弥生三月も、たちまち半ばとなりて。かつてガーデン・シティと呼ばれていたこのバンガロール。いつしかガベージ・シティ(ゴミの町)と呼ばれるようになり、都市開発も目覚ましく気ぜわしく。
思えば7、8年前のこの時節、我が家の庭に訪れていた、さえずる声も麗しい、赤や緑や黄色の野鳥たちは、すっかり姿を消してしまった。年々、空気は乾き、4〜5月の盛夏を目前にして、すでにこのごろは日差しも鋭く、遮る樹木らも、まばらに頼りなく。
街の様相の変化も、人々のライフスタイルの変化も、相変わらずすさまじい勢いの日々の中にあって、いつのときも変わらぬよう、自分の軸をしっかりと、屹立し続けることにも、それなりの努力が必要だ。
さて、上の写真は、ジャパン・ハッバの打ち上げの様子。大きなイヴェントを一つ終えたあとは、慈善団体訪問など、異なる活動が次々と待っている。
数日前、昨年末より関わっていた本業の2大プロジェクトがようやく完了した。予定通り納品をすませ、肩の荷が下りたところだ。今後はしばらく、長期的な仕事が入る予定はないので、少し軽やかに、身の回りのことを片付けながら、進みたいものである。
立て込むと拙速し、的確な判断ができなくなる。無駄な動きで徒労も増えて、心のゆとりが損なわれる。自分の許容量を過信せず、丁寧に、丁寧に、を意識して歩きたいものだ。
昨日は、バンガロール市街北部にあるカナディアン・インターナショナル・スクールを訪れた。バンガロール在住の日本人駐在員の子女が最も多く通っているインターナショナルスクールで、同校の校舎では、毎週土曜日、日本人補習校の授業も行われている。
以前、補習校で臨時の国語の先生を2回ほど、やったことがある。そのときに訪れて以来だ。先ほど記録を遡って見たところ、すでに5年もたっている。それもそうだろう。あのとき中学生だった友人の子どもが、先日、高校を無事に卒業したと連絡があったのだから。
【補習校での授業の記録】
01 束の間、国語教師/異国で子供を育てるということ (←Click!)
02 補習校で「桜」作文 (←Click!)
先日、ジャパン・ハッバにてミューズ・クリエイションが出店していたブースに感銘を受けたというカナディアン・インターナショナルスクールの先生からの依頼で、今回、6年生の10名×2クラスを対象に、折り紙と書道を体験してもらう運びとなった。
ミューズ・クリエイション。今まで貧困層子女や、身体に障害のある子どもたちなど、生活環境があまり恵まれていない子どもたちのための施設の訪問が中心であった。思えば、保護者のもと、きちんと教育が受けられる環境にある子どもたちと遊ぶのは、はじめてのことである。
朝8時過ぎからの1時限目と9時過ぎからの2時限目に訪問することから、早朝起床で学校へと向かう。早朝はまだ渋滞が少ないとはいえ、毎朝こうして離れたところまで通学するとは、たいへんなものだろうなと思う。
ミューズ・クリエイションの参加メンバーは10名。子どもたちも10名ずつだったので、ほぼマンツーマンで対応できたのがよかった。
なにしろ、常日頃より人の入れ替わりが多いミューズ・クリエイション。毎回「経験者」よりも「初心者」の方が多いから、折り紙を教えること一つをとっても、大人の方とて、それなりの準備や心構えが必要だ。
駒は3つのパーツを作り、それらを組み合わせてできあがる。作るのに少し時間がかかるが、仕上がると3色の彩りがきれいだし、よく回るのが楽しい。
毎度、先生も真剣に取り組んでくれるところが、うれしくも微笑ましい。
わたしは今回、書道を担当。「書道とは……?」というところを知ってもらっておいたほうがいいだろうと、人数分の資料を準備する。実は子どものころに書道をしていたとはいえ、知らないことばかり。今更ながら、「なるほど」と思いつつ、数ページの資料を作る。
今回は時間もないことだし、体験ということで、「永」、すなわち永字八法をいきなり体験してもらうことにした。
流れとしては、
・座り方、姿勢、筆の持ち方などを簡単に指導しつつ、まずはわたしが手本を書く。
・各自、手本を見ながら自己流で書いてもらう。
・わたしが羽交い締め、いや、二人羽織状態で、背後に回って指導する。
・もう一度、自分で書いてもらう。
というわけで、一人当たり都合3枚。練習もなく、3枚だけ。にもかかわらず、みなそれぞれに、個性豊かに、いい「永」を書いてくれたのには、驚いた。
これはインド人の女の子が書いた文字。初めて書く漢字、初めての書道で、これほどまでに忠実に倣えるとは、驚きだ。
ちなみにわたしも知らなかったのだが、永字八法のそれぞれの技法には「たとえ」がある。
たとえば「掠(リャク):女の人が髪を梳かすように」とか、「啄(タク):キツツキが木をつつくように」とか、「テキ:キジのシッポのように」といった具合に。
最後のはらいは、「磔(タク):内臓をえぐりだすように」という、驚くような意味があるのだが、さすがにそれはいかがなものか、と思われたので、「長いドレスの裾のように」と説明しながら書いたのだった。
そうすると、子どもたちは少し興味を持って聞いてくれ、飲み込みも早いように思われた。
ほとんどの子どもたちは、わたしが握った手の動きに素直に従い、柔らかく、きれいに仕上げていく。中には、まっすぐに座れない姿勢の悪い子がいる。肩肘を張って、滑らかに動けない子もいる。任せっきりで力ない子もいる。
それぞれが、個性。軽く触れ合うだけで、その子の個性の断片が、少し伝わって来るようで、温かい。
わたしと一緒に書いた文字が、とてもうまくかけたと喜んでいる女子。かわいい。
わずか3枚。されど3枚。みなそれぞれに、味わいのある文字だ。絵だと思ってみればなおのこと。
そんな中、アレックスは姿勢もよく、筆の運びも滑らかに、とても初めて漢字を書いたとは思えないうまさである。驚いた。思わず「書道、習ったら?」と勧めたくなってしまった。
かくなる次第で、あっという間の2時間足らず。大人も子どももそれぞれに、いい時間を過ごせたと思う。
今週末はまた、慈善団体訪問が待っている。年末年始にどこへも訪問できなかった分、これからはイヴェントごとも積極的に増やしていこうと考えているところだ。
【参加メンバーのコメント】
●私は男の子5名&先生と鶴と駒のおりがみを折りました。日本人も在学しているからか「おりがみ」を知ってる子がほとんど。けれど折るのは初めての子が多かったのですが、museメンバーも多く、ほぼマンツーマンの体制がとれ、みんな時間内に仕上げることができました。日本の文化を知ってもらういい機会になったと思います。貴重な経験をありがとうございました。
●先週のミューズに参加できなかったために、折り紙で「鶴、コマ、蓮」を作ると書いてあったメールを読み「鶴」の担当になろう、と勝手に思っていたところ、一対一で全部折ると知り、一人で焦っていました。その挙句、コマで迷走し担当した生徒さんには申し訳ないことをしたと反省しております。慈善団体訪問で出会う子どもたちと違って、鶴やコマを見せてもあまり反応はなかったのですが、いざ折ってみてそれなりのものができあがると、"Wow!" と言って喜んでいたのでほっとしました。作品の難しさも年齢に合っていたようです。いつも思いますが、子どもたちや先生など訪問先の方々に喜んでもらえるのが一番ですね。
●生徒さん達の素直さがとても心地よく、楽しくてあっという間の2時間でした。生徒さん達は、折り紙に興味はあるけどやりたい子とやりたくなさそうな子がいて、横からお手伝いをするとホッとしたように喜んでくれる子が数名いたのが印象的でした。また、出来上がった作品を見て喜んでくれたお顔がキラキラしていて嬉しかったです。私は、今日の様な活動が初めての経験だったということもあり、子供たちに『臨機応変』に対応が出来なかった事が悔やまれます。人数でグループを分けるよりも、★鶴コーナー ★駒コーナー ★蓮の花コーナーに分けて、自分が作りたいもののコーナーへ行く♪という風にするのもありかなと思いました。また、美穂さんの堂々とされた挨拶も素晴らしかった事、ミューズのメンバーの皆さんがお互いに協力し合いながら活動されていた事、この活動に参加して学ばせて頂けたこともあり、本当に意義のある時間を過ごさせて頂きました。有難うございました。
●Muse Creationとしても初めてというCIS訪問。教室で子どもたちに会うと、キラキラした表情でこちらを見てくれてとても嬉しかったです。今回は書道と、折り紙で「鶴」「ロータス」「コマ」を教えました。前回のサロンドミューズで教えてもらい、自宅で練習して挑みました。ロータスとコマ、難しいのではないかと思いましたが、子どもたち皆んな真剣に折ってくれ、無事に完成させることができました。角と角を器用に折っていく子、うまく折れずに「うーん」と納得がいかない子、まわりの子が早く終わって拍手をされているのを横目に焦ってしまう子、一生懸命がんばってくれる子たちと一緒にて過ごせて楽しかったです。今回は人数的にほぼマンツーマンで対応できたので良かったと思います。わたしが折り紙を教えに行くのはドミニカンシスターズ訪問以来の2回目でしたが、またもや自分の英語力の無さが気になってしまい、もじもじとしてしまったことを後悔しています。次は折り紙を折るための英単語を(ちょびっとでも)勉強して自信をつけて挑みたいと思います…!!今回は集合時間も早く場所も遠いことから少々参加を迷っておりましたが、楽しく過ごせて、また自分の弱点と向き合うキッカケになったので、参加して良かったと思います。今後も積極的に施設訪問に参加したいと思います。
●日本でも、学生になるとあまりすることがない折り紙。折り紙やお習字は自分の器用不器用関係なく、自分の仕事の仕方で出来上が違います。それぞれの良さや楽しさを改めて実感しました。
●手先が不器用な私ですが、息子を通してCISの依頼を受けた手前、訪問前のミューズで折り方を習い、自主練して参加しました。あっという間に時間は過ぎ、時間内に作品が出来上がったのが嬉しかったです。生徒達の作っている時の真剣な目、出来上がると嬉しそうにキラキラした目と笑顔が印象的でした。先生も真剣に折り紙をされていて、忘れてしまうからと動画も撮影していました。何か形になると楽しいという感情は、年齢、環境に関係なく、人としての共通なものなのだと再確認しました。他のメンバーの教え方も、大変勉強になりました。ありがとうございました。
●CISの生徒さん方10名で小学高高学年の対象でしたので、一人ひとりに対応でき、また落ち着いて行えたかと思います。得意不得意な子もわかれましたが、皆出来上がった時には喜んでくれていました。自分の好みの色や柄を選び、組み合わせて完成させるコマはより喜んでもらえていたように思います。年齢や国籍の違う方々に折り紙を英語で教えるという、貴重な経験ができました。また同じような機会に恵まれましたら、この経験をいかしていけたらなと思います。ありがとうございました。