瞬く間に週末は過ぎる。一方で、確か金曜日に戻って来たはずなのに、もう何日もムンバイで過ごしているような、濃度の高さを感じる。
土曜日は、各種用事をすませたあと、ドライヴァーに「珍しい電球も揃っている専門店街に連れて行って」と頼んだところ、クロフォード・マーケット界隈の怒濤商店街へと連れて行ってくれた。
あのあたりで買い物をするときには、それなりの体力と精神力がいる。気分が弱っている時に訪れると、疲労困憊、ダメージを受けてしまう。
それにしても、写真で見る限りだと、どうしてこんなにも、こぎれいに見えるんだろう。え? こぎれいに、見えない? それならば、いいのだが。
ともあれ、さまざまな車両のホーンの音や、さまざまな匂いや、人と人とのぶつかりや、なんやかんやでもう、降りたった途端からの大喧噪である。
さて、めぼしい照明店を見つけたので、サンプルとして持参していた電球2種を示す。どちらもあるという。しかし必要な電球は20個。在庫の確認をしてもらう必要がある。
5分ほどかかるというので、つまりは10分以上はかかると覚悟して、界隈を散歩することにした。
……っていうか、電球20個って。どんだけ電球がある家なんだ。という話だ。ちなみにムンバイ宅は2ベッドルームなのに40個近い電球がある。南ムンバイにしてはかなり麗しい物件であることには間違いないのだが、微妙に凝っているところから、手間が発生する。
ところで左上の写真。おじさんがしんみりと、物憂げにかき混ぜている器の中には、クリーム色の液体と大きな氷の塊がたくさん。そのクリーム色がなにやら、とてもおいしそう。同時に、とてもお腹が下りそう。
「牛乳とリンゴジュース」
だとのこと。味見をしてみたいが、露店の生もの&氷はデインジャラス。眺めて味を想像するにとどめておいた。右上は「揚げ物」露店。強烈な揚げ物臭がぷんぷんと漂ってくる。
ともあれ、電球A20個と電球B6個を無事に調達し終えた。せっかくクロフォードマーケットが目前なのだから、今日はここで食材を調達して帰ろうと思う。
しかし、前方に見える「動かぬ時計を戴いた時計台」のあるクロフォードマーケットにたどり着くのがたいへん。ドライヴァーはどこかに待機しているが、わざわざ呼ぶほどの距離ではない。
ともあれ、横断歩道などあるはずもなく、各種車両をかきわけながら、目的地へ進み行く過程は、実にスリリングである。
例のTV番組「仰天ライフ」でバンガロールのラッセルマーケットへ赴いた時に紹介された「運び屋」同様、クロフォードマーケットにも、頭上に大きな籠を携えた「運び屋」が入り口に待機している。
本当は10〜15ルピー程度でいいんだろうが、「50ルピー!」とふっかけられ、しかし交渉が面倒で、30ルピーでDone。一応、小さく交渉はしている。が、もう、20円30円を値切るために無駄な労力を使うのは無駄である。
上の写真。新鮮なカリフラワーを買おうと、まだ葉っぱに包まれた「もぎたて」のものを選ぶ。こんなにも大量の葉っぱに包まれているとは、知らなかった。兄さんがバサバサと葉っぱを切ってくれているところ。
中からアイヴォリー色の麗しいカリフラワーが洗われた。帰宅後、洗っていたら全長2センチほどの大きめ芋虫がのそのそと出てきた。カリフラワーは芋虫遭遇率が高いので、切る際には注意が必要だ。
それにしても、素人には実情を見極められないのが、インド農作物事情。
「虫がついている」=「農薬が使われていない」というわけではないらしいのが、由々しき現状だ。
従来から、インドの野菜には、強い農薬が使われている場合があるとの噂や、汚染された農業用水を用いている農家もある、といったネガティヴな情報を耳にすることがある。
あるいは、かつては虫食いのある無農薬野菜の方が、農薬を使ってこぎれいな野菜よりも安かった、といった話も聞く。
バンガロールの場合、Namdhari's Freshの野菜は、品数や鮮度の問題は別にして、上記の点で安心できる。
しかし、鮮度や種類の豊富さという点においては、ラッセルマーケットの方が勝る。ラッセルマーケットほかローカルの店における、「野菜の出自」の見分けは、難しい。
昨今、インド国内におけるオーガニック・プロダクツは徐々に増える傾向にあり、穀物、スパイスなどは高品質の銘柄を選びやすくなったが、生鮮食料品の見極めは難しい。
野菜や果物に関して言えば、高級スーパーマーケットに売られているものも露店で売られているものも、見た目、値段どちらもさほどかわりなく、高いから安心、というわけでもない。
インドには害虫を寄せ付けないニーム (Neem) の木がたくさんあり、これらが天然の害虫駆除剤として用いられている場合もあると聞くが、しかしそんな「オーガニックなこと」をやっている農家がどれほどあるのかも、実態がわからない。
ちなみにニームは日本語で「インドセンダン」とも呼ばれ、無農薬農業を目指す農家の間でもよく知られているようである。
ともあれ、いろいろとややこしいことを言っても仕方がないので、神経質にならない程度の姿勢で、「これはいいな」と思うものを選んで買っている。
インドの食文化や生活習慣に照らして、農薬、鮮度、流通……。生鮮食品を巡るさまざまな事柄について、思うところあり。
この国だからこそ、この状況がいいのだ、何もかもが先進諸国化すべきでは、むしろないのだ、と思わせられることも多々あり。
ただ、「流通面」が確保されれば、どれだけいいだろう、と思う事柄も多く。思うほどに、インドは広い。なにしろ、日本の約9倍の国土だ。約10倍の人口だ。わたしが見ているのは、本当に、氷山のごくごく一角にすぎない。
ということを書き始めるとまた長くなるので、この辺にしておく。
本日、クロフォードマーケットで調達した野菜や果物。先日見つけられなかったパール・ガーリック(写真上部)があった。これで夫のコレステロール低下のための酢漬けを作ることができる。
帰路、おなじみPARSI DAIRY FARMに立ち寄り、乳製品調達。
久々に水牛のミルク(普通の牛乳より旨味がある。とわたしは思う)を購入。
これは購入直後に煮沸殺菌した後、数日中に飲まねばならないという、日持ちしない製品である。
なにかと気ぜわしいが、おいしいので買う。
ちなみに我が家の近所にある高級スーパーマーケット、NATURE'S BASKETには、ここのヨーグルトが売られているので、牛乳も置かないのかと尋ねたところ、すぐに悪くなるからダメなのだとか。
流通&需要の問題。
毎日購入するのなら、宅配もできると言われたが、不在がちの我が家。毎日は、いらない。コラバに一軒、ここの牛乳を販売している店があるというので、そこを教えてもらった。
牛乳のほか、ヨーグルトとミルク菓子、そしてできたてのパニール(カッテージチーズ)も購入した。
パニールは大量の牛乳を沸騰させてレモン汁を入れて絞れば、自分の家でも簡単に作ることができる。
見た目はこんな感じだ。
作っている最中は、こんな感じだ。
これは、「パラックパニール」と呼ばれるホウレンソウのカレーに用いるのが王道だが、なにしろカッテージチーズである。好きなようにアレンジして使うのがよい。
我が家の場合、たとえばランチタイム。パンの上にトマトソースを塗り、このパニールをちぎって載せてオーヴントースターで焼く。
それにオリーヴオイルなどをさっとかけて食べればもう、美味。バジルなどがあれば、なおよし。イタリア〜ンである。
トマトソースのかわりに、トマトをザクザクと切って、あらかじめオリーヴオイルや粗塩で調味したものと共にチーズを載せて焼いてもよい。
まあ、好き勝手にアレンジできる、柔軟性のある味わいである。そんなこんなで、今夜の献立についてもあれこれと書きたいことはあるが、きりがないのでこの辺にしておく。