多くのインド人にとって、クリケットとは決して欠かすことのできない一大エンターテインメントとしてのスポーツだ。インドに移住する前、米国在住時から、夫のクリケットに対する熱心さには、ときに驚き、ときに呆れていた。
2005年11月にインドへ移住してからは、このクリケットが、多様性の巨大国家インドにおいて、国民の意識を集約することができる、極めて重要なスポーツであるということを認識した。
2019年5月現在、インドはIPL(インディアン・プレミア・リーグ)開催の真っ只中だ。さらに今年は、4年に一度のワールドカップも控えており、インド世間のクリケット観戦の日々はまだまだ続く。
クリケットの概要を知っておくと、インドの人たちとの「世間話」も、無難に盛り上がる。ここでは、過去、クリケットに関して記した記事を一括して紹介している。かつて5年に亘って寄稿していた西日本新聞のコラム『激変するインド』の記事も転載した。古い記事が中心だが、11年前にIPLが誕生した経緯やスタジアム観戦の記録などもあり、雰囲気をつかめることだと思う。
下部には、クリケットに言及したブログのリンクもはっている。参考にしていただければと思う。
多様性の国、インドにおいて、宗教や言語、階級の違いを超え、国民が一丸となって熱狂するスポーツがクリケットだ。
英国発祥のこのスポーツは、オーストラリアやニュージーランド、インド、パキスタン、南アフリカなどの英連邦諸国や、かつて英国統治下にあった国々で人気がある。日本人にはなじみが薄いが、白いユニフォーム姿の選手が、緑鮮やかな芝生のフィールドでゲームをしている様子を映画などで目したことがある方も多いのではないか。
クリケットは野球の原型とも言われ、各11人の2チームが、攻守交代しながら得点を競う。野球との大きな違いは、そのゆったりとした時間の流れだ。伝統的な国別対抗戦である「テストマッチ」の場合、通常1試合に4、5日を要する。「ワンデイマッチ」でも1試合に7時間。主要な試合が行われるときには、国民の多くがテレビに釘付けとなるため、各種業務は滞り、一方で交通渋滞がなくなる。
特に4年に一度行われるワールドカップ期間中は、その盛り上がりが一段と激しい。試合中は、たとえ自分がテレビを見ていなくても、同じタイミングで、ご近所のあちこちから歓声や拍手が聞こえて来るため、おのずと試合の運びがわかる。
ところで我が家のインド人(夫)も、例に漏れずクリケットファンだ。ことあるごとに、「これは大事な試合だから」と、テレビに見入っている。一年のうちにどれだけ大事な試合があったか、数えきれない。
さて、つい先日、インドのクリケットに新たな潮流が誕生した。プロクリケットリーグのIPL(インディアン・プレミア・リーグ)がそれだ。シーズンは44日間、8チームによって全59試合がインド各地のスタジアムで開催される。試合形式は、近年登場した「トゥエンティ・トゥエンティ (Twenty 20)」。1試合約3時間程度で終了する。
4月18日、当地バンガロールにて、IPLの歴史的な開幕試合が行われた。ボリウッド映画の大物俳優シャールク・カーンが所有する「コルカタ・ナイト・ライダーズ」と、著名な実業家のヴィジャイ・マリヤが所有する「ロイヤル・チャレンジャーズ」との対戦だ。ふだんはクリケットに関心のないわたしも夫とともにテレビに向かう。華やかなパフォーマンスによる幕開けのあと、派手なユニフォームに身を包んだ選手たちがフィールドに散らばった。
オーストラリアやニュージーランドからの外国人選手らの姿も見られる。カメラワークも従来のクリケット試合とは異なり非常にアクティブ。盛り上がる観客席の様子や、セクシーなコスチュームのチアリーダーたちを映し出し、まるで米国のスポーツゲームを見ているようだ。国内外企業の広告も華やかに、経済効果の高さもしのばせる。
さて、翌々日の20日。コルカタでの第2戦を居間で観戦していた夫が、突然、不満の声を上げた。聞けば、スタジアムが停電となり、復旧まで試合中断とのこと。画面には、慌てるでもなく実況中継をするリポーターや、のんびりと再開を待つ観客らが映し出されていた。やはりインドはインドだな、と苦笑させられるとともに、なぜか少し、ほっとした。
●クリケット:スタジアムで気分が高揚(2011年6月)
米国に住んでいたころの夫は、故国インドに対する関心が低かった。しかしクリケットの試合に関しては別。ワールドカップ(W杯)の開催時は、たとえ深夜でも、試合を受信できるケーブルのあるインド系の飲食店へ赴く。普段は睡眠不足を嫌う夫が、朝方帰宅し、爽やかに出勤する姿に、目を見張ったものだ。
多様性の国と呼ばれるインドにおいて、国民が一丸となって熱狂するスポーツ、クリケット。野球の原型と言われているが、速やかな試合運びの野球とは異なり、長時間を要する。伝統的な国別対抗戦「テストマッチ」は、1試合が4、5日間に亘る。「ワンデイマッチ」でも1試合が約7時間だ。主要な試合開催時は、世の中の機能が滞る。家電店の前には人だかりができ、通行人が試合に見入る。飲食店では、お客も従業員も、テレビの画面に視線が釘付けだ。
今年の4月は、4年に一度のW杯がインドで開催された。特に盛り上がりを見せたのは、インド対パキスタンの準決勝戦。パキスタンのギラニ首相も訪れ、インドのシン首相と並んで観戦した。この状態をして「クリケット外交」と呼ばれる。インド勝利後、シン首相が感情を抑え、穏やかに拍手をする姿が印象的だった。最終的に、インドは決勝まで上り詰め、スリランカを破って28年ぶりに優勝。勝利の瞬間、近所に歓声が響き渡り、市街の随所で花火が打ち上がった。
W杯の興奮冷めやらぬ直後、今度はインド国内のプロクリケットリーグ、IPL(インディアン・プレミア・リーグ)のシーズンが始まった。2008年に誕生したIPL。インド各地拠点の10チームが、各都市で戦う。試合形式は、1試合約3~4時間で終了する「トゥエンティ・トゥエンティ」。国内外の名選手たちが顔を揃え、チアリーダーが花を添える。加えて広告合戦も白熱。紳士のスポーツというよりは、一大エンターテインメントだ。
今年は夫に誘われて、わたしは初めてスタジアムで観戦した。大渋滞のスタジアム周辺は、縁日のような賑わい。地元チーム「バンガロール・ロイヤル・チャレンジャーズ」のロゴ入りTシャツや、旗などが売られている。観客席には家族連れがあふれ、試合前から熱気でいっぱいだ。
この日の対戦チームは人気俳優が所有する「コルカタ・ナイト・ライダーズ」。選手たちが入場するや、歓声がとどろき、クリケットファンでないわたしでも、気分が高揚する。夫にルールを教わりながら観戦。テレビで見るのとは異なり、ポジションや動きの全容を見られるので、試合の流れがよくわかり、想像以上に楽しい。
あいにく途中で雨が降り出した。延期かと思いきや、巨大なビニルシートが運び出され、フィールドを覆う。観客は、雨が上がるのを根気よく待つ。結局2時間後に試合再開。待ち時間が長かった分、約4時間の試合はむしろ短く感じた。
インド生活6年目にして、ついにわたしも、クリケットを楽しめるようになってきたようだ。
【過去、ブログに記したクリケット関連の記事】
◎みんながっくりクリケット。(2007年3月)
インドに暮らし始めて1年余りが過ぎたころ。夫が、世間が騒ぐクリケットに関心がなかったものの、一応、世の趨勢をまとめてみた記録。
◎プロリーグ誕生クリケット。でもやはり、インドなのだ。(2008年4月)
インド経済にバブルの香りがプンプンと漂っていたころ。インドにて、クリケットのプロリーグIPLが誕生したときの、最初の試合をテレビで観戦したときの記録。
◎クリケットのワールドカップ、インドが28年ぶりに優勝!(2011年4月)
4年に一度開催されるクリケットのワールドカップにて、インドが優勝した時の、世間の盛り上がりをレポート。
◎クリケット国内リーグ観戦@スタジアムの午後(2011年5月)
夫の熱心な誘いに根負けして、初めてスタジアムに足を運び、クリケット観戦をしたときの記録。試合云々よりも、普段は時間にルーズな夫が、「超前倒し」で家を出るべく妻を急かしてスタジアムに向かったことや、途中で大雨が降ったにも関わらず、観客は去ることなく根気強く待ったこと、さらには、雨が降り出すや否や、スタジアムが巨大なビニルシートで覆われ、雨後は巨大なスポンジボブがスタジアムの水分を吸収したことなど、試合とは関係ないところのエピソードが濃い。
◎超ヒーロー、サチンにやられっぱなしの午後♥(2011年9月)
日本料理店EDOにてサンデーブランチを楽しんでいたとき、隣席にクリケットのスーパーヒーロー、サチン・テンドルカールほか数名選手がやってきた! サチンがどれほどの選手かというと、日本の野球選手にたとえるならば、全盛期の王貞治と長嶋茂雄を足して割らずに煮詰めたくらいの存在感。例えが古いか。イチローと松井を煮詰めた感じか。それもやや古いか。ともあれ、彼の存在感には、目が♥にさせられたのだった。
◎またしても、スタジアムへクリケット観戦に!(2011年9月)
一回で十分、と思っていたクリケット観戦だが、RKBラジオの収録を前に、鮮度の高い話題を仕入れておこうと、夫に誘われるがままスタジアムへ。地元ロイヤル・チャレンジャーが勝利し、決勝進出! の盛り上がった試合だった。
◎クリケット印パ戦。英国入り直後、バーミンガム近郊へ(2017年6月)
マルハン家は年に一度、米国永住権維持の目的でニューヨークを訪れている。その経由地ロンドン(英国)でゆっくり滞在したかった妻の思いは却下され、なぜか夫のクリケット印パ戦に付き合わされてバーミンガムくんだりまで訪れたときの記録。
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◎泥沼に咲く蓮の花。印パのクリケット試合(2004年3月)
米国在住時。クリケットに全く関心のなかったわたしだが、夫のクリケット熱の強さに影響され、印パのクリケット外交に関する記事を、当時発行していたメールマガジンに記している。
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