約5メートルの一枚布を巧みに身体に巻き付けて着こなす、シンプルながらも華やかなインドの民族衣裳、サリー。絹や綿、絹と綿の混紡など、布の種類にはじまり、織り、 染め、 刺繍、紋様など、産地や品質によって無限とも思える選択肢があるサリーは、インドの多様性を象徴するような衣類だ。
20年前、デリーで結婚式を挙げるときに初めて着用したとき、わたしはインドのテキスタイル とサリーに心を奪われた。
2005年にインドへ移住してからというもの、米国では「ジーンズにTシャツ」が定番だったわたしが、ことあるごとにサリーショップや展示会へ足を運び、気に入ったものを購入してきた。
一方、サリーを着用する人たちは減少するトレンドで、結婚式や祝祭など「ハレの日」以外は、着用の機会が少ないのも事実。我がインドの友人たちも、ほとんどサリーを着ることがない。
そんな中、『インドのテキスタイルとサリー講座』を不定期に開催し、ミューズ・クリエイションのメンバーたちをサリーのショッピングに案内したり、サリーを着てのランチ会などを実施してきた。
伝統工芸の継承が困難と思える一方で、官民各種団体が、手工芸を守るべく活動も行っている。
昨日は、友人のデヴィカに教わった若者起業家によるテキスタイル文化の潮流を紹介したが、今日は実際にサリーを愛好する女性たちが集ってのイヴェントに参加した。
新居向けの家具を調達すべく、このところ何軒もの家具店を巡ってきたが、その中の一つ、Vermilion Houseのことは先日も記した。オーナーのウマとプルヴィによる催しだ。
インドのテキスタイルのプロモーター/キュレーターでもあるプラサド・ビダパ氏やYPOのメンバーでもある知人、ジョティカが登壇。
その後、ヴィネイ(Vinay Narkar)による話を聞いた。マハラシュトラ州における伝統的なサリー、中でもナーグプルの「マラタ・コミュニティ」で受け継がれてきたサリーについての話であった。
アジャンタ&エローラ遺跡の観光拠点の町、アウランガバードには、パイタニ(PAITHANI SILK)と呼ばれる、2000年以上の歴史を持つ有名なテキスタイルがある。パルー(ひらひらとたなびく部分)にクジャクが織り込まれているのが特徴だ。
ヴィネイは、それ以外にも古来インドにはすばらしい手工芸が残されていたことを「研究」し、それを「再現」、「継承」するという試みを行なっている。
中でもチャンドラカラ(Chandrakala)サリーについての説明が興味深かった。
伝説、神話などの「書物」や、古くからの音楽の「歌詞」、あるいは「絵画」の描写から、古来のサリーの意匠を検証し、復元、復興させるのである。現存するヴィンテージ・サリーもまた。
ナーグプルといえば、佐々井秀嶺上人がいらっしゃる南天龍宮。龍樹(ナーガルジュナ)とアンベードカルゆかりの土地。わたしが再訪を望んでいる場所でもある。今日、お話を聞いているうちにも、ナーグプルの工房をも訪れたいとの衝動に駆られる。
ちなみに、文字が織り込まれたサリーは英国統治時代のチャンデーリー(Chanderi)サリーにも見られる。サンスクリット語で書かれた大地礼賛の歌(やがてタゴールによって読まれ、インドの国民的な歌となった)であるヴァンデ・マタラム(Vande Mataram)の文字が織り込まれたものなども。
……と、書きたいことは尽きぬ。サリーについてもまた別途、『深海ライブラリ』ブログなどに整理したいと思うがいつになることやら。
さて、わたしが本日着用しているのは、10年前にムンバイのサリー専門店で購入したバラナシ・シルクのサリーだ。
会う人、会う人、褒めてくださってうれしい。これは動物の柄が珍しい上、ほかに見ないものだったこともあり購入した。
インドに生息する象や孔雀、虎、オウムなどの動物がモチーフになっていて、とてもかわいらしいうえ、適度な厚みがある一方で涼しく軽やか、着心地がとてもいいのだ。
その後、会場では商品(作品)の販売会となる。かなりの混沌ぶりにつき、わたしは購入を控えたが、別の機会に、黒地(夜空)に星と月が織り込まれたサリーを選びたいと思う。
◉ヴィネイ(Vinay Narkar)に関する記事
➡︎https://www.thehindu.com/life-and-style/fashion/vinay-narkar-revives-two-traditional-weaves-of-maharshtra-that-had-faded-into-oblivion/article33058520.ece
◉チャンドラカラ(Chandrakala)サリーについての日本語記事もあるサイト
➡︎https://artsandculture.google.com/exhibit/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89%E3%82%92%E8%B1%A1%E5%BE%B4%E3%81%99%E3%82%8B%E3%83%89%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%97%E3%80%81%E3%82%B5%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%81%AE-15-%E3%81%AE%E3%83%90%E3%83%AA%E3%82%A8%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3-chhatrapati-shivaji-maharaj-vastu-sangrahalaya/YwIiJhNY4glTLQ?hl=ja
◉プラサド・ビダパ氏/バンガロール拠点のファッションスタイリスト、テキスタイルのキュレーター
➡︎https://en.wikipedia.org/wiki/Prasad_Bidapa
🇮🇳魅惑のヴィンテージ。インド古来の美を映す、麗しき家具や伝統刺繍に嘆息。
➡︎https://museindia.typepad.jp/2021/2021/08/vermilion.html
🇮🇳ムンバイにて「ワクワク動物ランド」なサリーを購入した時の記録(2011年)
➡︎https://museindia.typepad.jp/2011/2011/07/mumbai.html
🇮🇳[Ajanta]1500年以上を遡る旅。石窟内に広がる仏教世界へ。(2011年)
➡︎https://museindia.typepad.jp/2011/2011/02/ajanta.html
🇮🇳[ELLORA] 岩山に刻み込まれた、三つの宗教のかたち。(2011年)
➡︎https://museindia.typepad.jp/2011/2011/02/ellora.html