今朝は、ストリートチルドレンを現状を知るべくOWC主催の講演会に出席した。この2年間、あえて足を踏み込まなかった世界に、このところ積極的に関わるようになり、実情を知るにつけ、打ちのめされる。
話を聞いていちいち感情的になるのでは話にならない。まずは自分自身に、直視できるだけの免疫力つけて、この実態を理解するべきだと思わされた。
講演会で聞いた話の要点は、後日簡単にまとめ、この場でも紹介したいと思う。
* * * * *
さて今夜は、キルロスカ・グループ(財閥)のエグゼクティヴであるヴィクラム・キルロスカ氏の邸宅へと赴いた。
現在、MIT(マサチューセッツ工科大学)の学長はじめ関係者の視察団が、デリー、バンガロールの二都市を訪れていることから、MITの卒業生であるキルロスカ氏が、視察団及びバンガロール在住のMIT同窓生や関係者を招いてのパーティーを企画してくれたのだ。
ヴィクラム・キルロスカ氏は、トヨタ自動車との合弁会社であるトヨタ・キルロスカ・モーターやトヨタ・キルロスカ・オートパーツ、豊田自動織機との合弁会社であるキルロスカ トヨダ テキスタイル マシナリーといった企業の重役でもあり、日本との関わりも深い。
奥さんのギータンジェリや、キルロスカ社員の夫人の方々は、日本人女性からなる「さくら会」を通して、日印文化交流を企画支援してくださっている。先日のサリーの着付け講習や、インド文化のレクチャーもその一環だ。
さて、市街から離れたコロンビア・アジア・ホスピタルに隣接する広大な敷地に、完成したばかりだというその邸宅はあった。聞けば、キルロスカ夫妻はまだこの新居に引っ越しておらず、今日がここで行う初めてのパーティーなのだとか。
約40名ほどの参加者が、まずは中庭でグラスを片手に歓談。しばらくののち、音楽会が開かれた。著名なシタール奏者、Ravi Shankar(ノラ・ジョーンズの父)に師事したというRadhakrishnaを中心に、タブラ(太鼓)奏者と、タンブーラを奏でるRadhakrishnaの娘3人による演奏だ。
演奏前、シタールという楽器について、Radhakrishnaが説明をしてくれた。丸みを帯びた部分は「カボチャ」でできているとの話には驚いた。
それにしても、演奏のその、すばらしさ!
今までもシタールの演奏を耳にしたことはあったが、たとえばそれは結婚式会場の片隅だったり、インド料理店の一画だったりと、あくまでもBGMとしてであり、その音色に専心して聞き入ったことはなかった。
シタールとは、旋律を実現するための、道具としての楽器ではない、と感じた。
楽器の特性を存分に堪能させるために、旋律が存在する、という印象を受けた。
間断なく音色を奏でることで、場の雰囲気を創造する「脇役としての」楽器だというタンブーラの音が、シタールの音色と絡み合い、溶け合い、聞き分けられないのを聞き分けてみようとするが難しく。
タブラの上を、まるでコブラが這うように、独特の巧みさ、機敏さで動く太鼓奏者の手つきもまた印象的だった。
煌煌と輝く満月の下、すばらしく贅沢なひとときであった。
演奏会のあとは、数名の方々のスピーチ。
まずは話題の書、"INDIA AFTER GANDHI"の著者であるラマチャンドラ・グハ氏。
まるで辞書のように分厚い左の写真がその本だ。
片手で持って読んでいたら、腱鞘炎になりそうなほどの重量感である。
数カ月前、WHARTON同窓生の集いで、主宰者のマニシュが「すばらしい本だ」と力説していたので、早速アルヴィンドは購入したのだが、まだ読んでいない。
わたしも、もちろん読んでいない。
次に紹介されたのは、キルロスカ氏の親戚であるところの作家ラヴァンヤ・サンカラン。昨今の、変貌目覚ましいバンガロールの実態を描いた"THE RED CARPET"という本を出版しているとのこと。
この本は、読みやすそうだ。内容もかなり興味深い。近々購入しようと思う。
それからMITの学長、スーザン・ホックフィールドの挨拶。MITの学長としてインドを訪れたのは、自分が初めてであることを強調していた。MITとインドとの関わりの重要性を語りながら、"for India"でも、"to India"でもない、"with India" の姿勢で、今後、インドとの協調を図るべく努力をしていきたいとのこと。
視察団にはこのほか、コンピュータサイエンスの第一人者であるアルヴィンド氏の姿もあった。我が夫と同じ名前である。挨拶を交わしたところ、東大で教鞭をとっていた時期があったらしく、非常に親日的な方であった。
「僕は、日本の文学が好きで、川端や谷崎に関心があるのです」
とのこと。
何人かの人たちと、今夜も言葉を交わしたが、印象的だったのは、インド人として初めて宇宙へ飛び立ったという、元宇宙飛行士のラケーシュ・シャルマ氏。
1984年。彼が35歳のとき、ソビエト連邦にてソユーズに搭乗し、地球を離れたという。
宇宙へ行った人と言葉を交わすのは初めてのこと。アルヴィンドもわたしも、興味津々だ。
気の利いたことを尋ねればいいのに、三半規管の弱いわたしは、無重力状態が体調に及ぼす影響についてが気になる。無重力状態は、最初こそ不自然に感じるものの、1日たつと慣れてしまうのだとか。もちろんトレーニングの賜物であろうが。
食欲なども地上にいるときと変わらないのだという。
三半規管の鍛え方についても興味がある。尋ねたところ、フレンドリーな彼は、丁寧にゼスチャーまじりで教えてくれるのだった。
ぐるぐると回り続ける椅子に座り、じわじわと頭部を前後左右に揺らす。ぐるぐると回り続ける状態に慣らしていくと、三半規管が鍛えられるらしい。
想像するだけで、頭痛がしてくる。
そんなこんなでわずか3時間の間、音楽を聞き、おいしい食事を味わい、多くの人たちと言葉を交わし、実に楽しいひとときであった。
こういう会合に参加するといつも思う。わたしはアルヴィンドと結婚をして、自分ひとりの力では絶対に出会う機会を得られなかっただろう人たちと出会うことができ、本当に幸運だということだ。
米国時代から十年余り。彼の家族や親戚はもちろんのこと、彼の母校やかつて勤めていた会社関係の人たちなど、彼のネットワークを通して学び続けていることは筆舌に尽くしがたいほど多い。
「君もMITの同窓生?」
と尋ねられるたび、そうだったらよかったんだけど。と思わないでもないが、たとえ誰も知らない梅光女学院大学卒業生であったとしても、伴侶次第で自分の世界が何倍にも広がると思うと、結婚というのはいいものだ、と思う。
そもそも、今、インドに住めている、ということそのものからして、アルヴィンドと出会ったおかげにほかならないのだけれど。
ま、いろいろあるけどね。
ところで、今日、福岡の妹からアルヴィンドとわたしへ、お誕生日プレゼントが届いた。
わたしたちの誕生日は、いったい何月なのだ。
という話はさておき、夫へのプレゼントはネクタイ。
ニューヨークで新調したシャツの1枚とよく似合う。
早速今夜、身につけていった。
ありがとう、あゆみ!