一週間が瞬く間に過ぎて行く。
正体不明の心持ちのまま、7月に流れ込み、8月になって、年を重ね、9月が来て、引っ越しだなんだで年末が来て、2006年は終わるのだろう。
週に一度のアーユルヴェーダのマッサージ。朝、施術師に来てもらい、1時間半、頭の先から、足の爪先まで、オイルをすりこんでもらう。ヘッドマッサージのおかげか、髪が伸びるのが早い。と思っていたが、単に然るべき月日が流れ去っていただけのことだったようだ。
今日は、毎週木曜日の午前中、The Leela Palaceのライブラリーバーで行われている、OWCの会合に参加しようかとも思ったが、マッサージのあと、外出するのが億劫になり、ホームページの新たなレイアウトなどを考える。
文章を書くこと、デザインを考えること、写真を加工すること、インターネットで情報を得ること、メールを書くこと、会計処理をすること……作業の内容はまったく異なるのにも関わらず、すべてが「コンピュータ」の上で行われることに、未だに抵抗を覚えている。
さて、オフィスの夫から電話があり、来週はまるまる1週間、ムンバイ出張なので一緒に行こうという。この間、行ったばかりで、さほど気が進まないのだが、でもせっかくだから行こうかと思う。
その後、エミさんから電話があり、ランチに誘われたので、久しぶりにパークホテルのI-taliaへ行く。
前菜にマッシュルームのソテー、主菜にアスパラガスとチキンのリゾットを注文した。そのリゾットは、「夕べの残りのシチューに、御飯を入れて温め直しました」という味だった。
それは、おいしいようでもあるし、果たしてこれでいいのか、というようでもある。
帰りにコマーシャルストリートへ寄る。頼んでいたサリーのブラウスは、いい感じに仕上がっていた。いつも歩くコマーシャルストリートの、一本脇に入った路地を歩いてみる。
わずか数十メートル離れるだけで、日常になりかけていた街の風景が、たちまち異国に変わる。たとえ半年が過ぎたとしても、やはり旅するような日々であり、旅人の心境になれることが、無性に楽しい。
小さなカメラと、履きやすい靴とで、どこまでもどこまでも、歩いて行けるような心持ちになる。
束の間の旅情を打ち破るは、携帯電話のメロディー。夫からだ。
「ミホ、まだ来ないの? 今日はオフィスに来るって言ってたじゃない」
ひとりで仕事をするのはどうにも気分がのらないという夫のために、わたしは週に1、2回、彼のオフィスへ「出向する」と約束したのだ。
オフィスはパーティションで仕切られた2つのデスク、それから小さなミーティングルームがある。わたしが行っても、十分にスペースはある。
オフィスに到着した途端、夫が言う。
「さっき、香港本社から電話があって、来週、来ないかって言われたんだ。ムンバイの打ち合わせの件があるから、明日の朝、正式に返事をすることにしたけど、どう思う? ミホも行く?」
「ムンバイの打ち合わせが急ぎでなければ、香港に行った方がいいと思うよ。もちろんわたしも行くよ!」
そんなわけで、来週は急遽、香港行きとなった。ムンバイ行きには乗り気じゃなかったわたしだが、香港となると話は違う。おいしい点心を食べたい。日本食もたっぷりだ。久しぶりに刺身だ。日本米を買って帰るのだ。重量制限を綿密にチェックするのだ。
と、なぜか食べ物のことばかりを、考えている。
夫は一人、ホワイトボードにあれこれを書き出し、脳内を整理している様子。
それだけでは飽き足らず、わたしにプレゼンテーションをし始める。
その様子は、とても滑稽ではあるかもしれないが、ただ直裁の、感情の露出である。それをわたしは伴侶として、受け止めるべきであろう。
インドオフィスを開設する第一人者である。意義のある任務であると同時に、責任は重いし、煮詰まるし、ときには不安にかられるだろう。
大いなる変化の渦中にあるこの国で、しかし、新しいことを始められることの、その沸き立つような精神高揚を、それを経験できることを、彼はきっと、ありがたく思うべきだと、わたしは思う。
自分を発揮できる場を得られるということの、その大小に関わらず、"Mission"(使命、任務)を遂行できることの、いかに幸運なことか。
わたし自身もまた、自らの役割を果たしに、この国に来たはずである。その、自らの役割の所在を見極められるまでは、今しばらくは、夫の傍らで、この国になじんでいこうと、ときには焦燥を覚えながらも、今は旅をしている。