🗽ホテルを出て、朝日に眩く照らされるビルディングを眺めながら歩く。やはりマンハッタンを思い出す。東京で最初の約束は、元ミューズ・クリエイションのメンバーだった陽子さんとかす美さんとのブランチだ。
2012年から2020年にロックダウンになるまでの8年間、のべ228名が在籍し、ともに活動した。大半のメンバーとは、音信が途絶えてしまったが、今でも折に触れて連絡を取り合う人たちや、わたしのソーシャルメディアでの発信を読み、近況を知ってくれている人もいる。
二人とは、去年の一時帰国時にも、上野でご家族共に会うことができた。しかし今回は、二人とも「単身」。待ち合わせの場所は東京駅前のサラベスだ。陽子さんが候補で選んでくれた店から、わたしがここをリクエストした。サラベスは、我がニューヨーク時代を思い出させてくれる愛着のある店のひとつなのだ。
🗽今回の我が一人旅は、まさに「羽根が生えたような気分」で身軽に動いている。夫との旅には、ふたり旅のよさがある。しかし、四六時中、行動をともにするのは、普段から「自分のスペース」を尊重しているわたしにとってタフでもあり。
ゆえに今回は「筋肉養成ギプスを外したあと」のような軽やかさなのだ。それは、陽子さんとかす美さんもそうだった。陽子さんは双子のお嬢さん、そしてかす美さんも、二人のお嬢さんがいる。しかし、こうして身軽な姿で会うと、彼女たちが「お母さんになっている」ことを忘れ、初めて会った日のことを鮮明に思い出す。
かす美さんいわく、「ちょうど、10年前の今日、わたしインドに行ったんです!」とのこと。
……10年!
ミューズ・クリエイションのメンバーとしては当時、最若手な新婚さんだったかす美さん。メンバーそれぞれの「出会った当初」の印象が強く脳裏に刻まれていて、歳月の流れを感じさせない。近況などを語り合い、ふたりはきらきらと美しく、元気な様子がうれしい。
ところで、二人が注文したのは、サラベスの人気メニューのひとつであるエッグ・ベネディクト。約25年前、ニューヨークで初めて食べた時の感動を思い出す。ちなみにわたしは、ヘルシー系なブッダ・サラダ🥗を注文。話は尽きず、時間は瞬く間に流れ、また来年の再会を約束して、手を振ったのだった。
🗽わたしが個人的にサラベスへの思い入れが強い理由は、1998年、日本の雑誌の仕事で創始者であるサラベス・レヴィーンご自身を取材したことがあるからだ。1996年にニューヨークへ移住し、数カ月後にアルヴィンドと付き合い始め、1997年に同棲開始。わたしは日系の出版社で現地採用として働く傍ら、Muse Publishing, Inc.を起業した。
1998年、最初に受けた日本からの仕事が、このJCBカード情報誌「CARDAGE」のニューヨーク特集だった。当時、アッパーウエストサイドのブランチ店が人気で、“Good Enough to Eat” や、この“Sarabeth’s”ほかパンケーキ専門店などは、週末の朝、長蛇の列ができていた。
わたしの生活拠点もまた、アッパーウエストサイドだった。アルヴィンドとは、フレンチトーストやエッグベネディクト、ワッフルなどを食べに、人気店へよく出かけたものである。
🗽“Sarabeth’s”は、そもそも「オレンジ・アプリコット・マーマレード」を売る店として1980年代に開業していた。サラベスが祖母から受け継いだレシピで作ったジャムだ。これが本当においしくて、かつてはニューヨークへ行くたびに買っていた。
やがて、“Sarabeth’s”は、料理も提供するようになり、人気店に成長した。
“Sarabeth’s”が飛躍的に成長する契機になったのは、ちょうどわたしがこの雑誌を取材した1998年ごろだ。オープンしたばかりの「チェルシー・マーケット」店にて、オープンキッチンとカフェを開店。写真はそこで撮影したものだ。元ナビスコのビスケット工場を改築して作られた「チェルシー・マーケット」は、当時、画期的なコンセプトで話題を集めた。
彼女は仕事に対して真摯に厳しい人だった。「おばあさんのレシピ」といえば、ほんわかした印象だが、全く違う。キッチンで働く人たちへの厳しい指示、睡眠時間を最低限にして激務に徹する彼女は、タフなビジネスウーマンだった。
一方で、彼女は「祖母から受け継いだ」という小さなメモ帳をパラパラとめくりながら、レシピの確認をする。モダンなキッチンと、小麦粉のついたメモ帳とのギャップが、印象深く心に残っている。
🗽現在80歳のサラベス。きっと今でもお元気で、キッチンに立っていらっしゃることだろう。
……と気になって、今調べたところ、なんと!
今月初旬に来日され、この東京店にて開催されたイヴェントに出席されたとのこと! いやはや。お元気そうで本当にうれしい。
ああ、New York In My Mind…..!!
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