【総選挙と中指と名優】 インドは現在、総選挙の真っ最中である。州ごとに投票日にずれがあり、バンガロールのあるカルナタカ州は数日前、ムンバイのあるマハラシュトラ州は昨日だった。
さて上の新聞は、今朝のThe Times of Indiaのバンガロール版。ムンバイ宅はこの新聞の購読をやめたが、バンガロール宅はそのままである。
中指を突き立て満面の笑顔の彼女は、インドで人気ナンバーワンの女優アイシュワリア・ラーイ。最近は若手にその座をおびやかされつつあるが、それはさておきの美貌である。その右隣は彼女の義父、アミターブ・バチャンだ。
アミターブ・バチャンは、ボリウッド映画界の「超ヒーロー」である。遠い過去から現在に至るまで、延々と猛烈な人気者である。
日本で言うところの、石原裕次郎と加山雄三と三國連太郎と勝新太郎と佐田啓二と萬屋錦之介と市川雷蔵の人気を全部ひとまとめにして7で割ることなく、現代にまでその人気を引っ張り込んでもまだ足りない、というくらいの、多分人気である。
インドでは、投票した後、人差し指に特殊なインクを付けられる。投票をしましたという印である。通常は人差し指なのだが、なぜか今回、ムンバイでは中指にインクをつけたらしい。
で、二人はそのインクの印を世間に向けて、ご機嫌に示しているのである。確信犯。でないわけがない。
一方、左の写真。先日ランランのコンサートで遭遇した人気俳優のアミール・カーン。彼は中指だけを示すのに躊躇があると見られ、人差し指を添えている。上品である。
右側の写真の爺さんはカルナタカ州のチーフミニスター。彼は従来通り人差し指に印を付けてもらったのを示している。
……。
だからどうなんだ。という話ではある。
【快適チカンカリ刺繍服】 さて、昨日は久々に、夫婦揃ってUBシティのおなじみアンサナ・スパ(Angsana Spa) へ出かけた。
アルヴィンドがバンガロールに戻って来たのは2月以来。
実に久しぶりのことだ。
右写真は、お出かけ前の写真撮影。
先だって、ムンバイで購入したチカンカリ刺繍の服である。
薄いコットンで涼しく、たいそう着心地がよい。
今やムンバイのデザイナーズブランドものは先進諸国並みに高価なものが増えたが、この店(NEEMRANA)のものはお手頃価格でおすすめだ。
また着心地のよい一枚を探しに出かけたいものである。
【火焔樹燃え盛る季節】 街へ出れば、炎のように燃えて咲く、グルモハルの木々が目に飛び込んでくる。火焔樹、と日本語では言うようである。その名の通り、真夏の暑い最中に、よりいっそう暑苦しい咲きっぷりが見事。夏らしくてよい。
右上の写真は、クリケットの練習に出かけるのか、母親と共にバイクでお出かけの少年。ユニフォームのSACHINの文字は、人気クリケット選手の名前だ。
昨年より始まったIPLの試合。結局、テロ問題を回避すべく、南アフリカで現在開催されている。従って、夫はテレビをつければ、クリケットマッチに気を取られている。
しかし、去年ほどの盛り上がりを感じさせない。世間も、そして彼自身にも。
【インド富裕層ご子息事情】 話を戻してUBシティ。アンサナ・スパでアルヴィンドもわたしもフェイシャル&マッサージ。
リラックスして気分もよく、今日も軽くToscanoで夕食をとって帰ることにする。
その前に立ち寄ったアップルコンピュータのショップにて。
わたしがiPhoneを眺めている間、アルヴィンドはiPodでゲームをやっていた。
と、7歳ぐらいの少年が、アルヴィンドにまとわりついてくる。
"Don't Touch!"(触らないで)
と小声で少年に告げるアルヴィンド。
それでも少年はアルヴィンドに何やらしつこく、しゃべりかけている。
業を煮やしたアルヴィンド、
"Please, go away!" (あっちに行って!)
と半径3メートルに響き渡る「中ぐらいの声」を発した。振り返る客。きょとんとする子ども。恥ずかしい妻。大の大人が、ゲームに集中して子どもに「あっちに行って!」なんて、いくら子どもが好きじゃないからって、そりゃないでしょ。
夫の手を引っ張り、店を出る妻。
「なんであんたは、子どもと同じレヴェルになって子どもじみるわけ? もうちょっと大人らしい対応の仕方っていうもんがあるでしょ」
「僕はね、ああいう礼儀のない子どもが嫌いなんだよ。僕がパックマンをやってたら、横から「今、ゲームやっちゃダメ! それバッテリーが足りないんだから」とかいろいろ言ってうるさかったんだもん。
「それにさ、ちゃんと丁寧に、"Please" つけたからいいでしょ、本当は "Mind your own business"(余計なお世話だ)って言いたかったのを我慢したんだから」
こ、この男は……。
しかし、夫の気持ちもわからないではない。インド富裕層のガキ、いやご子息の多くは、甘やかされすぎてか、ともかく行儀が悪い、好き勝手し放題、大人をなめている……と問題が多いのである。
レストランで、ホテルのロビーで、空港で、機内で、どれほど悪ガキどもに遭遇して来たことか。理由はあれこれあるだろうが、明らかなのは使用人が育児をしている、という点である。
レストランなどは、使用人(ナニー)同行で来る人も多く、ウエイターなどが(これまたインドの人々は子どもに対して寛大で面倒をよくみるところがすばらしい)子どもを相手に遊んだりしてくれるので、騒ぎはまだ「まし」だが、問題は機内。
国内線ならまだしも、長時間の国際線で、インドの幼児連れ一家と遭遇すると、それはもう要覚悟、だ。地獄、ともいう。
使用人はおらず、育児に慣れていない両親が、子どもらをたしなめきれず、というかたしなめもせず。
子どもは好き勝手し放題。機内を我が物顔で占拠する。通路を走り回るは、奇声を発するは、それはもう、大騒ぎである。
乳児や赤ちゃんがぐずるのは、仕方がない。具合が悪くて泣くのも仕方ない。しかし、分別がつき始める3歳児から5歳児にかけての子どもが最もデインジャラス。「駄々をこねて叫ぶ、騒ぐ」が半端ではない。
ガキらは、いや子どもらは、いけないことを多少はわかっていても、叱られないから騒ぎまくる。思い通りにいかないと、全身で反抗を表現する。ものすごいのよ、ほんとに。
こういう子どものティーンエージャー版がまた曲者。レストランなどでもよく見かけるが、給仕らを鼻で使うなど、どれだけ「オレ様」なんだという態度である。
この件については、書きたいネタがごまんとあるのだが、尽きないのでまた改めたい。
【飲もうねと、楽しみにしていたらドライデー】
すでに古い話となってしまったが、あれは火曜日のこと。これまで何度かインド国内の視察旅行でご一緒したSさん。彼女は上海、デリー、東京を拠点にビジネスをする日本人女性だ。
ムンバイ出張でクライアントを空港に見送った後、時間があるというので、それでは食事でもご一緒しましょうという約束をしていた。
思えば二人で食事をするのは初めてのことなので、あれこれと聞きたい話もあり、楽しみにしていたのだった。食べることよりも「飲むこと重視」の彼女。楽しく飲める場所、ということで、取り敢えず落ち合うレストランを決めていた。
と、待ち合わせの1時間ほど前、彼女から連絡があった。なんと今日はドライデーだというのだ。しかも、午後5時から。
ドライデー。それはアルコールを飲めない日。レストランなどでももちろん出さないし、ホテルにしても然り。選挙の前日から当日にかけてをドライデーとするならわかるが、選挙は2日後である。ドライデーにするには早すぎるだろう。
しかしそれは紛れもない事実のようである。彼女が滞在しているホテルの部屋に、ドライデー通達の手紙が入っていて、ミニバーのアルコール類が1本残らず、撤去されているというのだ。
さすが人手過剰の国、インド。インドとは思えない、迅速な対応である。
普段は淡々とした口調の彼女。電話口のその声は、いつもと変わらず淡々としているものの、しかし明らかに、動揺している。
一仕事を終えて、「飲むぞ!」と気合いが入った矢先のドライデー通知。そんなばかな! という衝撃が彼女を貫いている。
「ともかく、手配してみます。あとで、また連絡をいれます」
そう言って、彼女は電話を切った。いったい何をどう、手配するというのだ。
この、わずか二人の「飲み会」のために、関係者をあたり、「闇ルート」でアルコールを手配しようとでもいうのか。何事にも本気、の彼女の熱意をみる思いだ。
電話を切ったあと、わたしも、なにやら「アルコールを確保せねば!」という使命感が芽生えた。さほどの酒飲みでもないのに。
急ぎ冷蔵庫を確認する。ビールの小瓶が3本も、いや、3本しかない。あとは赤ワインが1本だけだ。その他、ポートやラム酒などのハードリカーはあるものの、ビール、ワインがもう少し欲しいところだ。
というか、うちに酒があったところで、外では飲めない。これはもう、我が家集合で、出前を取るしかないだろう。そう。食事よりも、酒が重要なのだ。今日の宴は。
念のため、近所の酒屋に電話をしてみたが「すでにアルコールセクションは閉じられました」とのこと。ああ、あと2時間早かったら!
結局、Sさんは酒の手配がつかなかったらしく(当然と言えば当然である)、8時ごろ、我が家にやってきた。本当は日本語でひたすら話したかったのだが、ちょうどマイハニーも帰宅して3人である。
ビールの分け前が、減ってしまう。と思いつつも、3人でビールを1本ずつ、乾杯。
出前は、今回初めて「レストラン出前サーヴィス業者」を頼んでみた。南ムンバイにある多くのレストランの料理を、若干の手数料で配達してくれるサーヴィスだ。
電話での対応も的確。一旦電話をかけなおして「いたずら注文防止」をするなど気が利いている。今回、シーフードレストランのTrishnaの料理を注文したが、オペレータはメニューの内容に精通していて、プロフェッショナルだった。
配達は30分後から45分後と言われていたが、実際40分後に届いた。インドにしては、ありえないオンタイムである。
食事をしつつ、しゃべりつつ、しかしSさんの飲酒のペースはたいへんスローである。残り少ない、と思う気持ちが、彼女を「上品な酒飲み」に変えてしまったようである。
ビールを飲み干し、ワインにかわっても、そのスローなペースは変わらず、話に聞いている酒豪ぶりは影を潜めている。ちょっと、面白い。
お酒のストックは控えめだったものの、話は楽しく、あっという間に時間は流れた。
来月、わたしが東京に滞在する時期、彼女もちょうど東京にいるという。「リベンジマッチ」ということで、東京で飲み直すこととなった。
「東京に、ドライデーって、ないよね?」
と、念のため確認してしまうわたし。ともあれ、来月の帰国。そろそろ細かな予定を立てる時期である。楽しみだ。