🇮🇳金曜の夜、ミューズ・クリエイション、そしてわたしの夫が深く関わってきた慈善団体のひとつ、OBLF (One Billion Literates Foundation) のイヴェントに出席した。OBLFは、バンガロールを拠点とする貧困層子女への英語教育を支援する慈善団体だ。OBLFの創始者であるアナミカとわたしが出会ったのは、2012年2月、ミューズ・クリエイションを始める前のこと。アッサム出身の彼女は米国ボストンの大学を卒業後、現地でソフトウエア・エンジニアリングの仕事をしていたが、2010年、夫と二人の息子とともにバンガロールへ移住していた。
本業の傍ら、彼女は貧困層の子どもらに英語やコンピュータ教育の支援をしたいとの思いから、同団体を立ち上げ、当初は自ら、僻村の学校へ通い、教鞭をとっていた。その時の様子は、わたしが当時、西日本新聞に連載していた『激変するインド』でも紹介した。
彼女は数年後に再び家族で米国に戻ったが、その後、10年の長期に亘ってRuby(現在は退任)という女性が運営を担っており、支援の枠は年々、拡大してきた。
ミューズ・クリエイションでは、OBLFが支援する村の学校を訪問するほか、ミューズ・チャリティバザールでは、毎年、同団体に無償でブースを提供してきた。我が夫Arvind Malhanは、2014年に同団体の役員となり、大企業からの寄付金を調達、ファンドレイジングにも貢献している。
なお、OBLFはCOVID-19のロックダウンに入った直後、村民たちのライフをサポートすべく、食料品の調達、感染者向け入院施設、ワクチン接種センターなどを次々に準備し、多くの人たちを救ってきた。その経緯などはすべて、ミューズ・クリエイションの専用ブログやYoutube動画にて、レポートしている。下部にリンクを貼っているので、関心のある方にはぜひご覧いただきたい。
🇮🇳この夜のイヴェントでは、現在のCEOの挨拶に始まり、OBLFが支援する学校の子どもたちによる寸劇、すでに成長した女生徒たちの体験談、教師やスタッフとして関わってきた女性たちのコメント、運営側の関係者によるパネルディスカッションなど、起伏に富んだプログラムが組まれていた。
中でも、「ドクターと呼ばれたい」と切望し、勉学に励む女子生徒の話や、発達障害を患う少年の踊りとそれを見守る母の感謝の言葉、英語を話せなかった女性スタッフの人生の変容など、OBLFの支援により人生が大きく転換した人々の生の声に、心を打たれた。
インドには、無数の慈善団体がある。その多くは個人の篤志家によるものだ。運営のためには、資金が必要であり、資金集めにはビジネス・センスやネットワークも重要となる。更には、その資金を有効活用するには、各方面の専門知識が必要だ。
どんなに慈愛や奉仕の心を持ち、社会に貢献しようと情熱を持っていても、精神論では解決できない問題や課題がたくさんある。慈善活動を効果的に、永続的にするには、実践的で具体的な戦略が望まれる。
インドにおいては、企業におけるフィランソロピー、ソーシャル・アントレプレナーシップ、CSR活動といった分野も活発に見られることから、学びの場も非常に多い。一方で、この国の歴史や実態を知らず、自分の目に映る氷山の一角を一瞥しただけで「この国は、貧しい」「政策が破綻している」「富裕層は貧富の差を顧みない」などと、十把一絡げに判断する人をしばしば見かける。
最近では日本の若者たちが「貧困層を支援したい」と新興国を訪れるケースを多く目にする。もちろん、海外の実態を肌身に感じるのはすばらしいことだ。しかし、そこには現状の認識不足や、無知による偏見が数多、見られることを、敢えてここで言及しておく。この件については、後日きちんと整理して記さねばと思う悩ましい出来事が、昨今、増えているがゆえに。
🇮🇳1947年8月15日。この国は、久しい英国統治を経て独立した。その状況をして、インドでは「パーティション」、即ち「インド・パキスタン(印パ)分離独立」と表現される。
辛くも「インド(ヒンドゥー教が主流)」と「パキスタン(イスラム教が主流)」が分断され、それぞれ独立したとき、当時の識者たちは異口同音に、この国が民主主義国家として存在、あるいは存続し得る様子がないと説いた。それから70年以上が経過した今、数々の社会問題を抱えつつも、しかしインドは一つの巨大国家として存在している。
多様性が極まった混沌の亜大陸が、一つの国として今あることは、奇跡なのだということを、この国に暮らしている中で日々、痛感する。わたしたちは、どんなに長くここに暮らし、どんなに多くを学んだとしても、この国のことを理解し尽くすことは不可能だ。知れば知るほど、その底なしの深さと、遥かな茫漠を痛感する。
13億人の民を抱える巨大国家を統括することの果てしなさを、わたしたちは想像する必要がある。欧州共同体の約3倍、日本の約10倍、アフリカ大陸とほぼ同数の人口……。他の国家であれば、「国(政府)」が責任を持つべきとされる事案を、しかしインドでは、国に丸投げできないのだ。
納税者が10%を切っているこの国で。多くの権限を州政府が担っているこの国で。
慈愛と奉仕。協調。プリンシパル(指針)……。精神的な基盤のうえに、然るべき手段を以って挑まねば、長期的な活動を継続することは困難だ。
この国で、日々、学ぶにつけ、日本の若い世代に伝えたいと思うことが募る。折しも、桐子さんと美紗さんが滞在中ということもあり、彼女たちも出席できるよう計らった。二人にとってもこの夜の経験は、インドを望む新たな視座を得る契機になったことだろう。
🇮🇳ところで、この夜。会合の最後に出された夕食が極めておいしかった! インディラナガールに昨年オープンしたスリランカ料理店 “Yo Colombo” のケータリングなのだが、ヘルシーで美味だった。個人的に、スリランカ料理が好きなこともあり、とてもうれしかった。ちなみに “Bento Bento”という日本/韓国/ヴェトナム料理店と併設している模様。出前がメインのようなので、今後、利用してみようと思う。
【OBLF関連情報】
🌸ミューズ・クリエイション専用ブログ
https://museindia.typepad.jp/mss/one-billion-literates/
🌸OBLF Youtube Video/ 貧困層子女に英語とコンピュータ教育を提供
https://www.youtube.com/watch?v=C9msXOFlkLg