だれかの呟きに、講談社の古い書籍。
見覚えがある。ここにある。
両親が新婚時代に買い集めた。
日本現代文學全集。
半世紀以上前の「現代」。
宮沢賢治を手に取る。
目を閉じて、本の小口に指を滑らせ、ハッと開く。
目を開き、飛び込んでくる文字に、ハッとする。
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(コロナは八十三萬二百……)
あの四月の實習の始めの日
液肥をはこぶいちにちいっぱい
光炎菩薩太陽マヂックの歌が鳴った
(コロナは八十三萬二百……)
ああ陽光のマヂックよ
ひとつのせきをこえるとき
ひとりがかつぎ棒をわたせば
それは太陽マヂックにより
磁石のようにもひとりの手に吸ひついた
(コロナは七十七萬五千……)
どのこどもかが笛を吹いてゐる
それはわたくしにきこえない
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心の奥底で、泣けてくる。
「コロナ」ということばから転じて。
清らかなことば。まばゆい日本語。
慈愛が迸ることばの連なり。
こんなにも、美しい詩らが、深海の底。
水面に揺蕩う毒の応酬に邪魔されて見えない。
すくいあげねば。
つとめて、すくいあげねば。
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