前回の記録に記した夫の母方の祖父は、晩年をデリー近郊のファリダバードで暮らしていた。心臓病を患っていた祖母は、ロンドンの病院で、すでに他界していた。「死ぬときには、妻の近くで死にたい」と言っていた祖父は、ロンドン旅行中、「見事な死」を遂げる。ドラマティックな祖父の物語の一部は、下記の長大なブログに記している。
さて、そのファリダバードの邸宅もまた、夫が受け継ぎ管理してきた。しかし30年近く、管理人を雇い続けたまま放置されてきたその家。そろそろ売却することを考え、数日前、夫は様子を見に行った。わたしも同行したかったが、別件が入っていたの彼に任せた。
かつてわたしが訪れたときには、備え付けのクローゼットがあるばかりで、すべての家具や調度品は撤去されていた。だから、特にわたしが訪れることもないだろうと思っていた。
さて、一昨日、伯父をインタヴューするに際し、わたしがどうしても見たかったのは、「家族の写真」だった。父方(マルハン家)のアルバムは、この家の古いクローゼットに雑然と整理されていたのを、今回の旅で発掘した。管理する人のないまま朽ちていたアルバムを取り出し、黙々と、埃を拭き取る。
母方(プリ家)の写真はほとんどないので、すべて伯父や従兄弟が持っているのだろうと思っていた。
ところが! ファリダバードから戻った夫が、山ほどの古いアルバムや書籍を抱えているではないか!
ラホールの最高裁にて弁護士だった曽祖父の肖像写真。彼が、のちに「パキスタンの父」となるジンナーと法廷で闘った時の記録。パンジャブ銀行や新聞社の創設メンバーでもあった曽祖父のこと記した、祖父による出版物。
印パ分離独立後、祖父がパンジャブ/ハリヤナ、デリー商工会会長を務めていたときの写真やスピーチのノート。ラタン・タタ(タタ・グループ元会長)の父であるナヴァル・タタと隣席で会議に臨む写真も、複数枚ある。
当時、会議の主催者から送られたらしき、キャプションが添えられた写真は、議会の様子を如実に伝えてくれる。
一般に、これらは「過去の遺物」とみなされるだろう。しかし、わたしにとっては、お金では決して買うことができない宝の山だ。それらが30年もの眠りを経て、わたしの手に触れることになったこともまた、感慨深い。
祖父は政治やビジネスの世界に身を置きながら、一方で文学者であり、スピリチャルな考えを持つ人物でもあった。タゴールを敬愛し、ポンディシェリのシュリ・オーロヴォンドとも関わりが深い。
そんな話をしていた矢先、わたしは再来週、図らずもポンディシェリへ赴くことになった。ずっと行きたいと思いながら機会を得られなかった場所。これもまた、定められたレールの上にて。
夫の母が慢性白血病で余命数カ月を言い渡されたとき、米国ボストンに渡り、ドナーが見つからずに途方に暮れていたときに出会ったライフスタイル改善のメソッド。
祖父が提供した農地でオーガニック野菜を作り、味噌などを作り、生命を伸ばした際の記録……。なにもかもが、興味深い記録で、ため息が漏れるばかり。再び眠らせるには惜しく、しかし、わたしひとりの手には負えない。
どなたか、インド近代史に関心のある方に、ぜひ見ていただきたいものばかりだ。特に、祖父の商工会会長時代のスピーチ原稿などは、インド独立直後の産業の背景を知るのに、非常に興味深い。こうして綴り、ネットの海に沈ませておけば、誰かがいつか、拾い上げてくれるかもしれない……。
ここでは夫の母方プリ家のことばかりを記しているが、父方マルハン家の祖父は官僚だったこともあり、ネルー首相の間近で働き、海外からの国賓を招聘する責務を担っていた模様。インド外交の様子を残す写真もたくさんあり、こちらもまた改めて紹介いたいところだ。
というわけで、本日バンガロールへ戻ることから、フライト前に過去を一旦、クローズしたく、記しておく。関連ブログも記載しておく。長過ぎて読み手が少ないのは承知の上。
誰かの目に触れることを願いつつ……!🙏
そんな家族の写真の中に紛れる我々夫婦の、21年を経てなお色鮮やかな、結婚式の写真。なんとも言えず、奇妙な気分だ。
🇮🇳🇯🇵弁財天とサラスヴァティーとミューズ。ラジャ・ラヴィ・バルマと和製マジョリカ・タイル。そして夫の祖父。
https://museindia.typepad.jp/library/2022/02/saraswathi.html
🇮🇳🇯🇵8月15日。インドの独立記念日と日本の終戦記念日が同じ日なのは偶然ではない。印パ分離独立を巡る家族の物語など。
https://museindia.typepad.jp/library/2021/08/815.html
🇮🇳[Memories with Papa 05] 散骨の長距離ドライヴ。家族のルーツを辿る旅
https://museindia.typepad.jp/2020/2020/01/papa05.html
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