先週金曜日のACT MUZは、バンガロールで最も古い老舗ジュエリー店、C. Krishniah Chettyを訪問した。過去にも何度か紹介したこの店。我々夫婦は、5代目オーナーのVinodとその妻Triveniとは知り合いだということもあり、昨年オープンしたショップ併設の「クリスタル・ミュージアム」に関する催しやパーティに幾度か参加した。日本人コミュニティでの来訪も歓迎してくれていたので、いつかは……と思っていた。
さて、昨年9月にWhatsAppのコミュニティ機能を利用して再始動したミューズ・クリエイション。このごろは、インターン生はじめ、主に若者(Z世代)にイニシアティヴをとってもらおうと、暫定的に金曜日をACT MUZの活動日にしている。無論、学生の滞在期間は短く、先日は2人を見送ったばかり。今回また、1人が去ることから、最後に訪れたい場所を彼女に尋ね、C. Krishniah Chettyに決めた次第。
他のミューズ・クリエイションのWhatsAppグループで声をかけ、希望者十数名で訪問した。同店の背景は、過去に詳細を記録している。今日は、学生メンバー2名の感想を記載する。
通常、参加者からの感想は、明らかな誤字脱字、事実誤認の校正を除き、そのまま転載している。しかし今回、インターンの入江さんの感想に関しては、彼女の文章力を指導する目的もあり、かなりの加筆修正、校正を加えた。彼女の着眼点や感性はすぐれているが、まだまだ「研磨」が必要である。
たとえライターを志望していなくても、編集者(わたし😼)による文章表現、事実関係の検証、統一表記などの推敲は、将来、何らかの形で役立つはずだ。
★ところで、 インドでは占星術が広く日常生活に浸透していて、宝石と密接に関わっている。自分の生年月日と生まれた時刻、生まれた場所(緯度と経度)から導き出される「守護石」を身につけるのも一般的だ。わたしはかつてムンバイの占星術師に自分の守護石を教えてもらった。最後の写真は、C. Krishniah Chetty専属の占星術師。Vinod曰く、とても信頼のおける優れた占星術師であり、「忌憚のない診断」をしてくれるとのこと。「忌憚なく」というのは少々身構えるが、今度、診ていただこうと思う。
★「クリスタル・ミュージアム」は写真撮影禁止につき、ここでは店舗の写真を掲載している。重厚感あるジュエリーの写真ばかり撮影しているが、小振りで上品なデザインの商品も取り扱っている。
【感想①近々日本へ帰国する学生】
南インドのジュエリーの歴史なども含めて学べるということで、たのしみにしていました。一階のショップエリアでは、煌びやかなデザインのジュエリーたちを見ながらアートを見ているようなワクワク感が止まりませんでした。前回結婚式に呼ばれた際に気になっていた、結婚式用のネックレスなども至近距離で見させてもらえてよかったです。
2階の博物館のエリアでは、どのようにジュエリー会社として成功してきたかなどを知れました。ダイアモンドがはじめに発見されたのがインドだったり、約90%がインドで研磨されていたりと知らないことばかりでした。
何度もみほさんがおっしゃった通り、たくさんの貴重なジュエリーが英国統治時代に国外へ持ち出されていたと言うことを実感すると同時に、インドは改めて資源に富んだ国なんだなと思いました。最初、博物館の中になぜ円形テーブルと椅子があるのだろうと不思議に思いました。見学後、軽食や飲み物を出していただき、オーナーの方がプレゼンテーションをしてくださって、こういうホスピタリティなのだとわかり、感動しました。貴重な機会をいただきありがとうございました!
【感想②インターンシップ留学生/入江真樺】
率直な感想は、すごい、美しすぎる、まさに新世界。私は初めて、何百、いや何千かもしれないジュエリーを目にし、触れ、その背景を知った。これまでジュエリーを買おうと思ったことも、いただく機会もなかったため、予備知識が乏しく、全てが新世界だった。
《ジュエリーショップについて》
●心躍る金のネックレス試着体験
美しい金(ゴールド)のネックレスとピアスを試着させてもらった。それはわたしにとって、とても心躍る体験で、1日たった今も強く印象に残っている。インドの結婚式では、新郎新婦が豪華な装飾品を身に着けることは知っていた。『マダム・イン・ニューヨーク』というボリウッド映画を見て以来、いつかインドのネックレスを着けてみたいと思っていた願いが叶った瞬間だった。想像していたよりも重く、これが「金」なんだと思った。インドのネックレスは、22金で作られたものが主流で、それに、プレシャスストーンが施される。日本語で「貴石」と呼ばれるもので、エメラルド、ルビー、ダイヤモンド、サファイヤの4種類だとのこと。
●人工(合成)ダイヤモンド! ラボで作られるダイヤモンド
ショップ内に、最近オープンしたばかりだというcrash.clubというコーナーがあった。そこに展示されているダイヤモンドは、人工的にラボ(研究所)で作られた、Lab-Grown Diamondsだという。人工ダイヤモンドは、ダイヤモンドと同じ炭素を原料としているだけでなく、その結晶構造や硬度も天然ダイヤモンドと同じだそうだ。
わたしは、とても驚いたと同時に、疑問も浮かんだ。ラボで生産できるのであれば、ダイヤモンドの希少性は低くなるのではないか。しかし、人工ダイヤモンドには利点が多いことを学んだ。天然ダイヤモンドより廉価であるのはもちろんのこと、大きさや色を自由自在に調整できる。また、天然ダイヤモンドの採掘は危険が伴い、環境に悪影響を与える側面がある。高値で取引されるため、ダイヤモンド採掘地では紛争が起こることも珍しくない。しかし人工ダイヤモンドの場合は、そのような心配がない。
●石からパワーを受け取る
店内に、巨大なガネーシャ像が置かれていた。象の頭を持つヒンドゥー教の神様だ。一塊の鉱石を掘って作られた、重さ約500kgの巨大な置物。濃緑のその石に触れてみると、ひんやりと冷たく、心を落ち着かせてくれるようだった。地球上には、こんな大きな石が存在し、それを削り磨くと、こんなに美しくなるんだな……と、自然界の神秘を思った。
《クリスタル・ミュージアムについて》
●C. Krishniah Chetty Groupの歴史
C. Krishniah Chetty Groupは、英国統治時代の1869年に創業した老舗宝飾品店。現在は5代目のVinodさんと妻のTriveniさんらが経営している。お二人は美穂さんのご友人であることから、今回の見学が実現した。ご夫妻は宝石学を学び、宝石鑑定資格を所有、Triveniさんは、宝石デザインも手がけるプロだ。
店名にもなっている創業者のCotha Krishniah Chetty氏は、当時バンガロールで、自転車に乗りビーズ売りの行商をしていた。さまざまな天然石を糸で繋いだものを販売する仕事で、現在もインドの街角で見られる。彼はやがて、宝石のビジネスに可能性を感じ、バンガロールのカントンメント(英国人の駐屯地)にて宝飾店を開業した。彼の先見の明は確かで、英国の宝飾店と競合するまでになった。
店が2代目に継承されると、ビジネスの範囲は更に拡大。ハイデラバード王国のニザム(藩王)やマイソール王国のマハラジャをはじめ、主に南インドの多くの藩王国が、同店を御用達にしていたという。ジュエリーだけではなく、銀製の置物や食器など、大小様々な贈答品なども作られた。ミュージアムでは、その中の一部やレプリカなどが展示されており、ジュエリーの歴史を通して、当時の社会の様子を学ぶことができた。
●創業150周年を記念して生み出された150ファセットの輝くダイヤモンド
ミュージアムの一隅にあるダイヤモンドのコーナーでは、同店ならではの商品が展示されていた。中でも創業150周年を記念して作られた「150ファセット」のダイヤモンドが興味深かった。ファセットとは、宝石の表面に角度の違う多数の切子面を持たせることで、光を屈折させ、輝きを放つように見せるカット方法のこと。通常のダイヤモンドは57または58ファセットが一般的だというが、同店では熟練の職人によって150ファセットを実現したという。
ルーペを使って58ファセットと150ファセット、2つのダイヤモンドの表面を見比べると一目瞭然。150ファセットのダイヤモンドは、全方向から光を放って、潤んだような煌めきだ。一方、ダイヤモンドの原石を見せてもらったが、透明感はあるものの、光を放っていない。一人前になる前の人のことを「ダイヤモンドの原石だね」と表現する意味がわかった気がした。わたしも、自分を鉱石とみなし、経験と学習で磨きをかけ削っていき輝かせたい。
●宝石の世界を次代へ継承
クリスタル・ミュージアムの案内をしてくれた従業員のTandraniさんは、展示物のひとつひとつについて、丁寧に説明してくれ、わたしたちの質問にもわかりやすく答えてくれた。彼女が、「C. Krishniah Chetty Groupは、宝石についての知識を深めたいと望む従業員に対し、学びの環境を提供してくれるから、仕事をがんばろうという気持ちにさせられます」とおっしゃっていたのが、印象的だった。
わたしたちは、予定の時間を大幅に上回り、4時間近くも同店で過ごした。その間、オーナー夫妻も、わたしたちに会いに来てくださった。Vinodさんは、かつてインドで採掘されていたゴルコンダ・ダイヤモンドに関する歴史や、世界で有名なダイヤモンドの背景、鑑定の仕方など、専門的なことをわかりやすく説明してくださった。
中でも印象に残っているのは、南インドのハイデラバードにあるゴルコンダの鉱山が、世界で初めてダイヤモンドが採れた場所だということ。通常、ダイヤモンドは鉱山で採掘されるが、ゴルコンダのダイヤモンドは、かつて噴火があったせいなのか、「川に流されてきた」という。現在のインドでは、ダイヤモンドは採掘されていないが、今でもゴルコンダのダイヤモンドといえば、最高品質の代名詞なのだという。
わたしたちが見学する間、ワインやジュースなどのドリンクでもてなしてくださり、見学後には、軽食も提供してくださった。オーナー夫妻はじめ、従業員の方々のおもてなしに心が温まった。この貴重な経験を、記憶にしっかり残しておきたい。
【C. KRISHNIAH CHETTYに関する記録】
🌸バンガロールの老舗ジュエリー店で、宝石の歴史を遡る
https://museindia.typepad.jp/fashion/2022/10/crystal.html
🌸老舗貴金属店「クリスタル・ミュージアム」開館セレモニーへ
https://museindia.typepad.jp/2023/2023/07/crystal.html
【ジュエリーに関する記録の一部】
💍インド最大のジュエリー会社TANISHQ工場見学(2015)
https://museindia.typepad.jp/onlymuse/
*限定公開/名前:incredible パスワード:india
💍婚約指輪。2001年春。ダイヤモンドを巡る旅@ニューヨーク
https://museindia.typepad.jp/library/2001/06/diamond.html
🖋不易流行 〜インドのファッション&ビューティ〜
https://museindia.typepad.jp/fashion/%E3%82%B8%E3%83%A5%E3%82%A8%E3%83%AA%E3%83%BC/
[Hyderabad] 天空の鏡。ファラクヌマ・パレスで過ごす週末(2012)
https://museindia.typepad.jp/library/2012/09/hyderabad1.html
📕一冊の本を慈しむ森岡書店で20年ぶりの再会! 婚約指輪とエメラルドと天然真珠のご縁。
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