バンガロール郊外にある日本企業による総合病院、SAKRA WORLD HOSPITALからのご依頼を受け、今日は、ミューズ・クリエイションのメンバーとともに同院を訪問した。ミューズ・クリエイションでは、基本的に非営利の慈善団体を訪問するのが常である。病院とはいえ私企業。どのような名目で訪問すべきか、事前に相談へ伺った際、ミューズ・クリエイションに寄付金を託していただくということで、実施の運びとなった。
まず最初に小児科の待合室へ。ここで、来院している子どもたちと折り紙や塗り絵、魚釣り遊びなどをする。とはいえ、そもそも体調不良で病院を訪れている子どもたち。元気に遊ぶというわけにはいかない。カブトを折って被せてあげたり、鶴を折って渡したりと、あまり負担がかからないような遊び方だ。
わたしは一隅で、書道短冊を担当。名前を当て字で漢字にするのだが、これは毎度、人気がある。子どもたちよりもむしろ、病院のスタッフが「ぼくも」「わたしも」という感じで次々とやってくる。娘の分も、息子の分もと、一人で2、3枚、申請してくる人もいる。それはそれで、文化交流。楽しい。
小児科で1時間ほど過ごしたあと、リハビリテーション病棟へ赴く。ここは、事前に訪問した際に見学させていただいたのだが、同院のリハビリテーション施設は、南インドで最も先端の設備を擁し、専門技術を持ったスタッフが常駐しているとのことである。
通常は機具類が置かれているその広々としたスペースが、我々のために広く開けられ、スタッフの方々によってセッティングされていた。ミューズ・クリエイションで持参したキーボードやマイク、スピーカーなども、日本人スタッフの方々がほとんどセットアップしてくれていて感嘆する。
リハビリテーションを受ける患者さんとその家族、そして看護スタッフ……と、ミューズ・チャリティバザールよりもむしろ大勢の観衆に見守られつつ、広々としたステージでのパフォーマンスである。歌は、You Raise Me Up、パプリカ、Hail Holy Queenを、ダンスはPinga、千本桜を披露。人気を博したボリウッド映画で使われたヒットソングPingaは、イントロが流れた瞬間から、いつものように歓声が上がる。
そして、ピアニストであるメンバーが披露してくれた「For Tomorrow」。この曲がまたすばらしく、みな、聞き入る。
パフォーマンスの様子は、同病院のFBにアップロードされている。
すべてのパフォーマンスを終え、記念撮影をしたあと、「MIHO!」と声をかけられた。
一瞬、彼女がなぜここにいるのか、わからなかったが、傍の椅子ベッドに横たわる彼女の夫を見て、瞬時に悟った。わたしの親しい友人の、そのまた親しい友人夫妻。彼らとは、パーティやイヴェントなどで、何度か顔を合わせていた。我が夫は、彼と親しくしていた。
1カ月ほどまえ、彼が脳梗塞で倒れ、意識不明のままだと話を聞いていたが、まさか、今日ここで再会することになるとは、思いもよらなかった。つい最近、転院したという。
予期せぬ再会に、言葉が出ず、彼女を抱きしめる。そして彼女の許可を得て、彼の手にも、触れる。なんの反応も、ない。衝撃を受けて動揺するわたしに、彼女はささやかな笑顔で、「とてもすばらしい時間だった。ありがとう」と言ってくれた。……涙。
もしもパフォーマンスの前に彼女に声をかけられていたら、あんな和(にこ)やかに、歌ったり踊ったりできなかった。感情移入をしすぎるのもよくないのだ……ということを、今日は学んだ。
ホスピスを訪れたときにも痛感したことだが、患者さんの苦悩もさることながら、取り巻く家族、身内の苦しみは、いかばかりか。日々、辛い現実と向き合う中、素人の集まりながらも、わたしたちの披露が、ほんのひとときでも、気分転換の一助になったとしたら、幸甚だ。
千々に乱れつつも、SAKRA WORLD HOSPITALの方々に招かれて、同院近くにあるノボテル・ホテルのレストランへ。このレストランは、ミューズ・クリエイション結成直後、初めて慈善団体を訪問した際、打ち上げランチをした場所である。あれから7年。のべ220名ものメンバーと、いくつもの場所を訪れてきた。一人では経験することのできない、かけがえのない時間を積み重ねてきたのだと、改めて思う。
「また来てください」と言ってもらえる場所があるというのは、幸せなことだ。
若いころのわたしは、遊牧民とか、ジプシーとかに、憧れた。だいぶコンセプトは違うけれど、楽器や音響を携えて、我々はフレキシブルに、東西南北の人となりて、これからも、望んでもらえる場所へ赴こうと思う。
思うところ多く、綴るに尽きぬ、今日は本当に意義の深い一日であった。関係者各位、ありがとうございました。