🧱昔から好きだった米国の建築家、フランク・ロイド・ライト。しかし実際の建築物をリアルに見た経験は、ニューヨークのメトロポリタンミュージアムにおいて、だけだった。
かつて、東京の「帝国ホテル」がフランク・ロイド・ライトの建築によるものだった……という事実をわたしが知ったのは、確か2015年。ホテル・オークラの伝統的な建築物が取り壊され、大規模な改築がなされるというニュースを知って、関連情報を検索していたときだったと思う。
「もしも、今でも当時のホテルが残っていたら……」と幾度となく夢想した。そして、『明治村』に移築されたというエントランスとロビー周辺だけでも、この目で実際に見てみたいと思っていた。
バンガロールの我々の新居を手がけているのは、Total Environmentというバンガロール拠点の会社。CEO夫妻は建築やデザインを専門にしている自らが芸術家でもある。幾度となく記してきたが、わたしは、バンガロールにおいては、他のどこの物件よりも、Total Environmentのコンセプトが好きで、だからこそスケジュールが遅れに遅れに遅れても、芸術作品のようなものだから仕方がないと、自分に言い聞かせてきた。
Total Environmentの住宅が、フランク・ロイド・ライトやブルース・ゴフらの意匠に影響を受けていることは、もちろん知っていた。故に、家具調度品を選ぶときにも、フランク・ロイド・ライトの作品を集めた写真集や、アール・デコ建築の写真などを参考にしながら、自分なりに育んだ。
フランク・ロイド・ライトが帝国ホテルを手がけたときも、スケジュールが遅れに遅れに遅れて、それはそれは大問題になったという。そのあたりのエピソードを記し始めれば尽きず、割愛。
かつて、打ち合わせのためにTotal EnvironmentのCEOと会った際、彼が信奉しているフランク・ロイド・ライトや、安藤忠雄の話題で、話が弾んだ。折しもわたしたち夫婦が、瀬戸内の直島にて、安藤忠雄が手がけるベネッセハウスに滞在した直後だったこともあり。
かくいうわたしは、建築に関して、さほど詳しいわけではない。あくまでも自分にとって、「居心地がいい」「リラックスできる」「好き」と感じる空間に関心を持っている。その構成要素は、多分、年齢や経験と共に少しずつ変化しているようにも思う。
🧱今朝は、朝食をすませてまもなく、明治村へ向かった。明治村は広いと聞いていたので、歩く覚悟で入場すると、ちょうど村内を巡るバスが出発するところだった。
まずはそれに乗り込み、一番奥にある「帝国ホテル/ライト館」へ。
幾度となく写真で見てきたそのエントランスを見て、感極まる。想像していたよりも、そのエントランスは小さめで、ロビーも圧迫感がある。それは、日本の伝統建築に影響を受けていたフランク・ロイド・ライトが、日本の茶室の躙口(にじりぐち)に着想を得た作りだともいわれている。
控えめな光のやや窮屈な場所を通過して、カーテンの向こうに足を踏み入れるや目に飛び込む広々としたホールの空間! その新鮮な驚きこそが、帝国ホテルのライト館の魅力のひとつでもあったろう。
わたしはすでに、過去を再現したコンピュータ・グラフィックの映像などで、ヴァーチャルには体験していたので、脳裏でそれをイメージできたが、しかし、それを見ていただけに、この入り口だけしか見られないことに、不完全燃焼の無念さを覚えた。
一隅のカフェでコーヒーを飲みながら、現実と空想の狭間を脳裏で旅する。
「帝国ホテル/ライト館」が開館した日。それは折しも関東大震災が起こった日だった。ゆえに、明治村内では、「東洋の宝石」というタイトルでの特別展も開催されていて、そちらにも足を運んだ。関東大震災の日、多くの家屋が倒壊した中、頑丈な「ライト館」だけは無事だったことから、人々の避難場所になったことや、いくつもの会社の臨時のオフィスとしても使われたことがわかった。
当時、ホテルを利用した著名人や作家のエッセイやコメントなども賛否両論で興味深い。そんななか、取り壊されるときには、反対運動が起こったこと、また出来たばかりだった明治村(1965年開村。わたしと同じ年)が、移築を受け入れるか否かなど、当時のドタバタが伝わる新聞記事も興味深かった。
衝撃だったのは、取り壊されるからということで、4000点にものぼる館内の家具調度品類が、百貨店にて、わずか2日間のあいだに、二束三文で大放出されたということ……と書き始めれば尽きず。
明治村には他にも見どころがたくさんあり、都合3時間余りを過ごした。その後、今度はバスで犬山駅まで向かい、そこから歩いて城下町を散策、その後、犬山城の天守閣にのぼるという濃い1日を過ごした。せめて写真だけでも、引き続き、残しておこうと思う。
以下は、『深海ライブラリ』ブログに残したフランク・ロイド・ライト関連の記録。
🧱フランク・ロイド・ライトと旧帝国ホテル。そして東京裁判、LOVE IN TOKYOなど。
https://museindia.typepad.jp/library/2021/11/tokyo.html
🌳フランク・ロイド・ライトからジョージ・ナカシマ。日本と米国、そしてインド。繋がる系譜。木の温もり。
https://museindia.typepad.jp/library/2021/10/nakashima.html
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