週末、夫とともに、近所のスーパーマーケット、Nature's Basketへ赴く。幾度か記したが、ここは生鮮食料品に加え、輸入食品を扱う、インドにしては高級な小規模スーパーマーケット。ゴドレージ(Godrej)と呼ばれるインドの中堅財閥の経営だ。
ちなみにゴドレージはタタと同様、パルシー(ゾロアスター教徒)系の財閥であり、つまりムンバイではかなり幅を利かせている。
それはさておき、マンゴーが追い込みである。正確に言えば、人気の高い「アルフォンソ・マンゴー」の旬が終わろうとしている。
アルフォンソの産地が近いムンバイでは、バンガロールに比べると遥かに、店頭におけるアルフォンソの占めるスペースが広いのだが、すでにバダミ、ケサールなど他種のマンゴーが堂々と第一線に並んでいた。
アルフォンソ・マンゴーはもうなくなったのだろうと思い、従ってはそれらを買い物かごに入れる。
「ミホ! ここにアルフォンソ・マンゴーがあるよ!」
さすが、夫。狙った獲物は逃さない。
シーズン終わりの安値だろうか。
良質の「プレミアム」ですら、1ダースが600円程度。
他のマンゴーよりは割高とはいえ、しかし安い。
特に日本で、宮崎産マンゴーなどを目の当たりにしてきた直後のわたしにしてみれば。
これが最後のアルフォンソ・マンゴーになるかもしれないと思いつつ、購入。
ところで日本へ発つ前、ムンバイ宅へ来てくれていた義姉スジャータとラグヴァンと共に、ここへ買い物に来た。
そのとき、ささやかながらも大いなる発見があった。自分の買い物のスタイルが「パターン化」していたことに気づいたのだ。
仕事のこともあり、買い物に出る際には、比較的店内をこまめに探索する癖がついていることから、店内の商品構成については大まかながらも把握している。
問題は、自分が購入する商品のことだ。
わたしはオリーヴオイルなど、インド産が入手できないが日常でどうしてもほしいものに限り、輸入物(加工食品)を購入する。あるいは、ちょっとおいしいチーズやオリーヴを食べたい、という衝動が起こったとき「特別感」を込めて、輸入物を買う。
しかし、たいていはインド産で間に合わせているし、間に合っている(ちなみにリンゴやキウイなどの果物は、輸入物も購入している)。
輸入物は、割高だ。あたりまえだが、米国や欧州で気軽に買えていたものが高値になっているのを、あまり積極的に買おうとは思わない。加えてフードマイレージ云々の問題も脳裏をよぎる。
値段が高い上に、海越え山越えやってくるうちに食べ物としての力も鮮度も落ちているに違いないという先入観がある。ともあれ、地場ものを購入するのが基本だ。
一方の、スジャータとラグヴァン。極めてシンプルなライフスタイルの彼らだが、食べ物にかける情熱は、淡々としていながらも、強い。
あの日彼らは、わたしが普段、素通りするところの欧州産のハムやチーズのコーナーの前で商品を吟味していた。店員に勧められるがまま、細切れを味見をしている。
それを見つけたアルヴィンドが加わる。わたしも加わる。4人でもぐもぐと口を動かしながら、
「これ、おいしい!」
「あ、これはお弁当のサンドイッチにいいね」
などと意見を交わし合いつつ、あれこれと味見をした。その結果、件の「半額生ハム」を発見し、購入に至ったのだった。実にいい買い物だった。
「高いけど、でも外食するよりは安いしね」
と、さりげなく言うスジャータ。本当に、その通りである。
ちなみにそこには、国産で安価の、かなり美味なるハムも数種類あった。これを知っていたら、もっと早いうちからサンドイッチの具として採用していたのに。
欧州ものと思い込んでいて、興味を示さなかった自分に喝を入れたいくらいだった。それは大げさなのであった。
さて、日本旅から戻って後、スジャータが買ってくれておいた食材を、収納棚に見つけた。そこには、イタリア産のオーガニックパスタソースや、サン・ドライド・トマトなどが並んでいた。
トマトが豊富なインドで、海外のトマトものを買うことなど一度もなかったわたしにしてみれば、はっとする存在感だ。
スジャータは、インドの食には非常に詳しく、地元の市場にも精通している人だから、まさかイタリア産の高価な瓶詰めなどを買うとは想像していなかった。尤も、高価といっても、たかが知れているのだが。
ともあれ、それらはパスタソースにしてみたが、美味であった。
つまり何が言いたいかといえば、自分では柔軟にあれこれと試しているつもりでも、頑な行動が意外にあり、それが盲点となって、よきものをうっかり見逃すことにもなっているかもしれない、ということだ。
人と買い物に行くことがほとんどないわたしだが、自分以外の人の買い物の行動パターンを体験することによって、思わぬ発見があるということに気づいた。
だからといって、人と一緒に買い物をする機会は多分これからもほとんどないと思うので、自分なりに固定化されたパターンを解除して、買い物をしてみようとも思うのだ。
話が無駄に長くなったが、言いたかったのは、例の生ハム(プロシュート)がまだ「半額セール」をやっていたので、購入して本日のランチにしたのだ、という話である。
これが、実においしい。イタリアはパルマで食べたパルマハムを彷彿とさせるくらいおいしいパルマハムである。
適当にトマトを切り、適当にオムレツを作り、パンを焼いて、食べる。蒸し暑ムンバイの一隅に、欧州の空気が漂うかのようだ。
パイナップルもまた、今、たいそう美味である。
ジュースにすると、おいしさ濃厚、格別だ。
美味であると同時に、酵素パワーで消化を助けるのである。
それにしても、だ。
インドに戻って以来4、5日が過ぎ、増量分はこの蒸し暑さで軽減できるだろうと思いきや……。
自分のぴちぴちっぷりに辟易。未だ、身体が重い。
夏バテしてはならないと、
「点滴と同じような成分が入っているのよ」
とスジャータが説明してくれたところのココナツウォーターを毎朝ごくごくと飲み、ニンジンやリンゴのジュースを飲み、がっちり三食を食べ、更には日本土産のカステラなんぞを夫とうきうき食べたり、マンゴーを食べたりとしている身の上。
夏バテをするいとまもない。これはこれで、いいんだろうか。きっといいんだろう。
夕暮れ時、近所の公園を散歩する。せめてヨガ、もしくはウォーキングなど、エクササイズをしなければ。そして明日からは、本腰を入れて、仕事である。がんばろう。