バンガロールで毎年開催されている日本のお祭り、ジャパン・ハッバ。ミューズ・クリエイションは今年で4度目の参加だった。
ミューズ・クリエイションが関わる大きなバザールとしては、毎年、このジャパン・ハッバ、そして9月のミューズ・チャリティバザール、そして年末のOWCクリスマスバザールの3つがある。このほか、小さなイヴェントやバザールなどに参加することもあるが、この3本柱が今のところ定番だ。
ジャパン・ハッバは他のバザールと異なり、主には日本に興味のあるインドのローカルの人々と触れ合う場として、商品販売の売り上げよりも、コミュニケーションを重視してきたイヴェントであった。
ところが、今年はこれまでの経験と認識を覆す結果となり、ごくごく氷山の一角ながらもインドの消費傾向の変化、のようなものを目の当たりにしたのだった。
昨年は当日にクリケットのワールドカップ、印パ戦が開催された影響で、今年よりも来客数が少なかったが、それでも賑わった感はあった。しかし今年は、それを大きく上回るものであった。
また、明らかに去年までとは異なる「若い女性のパワー」を、確実に感じた一日でもあった。そのことについては後述したい。
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去年のNGO化を契機に作ったおそろいのポロシャツを着用し、今回もイヴェントに望む。午前中から昼過ぎにかけては、例年通り4つのテーブルを借り、布製品販売、紙製品販売、そして折り紙デモンストレーション、書道デモンストレーションを行う。そして午後はミューズ・クワイア&ダンサーズによるステージだ。
常にメンバーの入れ替わりが多いミューズ・クリエイションだが、今年の1月には、新メンバーが一気に11名も増え、かなり混沌度が高かった。それでも、多くのメンバーが積極的に活動に関わり、毎週金曜日のサロン・ド・ミューズにも参加され、大勢ながらも各チームがまとまってイヴェントに向けて準備をできたのは、本当によかった。
例年のことではあるが、ミューズ・クリエイションのブース以外でも、さくら会主催の着物着付けコーナーや書道コーナー、また茶道のコーナーでお手伝いをするメンバーも多く、ミューズ・クリエイションのメンバーだけでも40名以上が、このお祭りに関わっていた。
異郷の地において、積極的にヴォランティア活動をされる方々の多くが、ミューズ・クリエイションに関わられているということを改めて実感させられ、個人的にも、とてもうれしく思う。
折り紙デモンストレーションのコーナー。このあと、開場とともに、どっと来訪者が詰めかけるのである。
布チームの販売コーナー。毎年人気の「お手玉」をはじめ、和柄を駆使したすてきな小物類がたっぷり用意されている。
書道のデモンストレーションコーナー。毎年、短冊のようなものに、名前の当て字を書いて販売しているのだが、これがかなりの人気。今年はわたしも筆ペンを持参で、適宜交代でお手伝いをすることに。
名前もいいが、好きな言葉などを書くのもいいかもしれないと思い、前日のうちにサンプルを用意しておいた。書道といえば、小3から中1までの4年間、結構まじめに取り組んだ習い事だったのだが、ピアノと同様、バスケの部活との両立も困難となり、やめてしまった。
その後、やはりピアノと同様、30年以上に亘って放置されていた過去の経験であったが、ミューズ・クリエイションをはじめたことで、こうして「昔取った杵柄」が役に立つ日が来たことが、思いがけずもうれしいことである。
なにしろ、書道はおろか、普通のペンでさえ、手書きで文字を書く機会が激減している昨今。思うようには書けないものの、それでも久しぶりに筆(ペン)を握るのは、楽しいものである。
エントランス・エリアでは、生け花の展示。ファミリーフレンドのディーピカ先生の作品も、例年通り展示されている。
こちらはさくら会の書道コーナーでお手伝いするミューズのメンバー。
毎年大人気の着物(浴衣)着付けコーナーのみなさん。今年は130名を超えるインド人老若男女が浴衣コスプレ、を楽しまれたようだ。
着付けのお手伝いをされたミューズのメンバー。そういえばわたしも昨年、福岡で浴衣を購入していたのだった。いつかの機会に着用せねば。
着付けのあとは写真撮影。大人も子どもも、みなさん、とてもうれしそう。
他の販売ギャラリーも充実していたのだが、あまりの喧噪ぶりに、今回、写真撮影は怠り気味。ともあれ、マンガロールから来訪されていたJAPCULのブースにて、どら焼きは確保!
それを知ったミューズのメンバーもいきなり押し掛ける。
茶道のデモンストレーションもまた、人気のコーナー。ミューズ・クリエイションのメンバー、お点前中。
バンガロール「古株♥」のみなさんとも再会。何かしら、インドでの歳月の流れをぐっと感じる一瞬。涙。
昨年は、お手玉3つを操る女子が、客寄せ効果も抜群に、ジャングリングを披露してくれたのだが、今年は誰もできず。そんな中、インド人青年が3つを操り、メンバー一同、歓声を上げる、の図。
これらたっぷりの商品が、数時間後には、大半が売り切れてしまうのである。
日本語を学ぶインド人のゲストが多いだけに、非常に流暢な日本語で話しかけてくれるので、一瞬、何語で返答すべきか迷ったりもする。インド人の話す日本語は、欧米人のそれとは異なり、発音が「くねくね」しておらず、非常にクリアなのが特徴だ。
特にカルナタカ州のローカル言語、カナダ(カンナダ)語は、日本語と文法が酷似しているらしく、双方向で勉強しやすいらしい。
書道コーナーでは「強気な言葉」を選ぶ女子が数名。昨今の、インド女子のパワーはすさまじく、数年前とは全く異なる、ウエスタナイズされた独立心を持つ「キャリア志向」が主流である。
「愛と平和」「感謝」といった言葉を複数リクエストされた一方、「自信」「成功」も人気だった。
夫は「感謝」、妻は「自信」を選ぶところにも、時代を見る思いだ。
そしてまさかの「時間厳守」! キュートなインド女子がご購入。自分への戒めか、あるいはボーイフレンドに渡すのか。聞けばよかった。
True Manと書いてくれ、とのリクエストに、「真の男」と直訳してはみたものの、面白みに欠けるので「男の中の男」とした。彼は少し日本語ができることもあり、非常に気に入ってくれた。
Fighting Spiritは、「闘魂」である。来年はこのあたりのサンプル、拡充しておきたいものだ。
「自信なさそ〜」と自分で言いながら「自信」と書く女子。ノープロブレム♥
この怪しげなコスプレは、日本の「シニガミ」というアニメのものらしい。ゆえに「死神」。たまらんな。
正午あたりは、お客の流れもピークに達し、テーブルが見えない!
さて、今年のミューズ・クワイア&ダンサーズのパフォーマンスは、開会式の直後、午後1時からとなっていた。出演メンバーが去った後は、小人数で店舗を担当してもらうことになり、いささか心配ではあったが、お客も観客席に流れたこともあって、なんとか切り抜けてもらえた。
ミューズ・クワイア&ダンサーズ。今年は最初にコーラスを2曲、「村祭り」と「STORY」を披露したあと、ダンサーズによるボリウッドダンスだ。
個人的に、毎年、ソロがあったりダンスもやったり、あるいは司会をした年もあるなど、何かと荷の重いイヴェントではあったが、今年はソロもダンスも司会もなかったので、その分、かなり気分は楽であった。
実は当初、わたしもダンスに参加すべく練習をしていたのだが……。途中で出演を断念したのだ。というのも、5、6年前に大ヒットした人気女優カトリーナ・カイフによる "Sheila Ki Jawani"という曲の歌詞が、あまりにもセクシーすぎるという理由で、我が夫から反対を受けたのである。
ある夜、わたしが練習用動画を見ながら、腰をふりふり踊っていたところ、夫が干渉してきた。
確かに歌詞がセクシーなのは知ってはいたが、別に本気で男子を誘惑しているわけじゃなし、お祭りで踊ることになんの問題があろう。
現に、流行っていた当時は結婚式のパーティなどでもガンガンに流れていたし、2011年に開催された「日印グローバル・パートナーズサミット」においても、日本の歴代首相ほか、インド要人の前で、日本人のボリウッドダンスグループが楽しげに披露していた曲である。
というようなことを例に挙げても、夫は、納得しない。ネットで英語の訳詞を探して、重要な歌詞の部分を赤字に変換して、「読んでみなさい」などという。非常に、鬱陶しい。
「頑固者!」
「何を今更、コンサバぶってんの?!」
「自分だって、セクシーなの、好きなくせに!」
などと言うも、頑固者の夫は、一旦、口に出した以上、引き下がれないようでもある。みっともない夫婦の口論は、NORAの仲裁によって一時は収束したものの、わたしもいろいろと思うところがあった。
確かに、「(基本、封建的な)インド人に嫁ぎ、ヴォランティアのNGOを主宰する日本人女性(50歳)」が腰をふりふり「アイム・トゥー・セクシー・フォー・ユー」という曲に合わせて、若女子らと一緒になって踊るのは、いかがなものか。
という風に、頭のなかで文章を組み立ててみたところ、「痛いな」と、自省した次第。それでもって、いつもは途方もなく好き勝手をさせてもらっているので、たまには夫の言うことに従うべきであろうとも思った次第。なにしろ、これだけの大所帯を毎週自宅に招くに際して、なんの異論も唱えず、自由にさせてくれているのだから。
そんな次第で踊らぬことに決め、その旨を夫に告げたところ……散々、あれこれ言っておきながら、「当日は、僕はどうせいないから、踊りたければ踊れば?」である。
なんなの、それ。むかつく。と思いつつも、今回は、一旦、夫の言い分を聞き入れることにしたのだった。
でも、終わってみて思う。やっぱり踊りゃよかった。なにしろ不完全燃焼。
誰が気にしようか、そんな歌詞のディテール。だいたい、みんなで踊ってたら、そこにわたしがいるかいないかなんて、誰も気にしないのだ。自意識過剰ってなものである。これはもはや、わたしの気持ちの問題であった。
次回の出演の場では、きっと踊るのだ。と心に決めた次第である。
まとめて取り寄せたフリーサイズの衣装(トップ)が、わたしにはとてつもなく小さくて、横にひっぱられて丈が短くなって、ヘソが出る状況だったので、そういう意味では、「補正」が必要だったこともあり。今回は、キュートな面々に出演してもらったことで、よかったのかもしれない、とも思う。
メンバーの一人が実際にダンスの先生でもあることから、彼女の指導で、非常に完成度の高いパフォーマンスに仕上がった。去年のJai Ho!よりも、更にグレードアップである。
とはいえ、ここまで来るには、それなりのドラマがあった。
昨年の終わりごろからメンバーらは特訓をはじめていたのだが、今年になって加わった新メンバー4名も、参加することになった。加えて、中高生の子ども組メンバーが2名。どこに子どもがいるのか、と驚かれる方もあろうかと思うが、混じっているのである、大人顔負けに存在感たっぷりの子どもが2名!
子どもはどちらも、抜群にダンスがうまいので、自主トレして放課後にサロン・ド・ミューズに来てもらうなどして、みなと合わせて特訓した。
一方の、新人らもまた、1カ月を切る短期間の間に、集中的に練習である。結構ぎりぎりになるまで完全に覚えていないメンバーには、「来週まで覚えてなかったら、出演は辞退してもらうかも」的な、非常に体育会系の流れまでいったのだが、みなぎりぎりで、なんとかやり遂げたのである。
このプロセスを思い返すに、「駐在員の奥様方」という言葉からは非常に遠い、学校の部活、あるいは学園祭のムード満点なのであった。
涙あり、笑いありの、青春である。実に、暑苦しい。
暑苦しいがしかし、ダンサーズは最早、観衆の大喝采と歓声を受けて、すっかりスター気分である。
その結果が、この、調子づいた感じの記念撮影である。ミューズ・クワイアの「非ダンサーズ」のメンバーが、「わたしたちとの、記念撮影は?」と、声をかけているにも関わらず、誰一人、気づくことなく、自分たちの撮影世界に没頭中なのであった。
ゆえに、歌のみのメンバーは、静かに、そして地味に、記念撮影なのである。
今年は派手に赤かピンクのポロシャツを作ってもいいかもしれない。とも思うが、さくらの花の色はその場合、どうしたものだろう。
さて、自分たちのパフォーマンスを終えたあとも、まだ少しギャラリーにお客さんがあったので、引き続き、販売を続けた。
書道パフォーマンスの短冊は150枚ほどが用意されていたが、完売である。
ちなみに今年の売り上げであるが、布紙チームを合わせて、48,080ルピー。日本円にして約8万円にも上った。これは過去4年間の売り上げ記録を大幅に上回るものとなった。
作品数の多さ、的確な商品構成、積極的な販売など、これまでの経験をいかしたうえでの、メンバーのみなさんのがんばりのお陰だというのが、一番の理由だとも思うが、来場者数が多かったのに加え、若いインド女子らの購買意欲が高かった、というのも、見逃せないポイントだ。
過去3年間では、他の2つのバザールに比べ、ジャパン・ハッバはローカル、すなわち主にはミドルクラスの客層を相手にしているものだから、高価すぎないものを販売するという作戦できていた。ゆえに、数十ルピーの廉価な紙製品の方が多く売れるとの流れもあった。
しかし今年は、数百ルピーの布製品も、飛ぶように売れ、ほとんど在庫がない状態となったのである。これは、今までにない傾向であった。
書道デモンストレーションにしても、1枚50ルピーの短冊を、ひとりで数枚、買っていく女子もみられた。数年前には見られなかったことである。
このところ、わたし自身の本業でも、インドにおける若い女性のトレンドやライフスタイルの変化について、あれこれとリサーチしているだけに、この変化は非常に納得できるものであったし、目に見えて手応えがあったことにも、驚いた。
最早、テーブル代が1つ8000ルピーと非常に高いOWCのバザールや、ミューズ・クリエイション主催のバザールよりも、利益率がダントツで高くなった、今回のジャパン・ハッバである。
こんな一日を通しても、常に流動するインド世界の、ごくごく断片を、見る思いだ。
だからこそ、過去の経験を生かしつつも、過去の事例に拘泥せず、そのときどきのメンバーが、そのときどきでやりたいことを、そのときどきで作りたいものを作り、形にしていってもらえれば、とも思う。
参考までに、会計記録の一部をスクリーンショット。今回のバザールがいかに盛況だったかが、数字を通してみても一目瞭然だ。
毎回、しつこいほどに記していることだが、ミューズ・クリエイションは利益を上げること重視しているわけではない。
ヴォランティア活動という名目のもとに、地域社会とのコミュニケーション、ローカルの人々との触れ合いを図る。日本人同士で、有効な情報を交換し合う。またインドへの理解を深めるべく、互いに啓発し合うといった、さまざまな目的と願いが託されている。
故に、「成果をあげるべき」といった、なにか一つ所に囚われて、プレッシャーや負担を感じたり、ましてやメンバー同士の関係がぎこちないものになったりすることは、最も避けたいことの一つである。
その点において、多少の波風が立つことはあれど、新しいメンバーがどんどん増える中、「いい空気感」が保たれ続けているということは、本当にすばらしいことと思う。
これも毎度書いていることだが、たとえ日本に住んでいても、一般の人たちが、こうしてステージに上がって喝采を浴びたり、自分たちの手づくりの作品を喜んで買ってもらえる場面に遭遇することは、滅多にないことである。
メンバーのみなさんは、昨日、相当に「一生懸命」、持ち場持ち場でがんばられて、きっと疲労困憊で帰路につかれたことだと思う。ただ、そのように一生懸命になれる機会というのは、社会人になってからは、なかなかないものである。しかも、損得勘定なしに打ち込めることがあるというのは、幸せなことだとも、思う。
これからもまた、そのときどきのメンバーで、そのときどきのミューズ・クリエイションを育みつつ、活用しつつ、自由に楽しく、活動してもらえたらと願う。
みなさま、お疲れさまでした!