インド人のライフにとって、最も重要視される事柄の一つに「ソーシャル・ライフ」(社交)がある。
これらの写真は、先日、友人宅で開かれた、夫の友人の50歳の誕生日パーティの様子だ。今年に入って社交が復活し、わたしたちも外出が増えている。
1996年の七夕に夫と出会って今年で25年。以来、彼の家族や親戚、友人たちのネットワークを通して、どれほど多くの人々と出会ってきただろう。
夫と出会ってまもない11月のサンクスギヴィング・デー(感謝祭)では、彼の親戚宅に招かれた。夫が子ども時代から慕っている伯父、ランジャンの家だ。
ランジャン・タンダンは、当時から投資家としてすでに成功を収めており、妻のチャンドリカは、史上最年少で米マッケンジー・カンパニーのエグゼクティヴを勤めたあと、自分で事業を立ち上げていた。
いくつもの部屋があるアッパーイーストサイドの高級アパートメントには、インド人の著名な画家M.F.フセインの大作が随所に飾られ、窓の向こうにはイースト・リヴァーと、ルーズベルト島が見えた。
「あの島の、あの公園で、僕はチャンドリカにプロポーズしたんだ。だからこのアパートメントを買ったんだよ」とランジャンが話してくれたことを思い出す。
一つの部屋が、プジャー・ルーム(儀礼の部屋)になっていて、ヒンドゥーの神々が祀られていた。
サンクスギヴィング・デーとは、米国人にとって、クリスマスと並び、一年で最も大切な祝祭日。離れて暮らす家族と再会し、「サンクスギヴィング・ランチ」と呼ばれる豪勢な食事を楽しみながら過ごす。
次々に、タンダン夫妻の家族や親戚、友人たちが訪れる中、ひときわ目を引いた女性がいた。丸顔でショートカット。快活な印象の彼女は、PepsiCoのトレーナー着ている。サンクスギヴィング・デーとは、お洒落をして皆が集うものだと聞いていたが……。
スナック菓子やボトル水、ジュースが入った段ボールを運び込みながら、挨拶もそこそこに、テーブルに出されていたトルティーヤ・チップスを見て、彼女はチャンドリカに言った。
「また、違うブランドのを買ってる! 言ったでしょ! トルティーヤ・チップスはFrito-LayのDoritosにしてって」
そういうが早いが、出してあるスナックを撤収し、自分が持ってきたスナック類をテーブルに広げ始めた。
彼女、チャンドリカの妹こそが、当時PepsiCoのCFOで、その直後、CEOとなった、インディラ・ヌーイだった。
英語力も覚束ない31歳のわたしにとって、初めて接する「インドの社交」は、衝撃と驚きでしかなかった。インドで生まれ育ち、渡米し、異郷の地で地位と財産を築き上げ、社会に大きな影響力を持つインドの人々。つい半年前まで身を置いていた日本での日々とは、話題のスケールがかけ離れていた。
ゲストと自己紹介をしつつ、彼らの背景に感嘆し、会話についていくのが精一杯だった。
あの日から四半世紀。以来、どれほど尊敬すべきインドの人々に出会ってきたことだろう。彼らの生き様を知ることが、どれほどわたしに刺激を与え、成長させてくれているか。わたしにとって、その端緒が、あのサンクスギヴィング・デーだった。
チャンドリカは、その後、「Soul Mantra」でグラミー賞の現代世界音楽部門にノミネートされた。チェンナイに生まれ育った彼女ら姉妹の話を綴るだけでも尽きない。
なお、タンダン夫妻は2014年、NYU(ニューヨーク大学)に100万米ドル(約100億円)を寄付、学校名に「タンダン」の名が冠された。
わたしは元来、社交的ではなかった。しかし気づいたときには、インドの社交ライフの渦に巻き込まれ、溶け込んでいた。自らミューズ・クリエイションを立ち上げ、多くの在留邦人有志と活動を続けてこられたのも、インド文化の影響を受けてのことだった。
25年前のあの日、「わたしもがんばらねば」と奮い立った気持ちは未だ途上で模索の日々。気づけば、社会を牽引するのは、わたしよりも若い世代に移行している。それはそれで、若き人々の姿を見、話を聞くことはまた、大いなる刺激だ。
誰の人生にも物語があり、示唆がある。特に懸命に生き、社会的に影響力のある立場に達している人には、より多くのストーリーが詰まっている。若い世代は、それを引き継ぎながら、未来を築く。
インドで社交が重視されるのは、ただ単に賑やかなパーティが好きだから、ということではない。老若男女が関わり会うことで、人々は子ども時代から大人と語ることに慣れ、議論ができ、怜悧になる。目上の人に敬意持つ。自身の出自やコミュニティの伝統を重んじる。それは、相手の文化に敬意を持つことにもつながる。社交とは「自分のルーツ(根)」確認しながら、ネットワークを広げられる大切な行為でもあるのだ。
無論、深夜遅くまでの飲んだり歌ったり踊ったり……は、さすがに厳しく、我々夫婦は「早めに退散」するのであるが、ともあれ「リアルに会う」ことは大切だと、引きこもりの日々を経て、改めて思う。
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