今朝は1カ月以上ぶりに、新居で朝を迎えた。昨日は、業者に来てもらってディープ・クリーニングを依頼。この現場監督をするのが、本当に体力&精神力勝負なのだが、無事終わった。バンガロールでも、デリーでも、福岡でも、行く先々で、掃除ばかりしている。わたしは、そういう宿命なのだろう。
しかし、掃除はいい。成果が忽ち顕れる。家の「気」があっという間に好転する。旧居もさることながら、新居はやはり、心地いい。「気」がいい。「磁力」が心地よい。縁もゆかりもないはずの大地なのに、心の奥底の郷愁を、静かに揺さぶる空間だ。
しかしまだ、周囲のヴィラは工事中。平日は騒音や埃に苛まれて落ち着かない。
Total EnvironmentのプロジェクトのひとつであるAfter the Rain。この開発会社の手掛ける家は、凝っている。凝りすぎている。CEO夫妻が敬愛する建築家(フランク・ロイド・ライトや安藤忠雄など)が、わたしの好みと合致していることもあり、彼らの熱意が具現化した家を迷いなく選んだ。
作り手が芸術性や理念を追求しすぎて、工期が大幅に伸びることや、実践面(使い勝手や実用性)での問題は少なくないことも知ってはいた。それをわかっていてなお、購入を決めた。遅れるのを覚悟で、2013年、まだ更地のときに物件を購入。
覚悟していたのだけどね……。長い。プロセスが異様に長い。
2017年に完成の予定が、案の定、遅れに遅れに遅れたので、押しに押して押しまくり、なんとか去年のちょうど今頃、2022年5月にハンドオーヴァー(譲渡)された。
「バンガロールのサグラダ・ファミリア」と呼び続けてきたこのプロパティ。いったい何時になったら完成するのか。ちなみにバルセロナのサグラダ・ファミリアは2026年に完成予定。奇しくも同じ時期になるかもしれない。長生きしないとな。
ところでわたしは1989年、バルセロナ・オリンピックを数年後に控えたスペインを取材した。その後も何度か訪問したが、最後に訪れた2016年のサグラダ・ファミリアの変化は顕著で、深い感動を覚えたものだ。
インドでの家選びの際に気をつけるべきことを、各方面で語り記してきたが、避けるべきは「新居」。誰かが数年暮らした実績のある家を選ぶのが肝要だ。なぜなら、インドにおける家の完成とは、「子どもの誕生」と同じ。
不完全な子どもが独り立ちできるようになるまでは、教育が必要。
インドの家も同じ。どんなにそれが、高級物件であっても、出来立ては子ども。育てねばならない。
これがね、もう本当にね、たいへんなのよ。旧居は我々が移住して1年と少し後の2006年1月に購入。スケルトン(家具などがなにもない状態)から、「壮絶な怒涛内装工事 by 坂田マルハン美穂仕切り」で、驚異の2カ月弱のスケジュールで完成した。
思い返すに信じがたい。日本人ばかりかインド人の友人らも驚く仕上がりだった。インテリアデザイナーやコーディネーターを通さず、極めて廉価であの旧居を仕上げたのは、今、自分で振り返っても奇跡的だったと思う。わたしは多分、運命に自動操縦されている。わたしの意思とは思えない。
どれほど怒涛なプロセスだったがは、当時の記録を克明に記しているので、関心のある方はご覧ください。インドにおける労働現場の現実。及び、マネジメント、現場監督の重要性を間接的に知っていただけるかと思う。
そこからさらには、配管の不具合、水漏れ、電気配線の不具合、電圧の調整、その他諸々諸々、それはもう、インドに住んでみなければわからない次元のトラブルが次々と発生し、それを修繕しながらの日々。
だから、駐在員家族が新居に暮らすと、「育ったころ」に帰任となってしまう。なお住まい選びのポイントは『バンガロール・ガイドブック』にまとめている。
今回、日本から、「和の工芸品」を持ち帰ってきた。実家に眠っていた漆器や陶器。あるいは、銀座のすてきなお店で見つけた陶器やガラス類。これまでの人生、極力、ものを増やさないように生きてきた。
20代のころから、遊牧民の暮らしを夢想し、モンゴルのゴビ砂漠に寝転び、「もの」ではない「記憶」の大切さを痛感した。今も、旧居/新居を、「モノ」で埋め尽くすつもりはない。ただ、日本やインド、そしてわたしが歩いてきた人生を象徴する「愛しいもの」や、心を豊かにする「文化や歴史を伝える工芸品」は、目の届く範囲で、調えていこうと思っている。
量より質。
今回、銀座では限られた時間しかなかったが、限られたお店で、とてもいいものに出合った。持ち帰り、新居に並べ置く。いい感じだ。後日、店舗の詳細をシェアしたい。
⏰移住直後、コマーシャル・ストリートの骨董品店で見つけ、5000ルピーで買った明治時代SEIKOSHA の掛け時計。この家にもよく似合う。
◉インド生活/プチ家づくり(なにが「プチ」だ。と、今のわたしは突っ込みたい)
https://museindia.typepad.jp/blog/new_home/
◉『バンガロール・ガイドブック』
https://lit.link/en/bangalore
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