👘わたしは、着物に縁遠い人生を送ってきた。子どものころ、七五三やお正月などに着物を着たり、夏祭りに浴衣を着たことはあったが、それは数える程。もちろん、着物の布の種類や品質について、思いを馳せるようなことはなかった。
わたしが成人式を迎えたバブル経済の時代、数百万円もする豪華な振袖を着る人が大半だったが、わたしは「振袖はいらないから、米国に1カ月、語学留学するための資金援助をしてほしい」と親に頼んだ。1ドルが250円以上だった時代。アルバイトをしても、自分で留学費用を捻出することはできなかったのだ。
先日も記した通り、浴衣でさえ滅多に着ておらず、タンスの肥やしになっていた。しかし、一時帰国の前の日本のイヴェントで、浴衣を着たときに周囲に褒められ、非常に気を良くした。
インド人に対して日本を伝える機会が増えている昨今。浴衣のヴァリエーションを増やしたいと思い、今回の帰国時には購入しようと決めていた。
とはいえ、今は浴衣が売られている季節ではない。一昨日、一年中、浴衣販売をしている中洲川端の店に赴いたが、あいにく定休日だったことはすでに記した。しかし、どうしても諦めきれず、昨日は、福岡市内の天神にある、昔ながらの繁華街である「新天町」へと赴いたのだった。
👘新天町にある老舗、まるきん呉服店「今昔きもの 緊縮屋」。この店の前は、これまで何度となく通過したことがある。しかし、店内に入るのは、今回が初めてだった。
店に入った瞬間、「なんという宝の山だ!」と、心が沸き立った。
ホームページの案内を抜粋するに、「加賀友禅や本場結城紬、本場大島紬などのきものを着用・未着用にかかわらず、驚きの価格で販売しております。」とある。
インドでサリーに出会って20年余り。これまで、数えきれないほどの店を訪れ、数えきれないほどのサリー(布)と触れ合ってきた。眺め、触れ、纏い、布の魅力を吟味する。知らず知らずのうちに、布に対する審美眼が養われていた。
日本の絞りや紬、織り、染め……さまざまなテキスタイルの伝統的な技法が、インドから中国大陸や朝鮮半島を経て、日本にもたらされた。仏教とともに伝来した布の歴史もまた深く、綴るに尽きない。
👘思い返せば、先日の日本食のイヴェントの前日、運営に関わっていた友人のYashoからの電話がきっかけで、わたしは浴衣を着ることにしたのだった。実は、イヴェントの前に他のミーティングが入っていたので、普通の服で出席するつもりだった。
しかし、Yashoが、買ったばかりの日本の羽織(総絞り)を着るから、美穂も日本ぽいサリーを着たら? と勧められた。しかし、サリーはすべて新居においていて、そのとき旧居にいたわたしは、取りに行く余裕がなかった。そのとき、閃いたのだ。「浴衣を着よう!」と。
それから、久々に浴衣を取り出し、Youtubeで着付けを復習し、帯の結び方を覚えた。そしてあの日は、ミーティングを終えた後、自宅に戻る時間の余裕がなかったので、ホテル内の広めのトイレで(幸い鏡も付いていた)、浴衣を着たのだった。
そのYashoから、もしも日本でヴィンテージの羽織があれば、わたしの分も買ってきてと頼まれていた。
👘絞りや京友禅の羽織が、信じられないような値段で販売されている。まずはそれらを3枚購入。浴衣はないとのことだったので、どうしたものかと迷ったが、お店の女性が「浴衣をきちんと着られるならば、帯の結び方を練習すればいいだけだから、着物も大丈夫ですよ」と気軽に言ってくださる。
これはもう、「着物を着なさい」という神の啓示だと思い、着物を買おうと決めた。すんばらしい総絞りの着物や、友禅の留袖などが、「いいんですか?!」というような値段で売られている。幸い、身長166センチのわたしにもちょうどいいサイズのものがあった。
帯もまた、よりどりみどり! しかも全体に値段がお手頃。しかし、その玉石混交に、とてつもなく豪華な西陣織の「玉」が紛れていて、興奮が高まる! その場でYashoにヴィデオ・コールし、写真を送る。彼女も非常に興味を持っていて、今すぐにも飛んできたいような情熱だ。
帯の長さは4メートル。半分に切って、テーブルのセンターランナーにも使える。贅沢すぎる使い方だが、タンスの中にあるよりは、愛でられる方がはるかにいいだろう。
わたしが何枚か送った写真の中から、彼女が選んだのは、そこにある中でも最高級クラスの帯。さすがYasho。写真越しでもそのクオリティの高さを見抜くことができるとは敬服だ。
わたし自身、サリー選びで培った審美眼が、着物選びに役立った。さらには去年、「京友禅サリー」のプロモーターを務めたことで、京友禅の世界を学び、半年前の京都では、西陣織を目にし学ぶ機会もあった。そんな経験すべてが、役立っているようでうれしい。
かくなる次第で、着物2枚、帯3枚、羽織3枚。それらを、信じられないような価格で、購入できた。これらは、インドのテキスタイルとサリー講座をする際に、「インド発祥だが、日本にて昇華した芸術」として紹介できる。
重い着物を携えつつも、心は浮き立つ。さて、今後はYoutubeで「着付け特訓」をせねばと思いつつ、帰路に着いた。
……そして着物にまつわる話は、ここでは終わらない。先ほど、衝撃的な発見があった。それはまた、次回、記す。
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