まだ明けてはいないであろうモンスーンではあるが、こうして軽やかに晴れた日があらわれると、気分まで晴れ晴れとする。今日は「漁村臭」も漂わず、窓からは心地のよい海風が流れ込んでくる。
窓辺に立ち、外の様子を眺めていると、ニューヨークに住んでいたころが思い出された。またいつか、あの街に住むのかもしれないし、住まないかもしれない。
ともあれ、なにやら、今日は I'm missing New Yorkである。
誕生日を迎えた朝、5年前に他界した友人、小畑澄子さんが夢に現れた。同じ歳だった彼女はしかし、いつまでも歳を重ねない。そのことが心のどこかにあったのかもしれない。
折に触れて彼女のことを思い出す。彼女と共有した時間はとても短かったにも関わらず、さまざまな形で、彼女は今でもわたしに何らの示唆を与えてくれる。
そんな彼女の存在感が、2カ月前にまた、よりいっそう色濃くなった。彼女の夫であるケヴィンから、5年ぶりにEメールが届いたのだ。
彼女が他界した後、彼とは一度も会わないままだった。そもそも、わたしは彼と親しかったわけではなく、何度か顔を合わせたことのある程度だった。ただ一度だけ、彼女の病について、しばらく話をしたことがあった。
彼女が亡くなって数カ月後、一度電話で話をしたのが最後だったように思う。その彼が、facebookを通してわたしの名前を見つけたらしく、連絡をくれたのだった。
「5年の間、深い悲しみにさいなまれていた」とあった。「彼女の写真を見ることができなかった」ともあった。しかし、「ようやく、彼女のことを書けるようになった。」と記されていた。
彼はジャーナリストである。その彼が、妻の死について、5年経ってようやくペンを執れる心境になったとの知らせに、胸が詰まった。
以来、彼のサイトで、小畑さんの写真や、彼女の日本の家族の写真が、少しずつ見られるようになった。彼女のことがまた、身近に感じられるようになった。
これを機に、わたしも彼女のことを書いた文章を、一カ所にまとめた。またこれからも、少しずつ増やしていこうと思っている。
彼女のことを書いたこの記録を読むと、さまざまに、励まされる。非常に長い記録で、これまでにも何度かリンクをはってきた文章だが、目を通していただければと思う。
■小畑澄子さんのこと About Sumiko Obata (←CLICK!)
5年前に見た夢を、ホームページの『片隅の風景』に写真とともに残していたことを思い出した。その記録を、ケヴィンにも伝えたいと思い、さきほど英訳してメールを送った。短いものなので、ここにも転載したい。
携帯電話(OCTOBER 6, 2004)
桜の花が散るころ、大切な友だちが死んだ。
新緑が芽吹くころ、日本に住む父が死んだ。
そして初夏の風が吹くころ、祖母が死んだ。
* * *
夜明け前。
眠りの中で、わたしは、死んだ友だちと、電話で話をしていた。
彼女の携帯電話に電話をしたら、いつもの声で「もしもし」と彼女が出た。
「久しぶり!」
「元気?」
「相変わらずよ。そっちはどう?」
「結構、居心地いいわよ。あなたのお父さまにお会いしたわよ。おばあさまにも」
「すぐにわかった?」
「うん、全然問題ない。お二人とも、お元気そうだったわよ」
「またこの番号にかければ話せるよね」
「うん」
「また電話するね」
電話できるんだったら、死んでしまった感じがしないな、会えないだけで。
そして、目が覚めた。
地平線の真下に、太陽が潜んでいる時刻はまだ、
夢と現が入り乱れ、
息を潜めて、携帯電話を見つめる。
"Cellular phone."(OCTOBER 6, 2004)
At the time that the cherry blossoms were falling, I lost my precious friend.
At the time that fresh greens were appearing, I lost my father.
At the time that the summer breeze was blowing, I lost my grandmother.
* * *
Today, before dawn.
I was talking on the phone with my friend who had passed away.
I called her cellular phone.
She picked up and said "Hello".
"Long time no talk!" I said.
"How are you?" She replied.
"I am doing well. How about you? How are you doing there?"
"Yes, this place is pretty comfortable. I met your father. Your grandmother too!"
"Could you make them out easily?"
"No problem. Both of them were fine."
"If I call this number, we can talk again, can't we?"
"Sure."
"Great! I'll call you again!"
I thought, if I could call her, I wouldn't feel that she passed away.
Just that we can't meet.
* * *
Then I woke up.
It was the time that dawn breaks.
The moment that the sun was under the horizon, I was in between reality and a dream.
I stared at my cellular phone, and held my breath.
The view at dawn from our home in Washington D.C. /October 6, 2004
夢から覚めて、起き上がった。携帯電話を手に、ふと窓の外を見やれば、朝焼けが地平線を燃やしていた。