日曜の朝。ぐっすりと眠って目を覚ませば、天気予報の通り、窓の外は風雨が激しい。今日を含め実質4日間。5泊6日の滞在につき、晴れるときを、気長に待つとしよう。
わたしたちが、去年の香港旅に次ぎ、今年の旅の目的地をマルタ島に決めたのは、風光明媚なその島がとても魅力的だということで、全員の意見が一致したからだった。無論、みなネット上に浮かぶ写真を見たばかりで、この国の歴史や文化についての詳細については、よく知らなかった。わたしにしても然り。友人らとともに過ごすのが主要な目的であり、観光プランなどは担当メンバーが手配してくれているので、わたしがあらかじめ入念に下調をする必要はなかった。
先週、繁田さんと夕食をとったとき、「マルタって、どこだっけ?」と尋ねられた。「地中海に浮かぶ島。シシリー島の近くだよ」などと話していたとき、彼女が「マルタって、マルタ会談のマルタだよね」という。……ん? 「いや、それを言うならヤルタ会談じゃないの?」「いや、マルタ会談もあるはず!」などと情報が錯綜したため確認したところ、どちらも存在した。
Wikipediaを開いてみる。すると双方に、「ヤルタ会談とは異なります」「マルタ会談とは異なります」との注意書きがある。それを見て、笑い転げる我々。なにがそんなにおかしかったのか今となってはよくわからないが、我々の勘違いを淡々と指摘されているようで、ウケた。
双方の会談には、名前が似ているだけではない、しかし深い関係があった。「ヤルタからマルタへ From Yalta to Malta」という言葉もあるらしい。米ソ冷戦の始まりと集結を象徴する会談でもあったのだ。
ヤルタ会談は1945年2月、クリミア半島のヤルタで行われた。フランクリン・ルーズベルト(米国)、チャーチル(英国)、スターリン(ソ連)による首脳会談。第二次大戦が佳境に入る中、ソ連の対日参戦、国際連合の設立、中欧、東欧における米ソの利害調整などが規定されたという。東西冷戦の端緒になったとされる会議だ。
一方、マルタ会談は1989年、ジョージ・ブッシュ(米国)とミハエル・ゴルバチョフ(ソ連)によって、米ソ冷戦の終結が宣言された会議。
去年、ドイツやチェコを旅した折にも、ゴルバチョフのペレストロイカが、世界にどれほど多大な影響を与えたかを痛感した。1947年の印パ独立以降、1991年の市場開放に至るまで、社会主義的経済政策をとってきたインドにしても然り。44年間続いた米ソ冷戦時代が、この島で完結したというのは、極めて興味深い。
マルタ島は面積が246km²。福岡市が343km²だから(と、ここで福岡を引き合いに出してもわかりにくいだろうが)、だいぶ小さな国である。わたしたちは島の東部沿岸に位置するヴァレッタという首都に滞在している。市街がユネスコ世界遺産に指定されている。1565年にオスマン帝国からの防衛に成功した聖ヨハネ騎士団(のちのマルタ騎士団)の総長であるジャン・ド・ヴァレットにちなんだ都市名だという。
マルチーズ犬の発祥地でもあるらしい。
さらには、猫がたくさんいる島でもあるらしい。晴れた日に、猫らに会いに行きたいなあ……😻
メンバー5名が集っての朝食。悪天候を嘆きつつも、今日の午後は、ミーティングをするのだからノープロブレム、と、互いに言い合いながら、話は弾む。
我々がマルタ島に到着した昨日の午後から今日にかけて、マルタ島は極めて稀有な暴風雨に見舞われた。地中海沿岸の風光明媚な島は、過去の戦いを彷彿とさせるにふさわしい、曇天と、荒れた海に翻弄されるかのようである。
16世紀の欧州において、史上、最も凄惨な戦いの一つとされている「マルタ包囲戦」。オスマン帝国(イスラム教国)が、スペイン(キリスト教国)の支配下にあった宗教騎士団聖ヨハネ騎士団(のちにマルタ騎士団と呼ばれるようになった)と、このマルタ島で絶大なる戦いを展開した。その名残が、この島には随所に残されている。
かような歴史的背景に思いを馳せつつも、暴風雨を持て余す。朝食を終えたわたしたちは、ミュージアムなども閉館しているとのことなので、ショッピングモールへと赴く。そして、なぜか流れでお買い物。その後、ホテルへ戻って、本来は最終日に行うはずだったYPOのフォーラム・ミーティングを行う。曇天時には好適なプログラムである。
ミーティングを終えて、ホテルのバーで飲み、語らう。もう9時に近いから、そろそろ解散か……と思いきや。タフな女子らは、小雨混じりの暴風の中、夜の街へと繰り出すのである。傘すらさせない暴風につき、キャップやフードを被っての完全防備。こうまでしてまで、夜遊びだ。
雨に濡れた石畳は、街灯を反射してやさしく輝き、独特の情景を育んでいる。終日、建物内にいたせいか、冷風すらも心地いい。雰囲気のよいビストロ&バーを見つけて、改めて、飲み、食べる。彼女たちのタフさは、1年前の香港旅ですでに目の当たりにしたので、今回はわたしも、心の準備ができている。何はともあれ体力勝負。雨にも負けず、風にも負けず、転んでもただでは起きないたくましさに乾杯。