「将来は、故郷の福岡で、高校の国語教師になる」という目標を掲げて、教職課程のある大学に進学した。
それまでの価値観や未来への展望が、180度、転換した出来事があった。1985年8月。初めての海外旅行で、ロサンゼルス郊外のご家庭に1カ月ホームステイをさせてもらった。プラザ合意の1カ月前。1ドルがまだ200円台後半だった時代、準備一つをとっても大変だったが、まさにプライスレスな経験だった。
20歳の誕生日を目前に控えたあの夏を通して、わたしは「新たに生まれ変わった」のだった。
卒業後は、故郷へ戻るのではなく、海外に出られる仕事に就きたいと切望し、今に至る。
だから、いつか自分も、若い人たちを迎え入れ、未知なる経験をする機会を提供するという「正の連鎖」を紡ぎたいと思い続けている。
無論、当時のホームステイ先は、日本の旅行代理店からの謝礼を受けるなど、収入源の一環として引き受けているケースもある。だとしても、極東の島国から来た、ろくに英語も話せず意思疎通の図れない人を、1カ月も滞在させてくれるというのは、ありがたいことであった。
実は先週の土曜日から10日余り、日本人女性HANAさんが、バンガロールに滞在している。東マレーシアのボルネオ島にある大学で、社会科学(主に国際関係)を学んでいるという彼女。多様な民族や部族が共存しているマレーシアの背景にも強い関心があるという。卒業前旅行を兼ねて「多様性の国インド」を体験すべく、南インドへも来ることになった。
週末、わたしが新居にいる間は、彼女にも滞在してもらい、平日は街中のホテルに滞在。しかし、状況が許す限り、わたしの外出などにも同行してもらっている。土曜日は到着早々、20数名のインド人ゲストを迎える手伝いをしてもらった。
実業家であれ、起業家であれ、老若男女を問わず、社交性が高くフレンドリーな人が多いインド。たとえば、「我々夫婦のところに滞在している人」ということになると、我々夫婦に対する信頼が、彼女にまで、即、広がる。
少なくとも、我々の周囲の大人は、若者に対し、尊大な態度をとる人はいない。「人格者」ほど、人に対して寛大でやさしい。今でこそ、そのような対応が「普通」と感じるが、しかしわたしも移住当初は、驚かされることが多かった。
HANAさんに対しても、分け隔てなく朗らかに接してくれる。そんな様子を目の当たりにして改めて、懐が広いインドの、すばらしき一面を実感したのだった。
日曜日は、のんびりと家で過ごした。夕方、夫とHANAさんが、コミュニティ内を散策していたところ、ご近所さんと立ち話になった模様。これはよくあるインドの情景。話が弾んで、ご近所さんが「うちに寄って行きませんか」と誘ってくれ、二人を家に招き入れたという。これもまあ、珍しくない話。しかしHANAさんにとっては、かなり驚きの展開だった模様だ。
月曜日は、以前も何度か記した近所の一大スポーツセンターへ赴き、夫と3人、おいしい料理を出してくれるプールサイドのカフェレストランでランチ。屋外バスケットボールコートで「エアバスケ」🏀をやったり、ビーチバレーコートで「エアアタック?」をやったりと、楽しい。
夕刻は、ご近所に住むYashoがご自身のサリーを見せてくれるというのでお伺いした。彼女は土曜日のパーティに来てくれていて、HANAさんに、遊びにいらっしゃいと声をかけてくれていたのだ。Yashoと彼女の母君に出迎えられる。若かりし頃は、インドの名ホテルのレストランでシェフを務めていた彼女。現在はサリーのブランドを立ち上げ、伝統的な職人技が生きた高品質なサリーを販売している。以前もブログに紹介した。
彼女のインドでのキャリアの話、またケララ出身のハズバンドHariの、非常にスケールの大きい、いや大きすぎる「大家族」の話など、わたしにとっても、驚かされる話を次々に聞かされて、インド世界の豊かさに感嘆するばかり。
ちなみに、HANAさんが立っている写真の右横にある植物の器。この銅製の巨大釜は、Hariの一族が数百名集まったときに、炊飯のために使われていた釜だという。昨今は使われず、黒ずんで放置されていたのを、Yashoが業者に磨いてもらって、輝きを取り戻したのだとか。
このほかにも、数百年前に遡る先祖代々引き継がれた調度品や絵画などを見せていただき、その歴史の凝縮に圧倒される。まるでミュージアム巡りだ。
書き残しておきたいことは尽きず。インドの日常は、本当に豊かだ。
🥻MRINALINI
https://www.mrinalini.co/
🥻インドはお祭りシーズン序章。またしてもサリーの海へ。
Mrinalini. A platform to help handloom weavers across the country.
https://museindia.typepad.jp/fashion/2021/09/saree-1.html
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