一人でバンガロールに戻ってくる夕暮れ時の、そのひとときは、好きな時間でもある。きれいになった空港は快適。カートは潤沢にあって、しかも新品。ベルトコンベアからスーツケースをつかみ取り、カートに乗せて出口へ向かう。
このとき、いつも同じメロディーが脳裏をよぎる。
スーツケースくらい自分で持つと 君はいつも強い 女だったね (『白い港』大瀧詠一)
大学時代、初めて海外に出た20歳のころに、いやというほど聞いていた。ナイアガラトライアングル。叫びたくなるほど懐かしい。
スーツケース、はわたしにとって、自由に羽ばたくための象徴のようなもの、かもしれない。たとえ結婚しても、たとえ誰か、手を貸してくれる人がいても、わたしはいつまでも、自分の力でスーツケースを持てる人間でありたいと思う。
あの初めての旅から、いったいどれほどの旅を重ねてきたことか。それでも、一人で旅をするときの、凛として晴れがましい気持ちは、あのころと少しも変わらない。
空港から自宅へ戻る途中の空が広い。雲の多い夕映えもまた麗しく。彼方に小さな虹の欠片も見え、それだけで幸せな気分になる。
二重生活とは、確かに面倒である。
衣類や靴、調理器具、書類その他、日常のあらゆるものが、二カ所に分散している。二つ買いそろえているものもあるし、持ち運んでいるものもある。
必要な物が、現在の場所にはなく、じれったい思いをすることも少なくない。
それでも1年以上、こうして行き来する生活をつつがなく送られているということは、うまくいっている方だろう。なにしろ、1軒の家でさえ管理するのが大変なインドで2軒を管理しているのである。
よくやっているものだと、時には自らの健闘を称えよう。
そして一人帰宅しての宵、ワインを開け、いただきものの「柿ピー」などをつまみながら、インターネットで日本のテレビ番組などを見るひとときの、至福。
今日はバンガロールに暮らす日本人女性の会である「さくら会」のランチに出席した。今回はタイミングよく出席できてよかった。
チャリティ・ティーパーティを開催しようかとも思ったが、諸々雑事もあり、今回は見送り。そのかわり来週の金曜日には、OWCのチャリティ関連のイヴェントもあるため、それには参加してムンバイに戻ろうと思っている。
ところでさくら会のメンバーはすでに100名近くになっているとのこと。年々新しい駐在員の方も増え、会も賑やかだった。
さてさて、一人の静寂は破られて、そろそろ夫もムンバイから戻ってくる。来週は彼もバンガロールで打ち合わせを入れているようで、週半ばまではここに滞在するようだ。
ともあれ、そろそろ夕飯の準備にかかるとしよう。