荷造りは、ほとんど完了。最後の最後まで悩んでいるのは、日本の気候。この時節の日本を訪れるのは十年以上ぶりである。なんだか、よくわからないのである。
皆が「寒いから、温かい服を」と言ってくれるので、レザージャケットでは足りぬだろう、ダウンジャケットか、コートか、と思案しつつ、インターネットにて東京の気温を見てみるが、摂氏10度前後と、さほど寒そうではない。
そもそも寒い季節が苦手だったが、ニューヨークやワシントンDCの極寒に慣れたせいか、寒いと言えば氷点下、なのである。
でも、急に寒くなられると困るから、コートを持って行こうかと思う。しかし、持っているコートは、かつて米国で購入した超ロング丈、袖と首にファーのついたものしかない。
何かと流行に敏感な日本にあって、「浮く」のではなかろうか、との懸念もある。
浮く浮かないはさておき、寒くもないのに暑苦しい服装はやはり、おかしいかもしれない。どうしたもんだ。悩みのたけを綴り、東京の方に問い合わせたところ、
「レザージャケットとセーター、ストールで十分かも。超ロングコートはいらないです。込んだ電車のなかで、気分が悪くなりますよ。」
と的確なメールをいただいた。
わたしゃすっかり忘れていた。東京では込み合った電車に乗らねばならないことを。地下鉄の階段を上り下りせねばならないことを。インドとは違った種類の喧噪に身を置かねばならないことを。
優雅にコートの裾を翻して歩いている場合じゃなかった。
マダム、耐えられるんだろうか。身の引き締まる思いで荷造りを締めくくる。
それにしても、出発前に大掃除だの洗濯だの、「ランチ&ディナー合計24食分を作り置き(冷凍)」だの、夫への家事の伝授など、ややこしいことをせずにすむのがたまらん。
先ほど義父ロメイシュから「楽しんでおいでね」と電話。義継母ウマは、「あら、2週間に満たないの? 短い休暇ね」と我が心中を察してくれる。
スジャータからも「来週は、なるたけアルヴィンドと食事をするようにするから」と気遣いを見せてくれる。家族のありがたみをひしひしと感じるのである。
それにしても、だ。ハニーがふてくされてはいけないので、あまり大きな声では言えんが、今回の日本行き、「超楽しみ!!」なのだ。
1996年に日本を離れて以来。
97年:ストレージルームに預けていた荷物を引き払いに東京、福岡へ。
98年:アルヴィンドを連れて東京、富士山、京都、福岡を新幹線旅。
00年:父の肺がん発覚で、福岡に一時帰国。
02年:『街の灯』出版記念で夫とともに、東京、京都、大阪、福岡へ。
04年:父の他界に伴い、福岡へ、一時帰国。アルヴィンドも合流。
05年:母をカリフォルニアへ招くためにお迎え。東京、福岡超短期帰国。
と、相変わらず復習好きな我ではあるが、復習してみるに、いかに今回の旅が「貴重な2週間」であるかが再認識できる。
なにしろ、一人である。なにしろ、確固たる目的がない。
今回は、きっちりと予定を詰めないようにした。東京では仕事の関係者にお会いするのを最優先し、何人かの友と会い、空いた時間は、ひとりで街を歩こうと思うのだ。
十年を経てようやく、東京を、旅する目で見られる気がする。
福岡では、ひたすらのんびり。温泉が楽しみ〜。る〜らら〜。
食べ過ぎんごとせな。