🥻約5メートルの一枚布を巧みに身体に巻き付けて着こなす、シンプルながらも華やかなインドの民族衣裳、サリー。インダス文明の時代から数千年の長きに亘り、サリーはインド亜大陸に暮らす女性たちの身を包んできた。
絹や綿、絹と綿の混紡など、布の種類にはじまり、織り、染め、刺繍、紋様など、産地や品質によって無限とも思える選択肢があるサリーは、インドの多様性を象徴するかのような衣類だ。
更には、同じ絹でも、柔らかいもの、滑らかなもの、光沢のあるもの、粗いものなど、数多くの種類があり、値段もピンからきりまで。パーティや結婚式用の豪奢なサリーは、ぎっしりと石やビーズが埋め込まれていて、驚くほどの重量感ときらびやかさ。着こなすのは体力勝負だ。
わたしは2001年7月、デリーでの結婚式で、生まれて初めてサリーを着用したときから、サリー世界の虜となった。以降、サリー専門店はもちろんのこと、工芸品のバザールやシルクマークの展示会などを訪れ、これまで無数のサリーを目にし、触れ合ってきた。
中でも、わたしが最も好きなのは、パールシー刺繍が施されたサリー。
パールシーとはゾロアスター教徒のこと。歴史的背景を記すと長くなるので、ここでは割愛。関心のある方にはぜひ、下記のリンクをご覧いただきたい。わたしは10年以上前のムンバイ在住時に数枚のパールシー刺繍のサリーを購入した。お気に入りのそれらは、以来、幾度も繰り返し着用している。
🥻さて、2012年、パールシーの出自であるAshdeenによって誕生したパールシー刺繍のファッション専門店『Ashdeen』。実は、半年前にデリーに訪れた際、ご縁あって、デリーの店舗で彼と初めてお会いした。更には、今年の1月にデリーで開催した京友禅サリーの展示会に、彼は訪れてくれたのだった。
Ashdeenから、ムンバイのコラバに新店舗を開店したことは、そのときに聞いていたので、次回のムンバイ来訪時には立ち寄るつもりでいた。
LOVEBIRDSで買い物をすませたあと、照りつける日差しのもと、徒歩数分の場所にあるAshdeenを目指す。彼は普段、デリー在住だし、ここにはいないよな〜。でも、彼にお願いしたいこともあるし、直接伝えたいな〜。などと思いながら、ブティックへ向かう階段をあがる。
ここはかつて、別のブティックが入っていた。馴染みの古いビルディングだ。重いドアを開くと、流れ出す涼しい空気、目の前に広がる色とりどりの世界! 一瞬にして、心身が覚醒する。
店内の一隅に視線を移すと……そこにはAshdeen! 偶然にもこの日、デリーからムンバイに訪れ、店に出ていたらしい。なんという偶然だろう。彼はわたしが持っているショッピングバッグの文字を見て、そしてわたしは、彼のシャツを見て、お互いに「LOVEBIRDS?」と口にする。
彼が着ているシャツが、わたしが数分前にLOVEBIRDSで購入したジャンプスーツの色柄に酷似しているのだ。
LOVEBIRDSは、レディスしかなかったはずだが……と思うが早いか、彼は、
「僕もLOVEBIRDS好きで、だけど男性用がないから、これは敢えて作ってもらったんだ」とのことである。かなりの高確率で、好みが一致している模様。二人で撮影した写真を見て、サンダルのデザインもなんだか似ていて、笑える。
🥻デリー店の倍近い広々とした店内。サリーだけでなく、レンガ・チョーリーと呼ばれるブラウスとロング丈のスカート、デュパタ(大判のストール)のセットや、バッグ類などもある。
店内を案内してもらいつつ、半年前にデリー店を訪れたあとに決めたお願いを彼に伝える。還暦の誕生日に、オリジナルの赤いサリー、もしくはレンガ・チョーリーを、作ってもらいたいのだということ。
あと2年あるけれど、あっという間に歳月は流れる。早めに意向を伝えておいて、次回はモチーフなどのデザイン案を彼に伝えられればと思う。一隅のクッションを眺めつつ、やっぱりツルは外せないな……と思いつつ、2年後の8月に思いを馳せる。それまでに、もう少し身体を絞り鍛えたい。
この日は、パーティー用の小さな巾着袋を購入した。サリーにもドレスにも合うかわいらしいデザイン。着物にも合いそうだ。軽いし嵩張らないから、旅行などにも便利。オリエンタルの意匠が本当にすてきな作品(商品)がたくさんで、目の保養にもなる。
デリー店は、GK-1のNブロック、Anokhiの上階にある。ムンバイ店はタージマハル・パレス・ホテルのすぐ近く。バッグ類などは、精緻な手刺繍ながらも、お手頃なお値段。関心のある方は、ぜひ立ち寄られることをお勧めする。
ASHDEEN
https://ashdeen.com/
★ヤズダニ・ベーカリーの壁にも貼られていた絵、羽根のある人物の図柄は、ゾロアスター教のシンボルで「ファラヴァハル(Faravaha)」と呼ばれる。古代ペルシャの美術や建築にもよく見られるこのシンボルには、人物、羽根、輪などそれぞれに意味があるという。
★日本のマツダ自動車の社名は、創業者である松田重次郎の姓と、叡智・理性・調和の神を意味するゾロアスター教の最高神アフラ・マズダー(Ahura Mazdā)にちなみ、自動車産業の光明となるよう願ってつけられたとされている。
⬇︎過去の記録にも、写真をたくさん掲載しています。
✏️Ashdeen。夢のように美しい刺繍……! パールシー刺繍専門店へ。(2022/10/30)
https://museindia.typepad.jp/fashion/2022/10/ad01.html
✏️京都とKYOTOが出合う。Ashdeenを訪ね、パールシー刺繍の歴史や、日本とインドの関わりを知る至福のひととき。(2022/11/03)
https://museindia.typepad.jp/fashion/2022/11/as.html
✏️京友禅サリー/デリーでの展示会を終えて。(2023/01/15)
https://museindia.typepad.jp/fashion/2023/01/kyz03.html
😁先ほど投稿した後、彼のサンダルをよく見たらGUCCI。わたしのバッグもGUCCI。やはり好みが似ている模様。