てられているので、大きく呼吸をするには苦しい。ゆえに、歌を歌うには、あまり向かない。従っては、なるたけ伸縮性のある素材で「緩め」のサリーを着用する必要がある。
ちなみにミューズ・クリエイションは現在、オリジナルの「昼組」と「働き組(女子)」に加え、「男組」「こども組」も結成されている。ダンスにはこども組10代女子も参加してくれ、幅広い年齢層でのステージとなった。
なんというか、基本素人の、バックグラウンドもバラバラの集団が、人様の前で、楽しく踊って歌えるという環境を与えられているのは、実に楽しく面白く、ありがたいことであると、つくづく思う。これも、インドに住んでいるからこそ、である。
ちなみに踊るのにマイクのコードが引っかかりそうだったこともあり、マイクなし、でのパフォーマンスだった。わたしはジャパン・ハッバのとき同様、歌いながら踊る、である。
太極拳を始めて、以前より一層、声が出るようになった気がする。50代。まだまだ、いける。
……わたしは果たして、何を目指しているだろう。
●シンプルな手工芸が映える、「大人のサリー」を着こなしたい。
以前から折に触れて記しているが、50代になったらもっと頻繁にサリーを着用したいと考えていた。それも、落ち着いた色合いの、手紡ぎや手織り、手刺繍が映えるサリーを。
デリーなどではよく見かける、知的で品のある女性たちのサリーの着こなしに、ずっと憧れてきた。白髪をすっきりと短くまとめ、綿にせよ、絹にせよ、混紡にせよ、落ち着いた色合いのシンプルなサリーを、姿勢も正しくすっと着こなす。
そのようなサリーを少しずつ増やしたいと思っていた矢先に見つけたのが、このサリーだった。
ミューズ・クリエイションの若手メンバー数名がサリーを購入したいということで、アートスクールのエキシビションに同行した。華やかなサリーを選んでいたところ、しかしこの一枚が目に飛び込んで来て、即購入である。
普段はパルー(肩から下がるヒラヒラとした部分)を折り曲げずに着ているが、このサリーはパルー部分に模様があるわけではないので、折り曲げてみた。
こちらの方が動きやすい。
動きやすいが、脇腹が露出しやすいので、「立ち位置に注意」である。
地味ながらも着心地がよく、背筋が伸びる感じがする。夜のパーティなどではまだまだ、華やかなサリーを着たいけれど、昼間の会合などは、このようなサリーをもっと、着てみたいものだと思う。
ちなみにこちらは、レインツリーという上の写真を撮影したブティックにおかれていたサリー。これまではあまり見ることのなかったリネンのサリーが、今年はよく見られる。
少しふんわりと厚みのある、肌触りもよく上品な色合いのサリー。思えばリネンのサリーはまだ一着も持っていない。次に「これは!」と思うものに出合ったら、試してみたいと思う。
●OWCが支援する慈善団体、NGOを知るひととき
インドに暮らし始めて以来、毎年訪れているところの、チャリティ・ショーケース。最早、顔なじみの団体も多数で、しかしミューズ・クリエイションを結成してからは、常に新しい情報を得ておきたく、足を運んでいる。
以前はITCウインザーなどが会場だったが、ここ数年はリーラ・パレスのショッピングアーケードで開催されている。
毎度おなじみ、DOMINICAN SISTERSのシスターズ。
イヴェントごとを仕切っているシスター・ジャシンタ(左端)から、
「10月19日に、子どもたちのキャンプがあるから、また遊びに来てよ」
と、頼まれる。その日の朝、日本に発つことになっていたので、今回は無理だと告げたところ、
「あなたがいなくてもいいじゃない。他の人たちが来てくれればいいわよ」と、切り返される。
全く以て、その通りなのだ。そしてそのような状況(わたしがいなくても、メンバーがそれぞれに外での活動も実施してくれる)を望んでもい続けているのだ。
ただ、言葉の問題ほか、メンバーが個人的に負担を感じすぎることをお願いするのも憚られ、常に「立候補」でのイニシアティヴをお願いして来た以上、わたしから指名をしたり、強くお願いすることは、避けて来た。
が、来て欲しいと言ってもらえることは、実はとてもありがたいことでもあるのだ。
よって、昨日のサロン・ド・ミューズのティータイムに、メンバーに声をかけた。最初は挙手がなかったものの、ついには一人、手を挙げてくれる人がいた。
すると続いて12名の参加者が、その場で決まった。30数名中の12名がすぐに都合をつけられる、とうのは、すばらしいことである。
とてもうれしい。
たとえやる気があっても、好奇心があっても、言葉の問題があり、主導権を握ることを躊躇する人が多数だと思う。今回、最初に手を挙げてくださったのは、英語が堪能な方だ。それはとてもありがたいことであるが、英語ができる人に責任が集中するという事態は、避けたい。言葉以外の部分で、メンバーそれぞれが能動的に、アイデアを出し合って、子どもたちと遊ぶ時間を演出して欲しいと思う。
というわけで来週のサロン・ド・ミューズでは訪問の準備などをみなで行い、なるたけ一人に負担がかからぬよう、みなが責任を分散できるような形で、参加できればと思う。
かつてしばしば訪問していたBANGALORE EDUCATION TRUST。貧困層子女向けの無料の学校だ。
昨年のちょうど今頃、創設者だったナガラジ氏が突然病に倒れて亡くなられて以来、ご無沙汰していた。今回久しぶりに女性のスタッフと顔を合わせたところ、「あなたにぜひ連絡をしたかったの。また遊びに来て欲しいの」と言われた。ナガラジ氏が急逝されたことから、各方面への連絡先がわからなくなり、ゆえにこの日、知り合いに合えることを願っていたとのこと。
中央の男性が、現在、同団体をマネジメントしているとのことで、以前よりも設備は向上したという。ナガラジ氏なきあと、どうなるのだろうかと心配だったが、本当によかった。また、ぜひメンバーで訪問しますと約束した。
こちらは、HIVポジティブの子どもたちのホーム&スクールを擁するDEENA SEVA FOUNDATIONのシスター。
先日、日本からのインターン大学生らと訪問したNEWARK MISSIONの創設者、ラジャも来ていた。先日お会いしたときは、あまり笑顔がなく、元気がなさそうだったので少し心配したが、今日は白いシャツも爽やかにニコニコしていたので安心した。
彼らのところは、つねに様々な物資を必要としているので、これからも自分が訪問できなくても、ドライヴァーに寄付の品を託すなどして、不定期でも継続的に、ささやかながらも支援を続けたいと思っている。
●コンポストで緑豊かに。しかし猫らが庭を荒らす……
長雨のおかげで、成長する緑あり、成長しない緑あり。ハイビスカスやブーゲンビリアは、雨が多すぎると開花しないせいか、このごろは庭に彩りが少ない。
日陰で芝生が生育しない仏像の前に、石を配することにした。黒い石、白い石を買って来たところ、ガーデナーが石で模様を描いてくれた。それなりに面白いので、そのままにしている。
ご覧の通り、配された竹などは常に傾いている。ROCKYとNORAが追いかけっこをしては、倒して行くのだ。また、ハイビスカスの花はつぼみのうちから、ROCKYに食べられてしまう。
野菜の苗を植えれば、やわらかな土を掘り返してトイレ代わりに。
ゆえに、いろいろな植物がダメージを受けている。が、それはそれである。
ところで、わたしがゴミの問題についてかなり真剣に憂いており、自宅でも「捨てるゴミ」を極力減らすべく心を配っていることについては、幾度となく記してきた。
新聞などの紙類、プラスチックやビニル、ボトル、その他諸々、ほとんどのゴミは分別して保管し、まとめてドライヴァーにリサイクルショップに持って行ってもらう。それらはいくばくかのお金になるので、それはドライヴァーのお小遣いにしてもらっている。
生ゴミに関しては、以前から素焼きのポットを使ってコンポストにしてきた。実は、従来使っていたコンポストが古くなったこともあり、数カ月前より、新しい仕組みでコンポスト作りを始めた。
こちらの方が、手間はかかる。が、堆肥になるまでの期間が短く、しかも仕上がりがよい。
■Greentechlife (←Click!)
さまざまな野菜くずなどの生ゴミが、立派なコンポストになっているのがこれ。こんなにきれいな堆肥ができ上がると、なんだかとてもうれしい。地に生まれ、地に育ったものが、また地に還って行く。それも、地を豊かにしながら。その輪廻に加担できていることが、幸いに思える。
以前から幾度となく紹介しているが、わたしがインドのゴミ問題について、切に親身に、考え始める契機となったのが、下記のツアーである。未読の方はぜひ、目を通していただければと思う。
■インドのゴミ処理を巡る旅。ぜひ読んでください。2011年11月11日 (←Click!)
●『インドでの食生活と健康管理』のセミナーも実施
ミューズ・リンクスのセミナーもまた、もっと頻繁に実施したいと思いつつ、なかなかに参加者との調整も難しいのが実情だ。
とはいえこのごろは、月に1、2回のペースで実施している。
昨日はミューズ・クリエイションのメンバー以外にも、男性含む数名の参加者を迎え、計12名を対象に実施した。異国での暮らしに関わらず、であるが、健康維持は、人間が生きていく上で最も重要な事項である。
昨日もまた、インドで心身ともに健康に生きて行くための、自分なりの経験を交えたあれこれを語った。このセミナーは資料が充実しているので、その後、ガイドブックとしても役に立つ。情報がすぐに古くなるので、常にアップデートが必要なのであるが、ともあれ受講された方には活用してもらいたいと願っている。
そして昨日も、ロングなロールケーキを。ケーキの生クリームを調達する際のポイントにさえも、熱く語ってしまう。今、バンガロールで入手できるもので、わたしがよく使うのは、ニルギリースのフレッシュクリームと、ミルキーミストの生クリーム。共に、ビニルパックのようなものに入っている。
ニルギリースに関しては、賞味期限は5日間。だが、新鮮すぎると泡立ちが悪く、クリーミーにならない。脂肪分と分離しやすくなるのだ。かといって、賞味期限ギリギリもいやだ。
理想は3日目のものを3日目に食すること。というわけで、「理想の日付のクリーム」を入手すべく、いつも2、3軒の店を巡っている。いや、ドライヴァーのアンソニーに巡ってもらっている。
我ながら、毎度細かいところまで拘りすぎか、と、ふと思ったりもするが、やはり、良質のオーガニックの小麦粉や、新鮮な卵、オーガニックのやさしい砂糖、そしてほどよくクリーミーな生クリームで作ったロールケーキは、素朴なお菓子ながら、幸せな気分にさせてくれる。
上の写真は、夫のためにとっておいた端っこ。わたしは昼間、すでに食べたので、ない。お気に入りのダージリン、セカンドフラッシュ(マスカテル)をいれる。
夕食後の、幸せなひととき。
さて、来週は日本への一時帰国へ向けて、諸々の準備もせねばならない。去年は、夫と「九州旅」をしたため、そのプランニングでやったらエネルギーを使ったが、今年は自分だけが2週間滞在できる。それだけで、かなり気分が楽だ。昨年は、夫が一足先にインドへ戻ったあと、弾丸で1泊東京旅を決行したが、今年はゆとりを持って滞在できそうだ。
ただ、出発前には、毎度のことであるが、不在時の夫の食事の仕込みをせねばならず、これには半日、確保である。
なんにつけても、無理をせぬよう、詰め込まず、これから先のホリデーシーズン、心の平穏を保ちながら過ごしていきたいものだ。
2週間の不在。猫らが恋しくなることは、間違いない。なにしろ去年は、NORAが来て3カ月後くらいだったにも関わらず、すっかり猫が気になって、夫もわたしも、旅先で猫を見かけるにつけ、気持ちを持って行かれていたくらいだから。
わたしたちも、すっかり、猫によって変わってしまったものである。