翌日のカリフォルニア行きを控え、夫は別にしても、わたしは気ままに過ごすはずだった昨日。
朝、目覚めて直後、やっぱり今日はダウンタウンまで足を伸ばそうか……と思いつつベッドから起き上がり、バスルームに向かう途中。入り口のドアの下に、ホテルの精算書が差し込まれているのに気がついた。
チェックアウトは明日なのにおかしいな……と思い、手に取り眺める。ん? おかしい。今日がチェックアウトになっている。鞄からファイルを取り出し、予約のドキュメントを見る。うわ! 予約が21日までしか入っていない!
怒濤のインド出発前、カリフォルニア行きの日時が確定していなかったアルヴィンドが、おそらく21日になるだろうと見込んで予約していたのを、その後、二人して確認をするのをすっかり忘れてしまっていたのだった。
とはいえ、ホテルに延泊を申し入れればいいだけのことだ。特に観光シーズンではないと思われるから、満室ということはないはずだ。
アルヴィンドを見送った後、早速、予約ラインに電話を入れる。無愛想。かつ、けだるそうな声の女性が出た。米国の、典型的な電話オペレーターの対応が、嫌な感じに懐かしい。
ともあれ、1泊延長を頼んだ。と、彼女は間を置かず、答えたのだった。
「不可能です」
「え? ひと部屋も空いてないの?」
「満室です。満室どころか、オーヴァーブッキングです」
「オーヴァーブッキングって……意味がわからないんだけど、ちゃんと調べてもらえないかしら?」
「ともかく、部屋は用意できません」
話が終わらぬうちに、電話は切られた。尤も、彼女にとっては、これ以上の話はなかったのだと思うが。
それにしても、ひと部屋もあいていないとは、いったい、どういうことなのだ? これは、マネージャーにかけあうしかない。急いで身繕いをしてロビーへ降りる。
マネージャーに聞く前に、もう一度予約状況を確認しようと、レセプションの感じのよさそうなおじさんに尋ねてみた。
「お待ちください。確認します」
やさしい微笑みを浮かべて、コンピュータのモニターを見つめるおじさん。と、彼の表情が、次第に曇り始める。何度かキーを叩き、異なる画面を見ているようだが、彼の表情は晴れない。やがて小さく首を横に振ながら彼は言った。
「たいへん申し上げにくいのですが……今日は満室です。満室どころか、オーヴァーブッキングで、15室ほどが、ウエイティングという状況です」
「どうして、今日はそんなに込んでいるんですか?」
「国連総会のせいだと思います。世界中の人々が、今、ニューヨークに集まっているようですよ」
ガガガガガ~リン!!
「どのホテルも込んでいると思いますから、早くお探しになることをお勧めします。インターネットの、expediaなどでまとめて探される方がいいかと」
なんでもう、よりによって国連総会な日に、予約を入れ忘れるかなわたしたちはもう間抜けにもほどがあるやろバカバカバカ!!
と自らを責めるも後の祭り。他のホテルを探すしかない。
部屋に戻り、コンピュータに向かい、expediaやtravelocityやらなんだかんだを開いて部屋を探す。空室はある。あるにはあるが、激烈に、高い!
ろくでもないホテルが1泊300ドルとか400ドルとかいう厚かましい値段をつけている。3つ星以下の、どう考えても100ドル級のホテルが、である。
つまりは、やや良さげなホテルともなると、500ドルを軽く超えるのである。
ここはムンバイかよ! と悪態をつきつつも、あちこちのホテルを見比べる。
そもそも、ここ数年、マンハッタンのホテル料金は恒常的に高かったのだが、不景気と言われている今年は少し落ち着くだろうと思いきや落ち着くどころかより高いのだ。いやになる。
チェックアウトを遅らせてもらったとはいえ、荷造りもせねばならず、だらだらとホテル探しをしている場合ではない。見切りを付けて、タイムズスクエアのホテルを選んだ。それは悔しい決断であったが、仕方がない。
急ぎ荷造り(当然ながら二人分)をしてチェックアウトをし、ホテルを移動し、裏寂れた感じの部屋にチェックインする。バックパッカーだった20代のころを懐かしく思い出したくないけど思い出させてくれる部屋。
この部屋が1泊390ドル(税サ込)とは……。泣きたい。
救いはバスルームがきれいだったこと。バスタブがあって、真っ白に洗い上げられたきれいなタオルが潤沢に準備されていたことにほっとした。
またしても、どうでもいいことを、延々と綴ってしまった。日中の出来事は大幅に割愛。
最終日の夕食は、コリアタウンまで歩いて、アルヴィンドも食べたがっていた韓国料理を。韓国料理は、前菜がバラエティ豊かでよい。今夜もまた、満足の夕餉であった。
各種、渦に巻き込まれているインドでの日々から遠く離れて、ニューヨークを訪れると、自分たちの有様を客観的に眺められる。
これはいつものことだが、今回はまた、なおさらのこと、ゆっくりと自省する時間もあり、意義深い時間であった。
さて、いよいよ明日火曜日は、カリフォルニアへ。
2年ぶりのカリフォルニア。あの、澄み渡る空気と、抜けるような青空と、鋭い日ざしと、静まり返って滑らかなハイウェイ。
久しぶりに、自分で自動車を運転できることが、楽しみだ。