ホテルの窓から、南側の光景。
左から2番目の建物が、かつて住んでいたアパートメント・ビルディング。
こんな天気の日は、上階あたりに雲がかかるほどの高層。
この街に住んでいたときに、高層ビルディングが苦手になってしまった。
摩天楼を見下ろす光景を、最初はとても好きだった。
しかし、身近に、火災や911を経験し、
大地に近い場所に暮らすことの安心感を望むようになった。
もっとも、ムンバイでの2年間は、高層だったけれど。
あの国では、「停電」とか「故障」とかによって、
エレベータに閉じ込められる、違う「不都合」もあり。
この時節のニューヨークは、
寒い日、暑い日、雨の日、風の日、さまざまな天候が巡る。
思えば去年、米国永住権の更新手続きをしにいった日も雨だった。
そして今年は、5年ぶりに、運転免許証の更新へ。
DMVへ赴き、手続きをすませる。
5年前よりはかなりシステマティックになっており、
ネットで時間を予約しておいたら、
待ち時間も少なくてすんだ。
夫は午後から打ち合わせ。
ランチはDMVにほど近い、コリアタウンへ。
そしてついつい訪れるのは、なじみの韓国料理店。
手作り豆腐で有名なCHO DANG GOL。
海鮮豆腐のスープ定食と、石焼ビビンパを注文。
夫とシェアして味わう。
冷たい雨の中を歩いてきたあとに、
身体が温まって、おいしい。
たまには、真剣な表情の夫の写真を。
夫婦揃って、石鍋の底の「おこげ」が好きなんです。
明日もまだ、雨のようだが気温は上がる模様。
暖かな日が来ることを願いつつ。
それにしても、同じ街の同じホテルに戻ってくると、
1年前が、1年前だったとは思えない。
もう、つい先日のことのように、今に近い。
冷たい風雨に晒されていた昨日が嘘のように。
気温がぐっと上がり、青空が見えた朝。
気分もぐっと上がる。
今日は友人とランチの待ち合わせで、ブルックリンまで足を伸ばす。
晴れてくれてよかった。
昨日は傘で身を守るのに精一杯。
路傍の花々を愛でる余裕もなかった。
雨に濡れたパンジーの健気な様子。
地下鉄を乗り継いで、ブルックリンへ。
初めて降り立つ、ボロウ・ホール。
最高裁がある街。初めて知った。
今年初めて見た黄緑色のタクシー。
マンハッタン以外のエリアを走る、アウターボロー・タクシー。
昨年、導入されたらしい。
ランチのあと、カフェのベンチに腰掛けて、
コーヒーを飲みながら、目の前を過る光景。
友人と別れ、再びマンハッタンへ。
必要な買い物を先にすませようとサンライズマートへ。
いつもの田牧米ゴールドをたっぷりと。
そして、有機醤油など。
ホテルに配達してもらう手配をすませて身軽。
インドでの日々が幻。
今日もいい天気だ。天気がいいというだけで、とてもラッキーだと思える。
特に、時間に限りがある、旅をしているときには。
ミッドタウンで友人とランチの待ち合わせをしている。
セントラルパークを通過して、ゆっくりと歩きながらゆこう。
米国を離れて8年半。以来、少なくとも年に1度、訪れて来たこの街。
戻るたびに、たちまち記憶が過去に引き戻され、
インドでの日常が、遠く遠く、覚束なくなる。
その感覚が、今年は格別に色濃い。
もう、ずっとここにいるかのような気分になってしまい、
セントラルパークを歩きながら、
変幻自在の時間について、改めて思い巡らす。
毎年毎年、同じ時期、
毎年毎年、同じような場所に降り立ち、
毎年毎年、同じような場所へ赴き、
毎年毎年、同じようなことをしている。
わたしはインドで、なにをしていたのだっけ?
と、敢えて思い出さなければ、うっかり忘れてしまいそうな奇妙な感覚。
歳を重ねるにつけ、確かに記憶の構造が変化している。
本日のランチは、友人お勧めの「炙り屋錦乃助」にて。
噂には聞いていたが、行ったことがなかったので、うれしい。
悩んだ末、「サーモンのカマとカキフライのセット」を注文。
ヴォリュームたっぷり、本当においしかった。
ランチのあと、五番街で買い物などをすませ、夫と合流。
ニューヨーク本社とのミーティングなどに出かけたあと。
バンガロールではあまり着ないスーツ姿で。
出会った当初、二人してミッドタウンに通勤していたころを思い出す。
それにしても、彼はちっとも、老けないなあ。
コーチのバッグ、リバイバル?
ではなく、10年前に他界した、我が父の形見。
物持ちがよいマイハニー。
滅多に使うことはなかったのだが、
今回の旅で、なぜか「これ、持って行く」と取り出していた。
お似合い。
「今日のランチはどこに行ったの?」
「あぶりやきんのすけ」
「えええっ! 何だって?! 僕の好きな店だよ。なんで僕を誘わなかったの?」
そうだったそうだった。1年前、彼が一人でニューヨークへ出張に来たとき、ホテルにほど近いこの店が気に入って二度も通ったと聞いていたのだった。
ブラックベリーから写真を発掘して見せる彼。
この手作り豆腐、食べた?
この銀ダラがおいしくてねえ。
この豚肉の煮付けも最高なんだよ。
毎度、国籍不明のコンセプトがほとばしっている。
そして毎年恒例、五番街のユニクロへ。
毎年、MOMAはじめ、さまざまなコラボTシャツを、ついつい買い求める。
今年はアンディ・ウォーホルだけでなく、
ジャクソン・ポロックのシャツもいい感じ。
それよりなにより!
サンリオとのコラボTのなかから、懐かしきパティ&ジミーを発見!
かれこれ40年ほど前から数年間、
ハローキティと張り合うほどに人気だった(気がする)。
このキャラクターが好きで、いろいろと集めていたものだ。
あまりの懐かしさに、くらくらしつつ、
似合うとか似合わないとかはさておいて、買った。
アラフィフの大人が着るものではないとわかっているが、
買わずにはいられなかった。
なにやってるんだろうなあ。
好天に恵まれた土曜日。
寒くもなく、暑くもなく、ほどよい天気。
ホテルを拠点に、
アッパーウエストサイド、
セントラルパーク界隈で過ごした一日。
ランチは、このところ毎年訪れているスパニッシュのロンダ。
アンダルシアの「ロンダ」という街が、
とても好きなこともあり、
この店には多分、料理の味に対する評価以上に、
愛着を感じてしまう。
アンダルシアの旅には欠かせぬ街といえば、
セビーリャ、コルドバ、グラナダなどが有名だが、
ロンダはまた、その景観がすばらしく。
72丁目からセントラルパークを目指して東へ。
ダコタハウスの前を通り、
ストロベリーフィールドのあたりから、公園へ。
この時節、このあたりのチューリップがとてもかわいらしく、
今年もまた、いいタイミングで満開の時節。
桜は散り、
スイセンは終わりかけ、
しかし多くのチューリップは満開で、
八重桜も咲き誇っている。
巡る開花の機を慈しむ。
ただ、街をのんびりと歩く。
ということが難しいバンガロールでの暮らし。
ゆえに、旅先では、ひたすらに、歩く。
マンハッタンでは、ことさらに、歩く。
今日はスニーカーを履いていたにも関わらず、足が疲れてしまったほど。
何組ものカップルが、結婚式用の写真撮影をしていた。
フランス人のカップルが、湖畔で挙式を挙げていた。
お天気で、なによりです。
かつては、カーネギーホールの近く、あるいはミッドタウンのホテルに滞在していた。
去年、このリンカーンセンター向かいにあるホテルに泊まり、
かつての住まい近所ということもあり、
いかに行動しやすいかを実感した。
なにしろ、エンターテインメントを「気軽に楽しめる」環境がいい。
今日は、ジュリアード音楽院の学生による弦楽四重奏団。
相変わらず、中国、韓国、日本と、東アジアの生徒がたくさん。
小学生くらいの子供たちもいて、とても愛らしい。
が、演奏はもう、素人には「すばらしい!」としか言えぬほどの巧みさ。
個人的には、耳慣れた
ピエトロ・マスカーニのカヴァレリア・ルスティカーナの間奏曲が、
とてもよかった。
初めて聞いたアーネスト・ブラック(エルネスト・ブロッホ)のコンチェルトも。
今回は、バレエやオペラ、ミュージカル、一通り楽しもうと思っている。
夫が寝違えて、首を痛めた。
数日前から調子が悪かったが、悪化したようだ。
慣れない枕も原因か。
午後、鍼灸院に予約をいれて、取りあえずはランチを。
先日、紀伊國屋書店でピックアップしていた日本のフリーペーパー。
レストラン情報の項に、一風堂のミッドタウン店がオープンしているのを見つけた。
首は痛めど、食欲はもちろんある。
早速、出かけることにした。
ホテルから歩くこと十数ブロック。
賑やかでファンキーなイースト・ヴィレッジ店に比べると
「お行儀よく、こざっぱり」とした店内。
しかしメニューは同じ内容。
夫の大好物、平田バンズの豚の角煮サンド、
それから新鮮野菜のミックスサラダ、
そしていつもの白丸元味を注文。
わたしは、卵をトッピング。
なんとなく、以前よりも味があっさりしている気がするが、
これはこれで、おいしい。
鍼の治療へ出かける夫と別れ、
わたしはのんびり、お買い物。
近所に、オーガニック専門店を発見。
ダイナミックなスケール。麗しい店内。
我がお気に入り、
インディラナガールのオーガニック店とは、別世界だなあ。
あ、Organic India。インドのプロダクツも健闘している。
わたしはこのブランドの「Tulsi Masala Chai」がお気に入りで、
旅のときには必ず持参している。お土産にも好評だ。
風強く、少し怪しい空模様。
この時節のニューヨークはいつも、こんな気まぐれの天候で。
57丁目のSur La Tableに立ち寄る。
フランス語でOn the Table。
米国在住時からお気に入りのキッチン用品店へ。
Williams Sonomaはもちろん、すてきだけれど、
カラフルにさまざまなブランドのキッチン用品が揃うこの店も魅力満点。
何となく、欧州のキッチンを彷彿とさせる。
もっとも、シアトル発のショップだけれど。
最近では、インドでも欧米のキッチン用品が続々と進出。
特にオンライン・ショッピングでは、欧州ブランドが充実で、
本当に便利になった。
だから、「絶対に買っておかねば」という商品はない。
ただ、店内をのんびり歩き、眺めながら
「これは、役立ちそうだ」とか、
「これは、かわいいなあ」とか、
つまりは、そういう、まさに楽しいお買い物。
キッチンで過ごす時間が、快適で楽しくなるように。
毎年、少しずつ、買いそろえる小物たち。
碁盤の目のようなマンハッタンを歩くときは、
同じ目的地へ赴くにも、同じ道を選ばず。
そのときどきで、
なんとなく、ひらめくままに、
その角を、
西へ東へ、北へ南へ。
出合う光景やすれ違う人々のすべてが、
この角、次の角、その次の角……。
どちらへ進むか、連続する分岐点の選択によって変化する。
あのとき、その道を選んでいたならば。
あのとき、あの道を選んでいたならば。
なんとなく、勢いで選んできた道、
強いられて、選ぶしかなかった道、
敢えて、望んで、選んできた道……。
さまざまな事情に拠って、
人の道は、選ばれてゆく。
あのとき英国の港町のティーハウスで、ニューヨークが閃いて、
ニューヨークを決めた。
結婚して、911を目の当たりにして弱気になって、
ワシントンDCを決めた。
もう、その地に住まうのがどうにも辛くて、
インド行きを決めた。
その契機が、
ポジティヴであれ、ネガティヴであれ、
選ばれた一本の道は、ただ、進むしかなく。
思えばほとんど、後先考えず、来たものだ。
計画性がありそうで、なかった。
自分のポテンシャルを熟考することもなく。
果たして熟考していたら、二の足を踏むようなことばかり。
「なんとなく、勢いで」が多かった。
未だ、どこにも、到達しておらず。
この先の未来像も、
実はまだまだ、描けておらず。
気がつけば、みるみる歳を重ね、
ショーウインドーに映る自分の姿は、
最早、渡米した30歳のあのころから遠く。
もしもずっとあのまま、この街を離れずにいたら、
わたしはいったい、どういう様子をしていただろう。
夫が属しているAspen Institute。
今回、いいタイミングで、ニューヨークでのイヴェントが開催されていた。
NEW YORK IDEAS。
さまざまな業界から、各々の世界において、
活躍している人、ステイタスのある人、成功を遂げている人……。
大勢の人々の言葉を聞ける機会。
旅に出る前、夫がわたしの分も一緒に、登録しておいてくれた。
会場は、アッパーウエストサイドにあるNEW YORK HISTORICAL SOCIETY。
朝9時前に駆けつけて、午後6時の終了時まで、
終日、ここで過ごしたのだった。
プログラムは、15分から20分刻み。
インドでは絶対に実現しない感じの進行管理。
次々にスピーカーが入れ替わるので、退屈しない。
退屈しないがしかし、自分の英語の聞き取り能力の「残念さ」に打ちのめされる。
短時間に、多くを語ろうとする人たちは当然、早口。
更には、彼らのバックグラウンドを知っておかねばわからない話題も多く。
話を聞きながら、プログラムを片手に、興味のある人物については、
iPhoneでバックグラウンドをチェック。
彼(左)は、SOHOで大人気のベーカリーを営むフランス人シェフ、
ドミニク・アンセル。
2011年にオープン以来、さまざまなメディアに取り上げられ、
「行列ができる店」として、広くニューヨーカーに知られているらしい。
彼の話し振りの素朴さ、食べ物に対する純粋な好奇心、
そこから育まれている創造性……。
なにより人柄のやさしさが感じられて、ぜひ少し並んででも、
彼のクリエイトしたスイーツを食べてみたいと思えた。
■DOMINIQUE ANSEL BAKERY
一人一人のことを記していると終わらないので、写真を撮っている数名のことだけでも、備忘録として残しておこうと思う。
彼は教育関連の慈善活動を行うチャールズ・ベスト。
■Donors Choose.org
ソプラノやSEX AND THE CITYでおなじみ、HBOのCEO、
リチャード・プレプラー。
ライフスタイル・デザイナーであり、作家でもあるジョナサン・アドラー。
オンラインショップをマネジメントしている。
■JONATHAN ADLER
NYPD(ニューヨーク市警)のポリス・コミッショナー、ウイリアム・ブラットン。
1990年代以降、ニューヨークにおける犯罪率を劇的に減らした経緯などを語る。
……それにしても、お気づきであろう。
その人の風貌が、
その人の職業を、顕著に映し出していることを。
面白い。興味深い。
果たしてわたしは、「何をする人」の顔をしているのだろう。
この日、一番印象的だったのは、彼。
CHOBANIのCEOである、ハムディ・ウルカヤ。
トルコ人ながら「グリーク(ギリシャ)風ヨーグルト」を開発。
CHOBANIは、数年間で驚異的な成長を遂げている。
彼の飾り気のない語り口調。
マーケティングもストラテジーもなにもない、
「ただ、やるべきことをやっただけ」
と、言い切る実績。
トルコの酪農家のもとに生まれ育った彼が、
米国においしいヨーグルトを売るブランドがないことをして、
2005年に、5人のスタッフで立ち上げた、
このヨーグルトブランド。
18カ月もの間、ピュアなヨーグルトを作り上げるための準備をした。
自然の恵みである牛乳から作られるヨーグルトを、
いかに新鮮で、いかにピュアなままで、供給できるかを追求。
パッケージ作りにも、とてつもない時間を費やし、エネルギーを注いだという。
「トルコ人がギリシャのヨーグルトなんて、トルコに帰ったら嫌われる。
ギリシャでも嫌われる。
ここがアメリカだから、できたんだよ!」
という一言に、アメリカ合衆国の魅力が凝縮されている。
ただ、質のよい食べ物を作り、届けたい、それが一番大切。
赤ちゃんにも安心して食べさせられる、家族や友達にも勧められる、
そんなものを作りたい。
彼の最後の一言が、心にしみる。
こんな当たり前のことが、当たり前ではなくなって久しい世界で、
彼のような人が成功していることは、実に心強い。
このヨーグルトも、試してみなくては。
ともあれ、ランチタイムを挟んで夕方のカクテルタイムまで、
非常に濃厚な一日であった。
ところでNEW YORK HISTORICAL SOCIETYの一隅には、
911に関する展示もあった。
今、あの場所には、新たな建築物が建ち、生まれ変わっているが、
いまだ、とても、訪れられる心境にはならない。
あれから13年もたっているが、
歳月の重なりを超越して、記憶に刻印された、
強烈すぎる、出来事だった。
カクテルで、しばし一日の余韻に浸ったあとは、
ホテルに戻り、夜の部へ。
「寝違えた首」も、回復の兆しが見られる夫と、
ニューヨーク在住の伯父と3人で、ディナー。
これもまた、毎年恒例の、行事である。
そうこうしているうちに、早くも滞在半ばとなりて。
後半。大切に、過ごさなくては。
1996年。マンハッタンに初めて降り立ち、この街にすみ始めたころ。
この街のさまざまな表情を捉えることが、楽しかった。
あのころ、感動したことの一つは、この工事現場の様子。
マンハッタンの工事現場の防壁には、必ず「覗き窓」がついている。
そこから、どのような工事が行われているのか、見ることができるのだ。
工事現場、作業現場を眺めるのが好きなわたしは、
この「覗き窓」の存在がすばらしいものに思えたものだ。
どういう経緯でこの覗き窓が設けられているのかは、わからない。
市民は、工事の実態を知る権利がある、故の
規定されたルールなのか。
単なる「見てみたい?」「じゃ、見せるよ」
というところから、始まった気軽な慣習なのか。
マンハッタンが一枚の巨大な岩盤の上に広がる街なのだということが、
この地面の様子を見るだけでもよくわかる。
セントラルパークでは、この岩盤の露出が随所に見られ、
天気のいい日など、岩の上に寝転ぶと、
まさに「岩盤浴」状態で、とても気持ちがいいものだ。
*******************************
〈以下、Wikipediaから一部引用〉
マンハッタン島は1枚の岩盤から構成されており、島の大部分を構成している基盤岩はマンハッタン片岩 (Manhattan Schist) と呼ばれる雲母の結晶片岩である。この岩は強度が高く、その構成成分の変成岩はパンゲア大陸が形成された過程で作られた。この岩盤上は高層ビルの建設に適しており、ダウンタウンとミッドタウンの表面はこの岩石に富んでいるためこれらのエリアには高層ビルが多く建ち並んでいる。セントラルパークにはマンハッタン片岩の露頭があり、ラット・ロックはその一例である
*******************************
ランチタイムに友と会い、
そのあと、インドでは手に入らなさそうな服を求めて買い物に出かけたのだが、
どうにも、これといったものを見つけられず、
手ぶらで、夫と待ち合わせのリンカーンセンター前に戻る。
このごろは、自分がどんな服を着たいのか、よくわからない。
インドに来た当初は、インド服が珍しく、
インド的派手な洋装を好んで着ていた。
インドのジュエリーも楽しくて、ネックレスやイアリングもじゃらじゃらと。
しかしこのごろは、シンプルな嗜好に回帰しつつあり。
加えて年齢の変化。
どんな服を着たいのか。どんな服が似合うのか。
すっかりわからなくなってきた。
サリーが似合う、と言われても、
サリーを日常から着るわけにもいかぬ。
ジーンズにTシャツが、自分のユニフォームのようで楽だけれど、
それでは、大人のエレガンス(!)に欠ける。
ヘアスタイルにせよ、服装にせよ、
50代を間近にして、
きちんと考えなければならないなあ、
とショーウインドーに映る自分の姿を見ながら思う。
一方の、昔からちっとも老けないマイハニーは揺るぎない。
昔からお気に入りはBrooks Brothers。
体型がラウンドなだけに、若いころからスタイリッシュな服装は無理で、
キャラクター的にもトラディショナルな服装がお似合いなのだ。
もう、何年も前のことだが、
旅のときの写真で、彼が常にアーガイルのセーターやベストを着ているのをして、
「いつも同じような服装ですね」「たまには違うファッションを」
などという、とてつもなく余計なお世話なメールを送って来た読者がいたけれど、
そういう風に見ている人も多いのだろうなと思う。
彼もわたしも、アーガイル、即ち格子模様のセーターが好きなのだ。
流行り廃りなく。
それに、インドでは普段冬物を着ないから、
旅のときに同じ服をひっぱり出して着るわけで、
毎回同じような服でも、仕方ないのだな。
セーターはさておき、新しいシャツを買い求めるのは、毎年のこと。
実は今年に入って、バンガロールにもBrooks Brothersがオープンした。
しかし、品数などはニューヨークの方が圧倒的に多く、
ここでの買い物は夫の楽しみでもある。
ところで、夜はミュージカルを観に行く予定があり。
夕食は早めに、5時半からのプレシアター・ディナーを。
5時半に夕食だなんて、インドではとても考えられない。
が、ブロードウェイ界隈には、観劇前の夕食を出す店がたくさんある。
夫が予約してくれていたのは、
シアターに近い場所にある、懐石風日本料理を出す店。
シンプルで、美味な料理であった。
キリンの一番搾りを飲みながら、
タコの刺身に舌鼓を打ち、
「このみそ汁は、おいしい!」といいながら、
牛肉の陶板焼きを堪能するインド人。
幸せそうで、なによりだ。
肝心のミュージカルはといえば、
わたしはあまり、好きではなかったが、
夫は楽しんでいた。
ミュージカルは、ストーリーの面白さももちろん重要だけれど、
舞台の展開、衣装の変化、俳優たちの魅力、
そういうさまざまな入り乱れてわくわくするものが好きだ。
とても子供っぽく素人的な見方だと思うが、
間近で見るから尚更のこと。
同じ舞台、同じ衣装で最初から最後まで。
しかも女優の動きが、エレガントというよりは体育会系、
歌声はすばらしかったけれど、見た目で感動できず、
ちょっと残念ではあった。
2001年の7月に結婚をして、しばらくは遠距離結婚を続けていたが、
9/11のあと、人生の優先順位を見直した。
2002年1月、住み慣れたニューヨークを離れ、ワシントンD.C.に移り住んだ。
自分で決めたこととはいえ、あの街になじめず、悶々と行き詰まっていた日々。
2003年の終わり、ジョージタウン大学付属の英語学校に3カ月通った。
そのときの研究論文に、インドの頭脳流出や新経済を取り上げたことで、
インドに対する関心が高まり、移住に至った。
あの束の間の学生生活はだから、インドに暮らすわたしの源だ。
その3カ月間、共に過ごした友人が、ニューヨークまで会いに来てくれた。
彼女は、当時駐在員のご夫人だったが、
今回もまた、再びワシントンD.C.郊外に駐在されている。
遠距離バスに乗ってわざわざ来てくれたことが、とてもうれしかった。
ランチは、アッパーウエストサイドにあるお気に入りのレストラン
TELEPANに予約を入れておいた。
新鮮で質のよい素材を、シンプルに調理したおいしい料理。
サングリアも、見目麗しく、上品なお味。
3コースのプレフィックスメニュー。
デザートを終えて、コーヒーを飲んで、
もう誰もゲストがいなくなってしまうまで、語り続ける。
食後は、リンカーンセンターのカフェに場所を移して、
さらにまた、語り続ける。
昨日まではあんなに晴れていたのに、
今日は曇天。
それでも、朝の雨がやんでくれただけ、よかった。
普段は、誰ともシェアのできない話題、
主には日本の現状、未来のことなどを。
決して明るい話題ばかりではなかったけれど、
いろいろと腑に落ちて、考えさせられること多く。
この先の、自分たちの生き方についても、また。
とても貴重な、時間だった。
彼女からいただいた、お土産。DCのイラストブックと、しおり。
本が大好きな彼女の心遣いが感じられて、とてもうれしい。
ページをめくれば懐かしい光景が随所に。
こうして見ると、本当にすてきな街だったのに、
わたしはどうして、どんよりしていたのだろう。
まあ、あのころは、いろいろあったからな。
次に会えるのはいつだろう。
前回お会いしたのは、確か6年ほど前の東京だった。
なんだかずっと遠い昔だったような気がするし、
とても最近のことのような気もする。
夜は夫と、リンカーンセンターのフィルムシアターへ映画を見に行く。
この辺りは、いくつもの映画館があり、
本当にエンターテインメントの楽園だ。
住んでいたころは、さほど有り難みも感じなかったが、
今思うと、本当に、すばらしいロケーションだった。
映画はジム・ジャームッシュ作品。昨年日本でも公開されたようだ。
音楽、吸血して生き続ける男と女、夜の街……。
独特の世界が、静かに不安をかき立ててやるせなく、
同時に、心地いい。
彼の映画について書き始めると、長くなるので、触れない。
ただ、ひとつだけ。
1996年5月、マンハッタンに暮らして数週間後、
地下鉄の駅で、彼の姿を見かけたときの感動は忘れられない。
自分がニューヨークに住んでいるんだということを、
強く実感して、本当にうれしかったものだ。
今日もまた、少し曇天だ。とはいえ、小雨程度なので、街歩きに問題はない。
今回の旅は、気持ちがインドから遠く離れてしまっている。
いつもなら、そろそろインドのことを思って、少し帰りたい気持ちになるのだが。
現実に引き戻すため、不在の家の管理を預かってくれている、
ドライヴァーのアンソニーに電話をして近況を聞く。
このごろは、少し雨が降り始めているようで、モンスーンの訪れだろうか。
バンガロールが、遠いなあ。
ランチタイムは、ニューヨーク在住のミュージシャン、
ユウコ・ダージリンさんと過ごした。
彼女と、やはりミュージシャン(著名な作曲家)である
ご主人の小田裕一郎氏のご自宅が、数カ月前、火災の被害に遭われた。
お二人がご無事だったことは、本当によかった。
とはいえ、火災、それに伴う煙のすさまじさは、
ニューヨーク在住時、住んでいたビルディングの斜め上の部屋が火元で燃え、
恐ろしい経験をした経緯があることから、切に想像できた。
お二人がお元気だとはいえ、多くの大切なものを失われた苦悩は、
当事者にしかわからない。
わたしは、火災やテロ(ニューヨークやムンバイなど)を身近に経験してきたが、
個人的に、失い喪ったものは、ほとんどない。
失ったことがあるかないかの二者には、雲泥の差がある。
だからこそ、気軽に励ましたり、声をおかけすることも、
正直なところ、憚られた。
憚られたが、声をかけずには、いられなかった。
更には、インドがお好きな彼女のために、
せっかくインドからニューヨークへ訪れるのだから、
「インドの香り」をお届けしようと思った。
わたしが日常使っているスパイスや日用品のごく一部をお土産に。
喜んでいただけて、本当によかった。
もちろん、ランチは楽しいひとときだった。
ランチのあと、紀伊國屋に立ち寄り、しばらく過ごす。
久しぶりに、日本のファッション雑誌を開いたり、
専門書などを眺めたり。
そして、数冊を購入。
なぜこれらの本なのか。
今は詳細を綴る気分でもないので、取りあえず写真だけでも。
いずれにせよ、知っておく必要があると切に思うので。
夕刻、コロンバスサークルにあるThe Museum of Art and Designへ。
毎年、いつもいつも前を通り、
時にはミュージアムショップで買い物をしておきながら、
一度もミュージアムに足を踏み入れたことはなかった。
予想以上に、楽しい空間だった!
このミュージアムの最上階のレストランの存在も、初めて知った。
オープンして4年もたっているらしいが、
なにしろ、すばらしい眺め!
というわけで、滞在中に、一度は訪れようと思う。
インドの映画、Lunch Boxも上映されていた。
「歌って踊って」のない、すてきな大人の物語。
わたしの好きな俳優、イルファン・カーンが主演。
気持ちが少し、インドに引き戻されるが、遠い。
変な感じで蒸し暑い朝。
晴れてはいるけれど、あまり心地よくはない。
なんとなく、一雨来そうな空模様。
朝、夫は、ホテルの向かいにあるリンカーンセンターへ。
すでに人気のオペラは満席でも、
当日、キャンセルされたチケットを購入できることがある。
幸い、かなり「上部」のバルコニーシートではあるが、二人並んで席が取れた。
メトロポリタン・オペラの「シンデレラ」。
実は数日前、「マダム・バタフライ」も上映されていたが、
見に行くタイミングを逃していた。
「マダム・バタフライ」は、今から10年以上前に一度、観たきり。
「シンデレラ」は、
我々の知るシンデレラのストーリーをなぞってはいるものの、
オリジナルのアレンジが鏤められていて、
ユーモアもたっぷり、大人の物語になっていた。
ジュリアード音楽院を卒業したばかりの若いオペラ歌手が主演。
彼女の風貌は、オペラグラスがなかったので、よく見えなかったけれど、
しかし雰囲気は非常にチャーミングで、歌声もすばらしく、
とてもすてきな舞台であった。
閉演後、シアターから外へ出る人々。
まるでラッシュアワーの駅のようだ。
ランチは軽くすませていたので、夕方は早めのディナーを取ろうと、
アッパーウエストサイドを歩く。
ちなみにランチは、昔から行きつけのSHUN LEE CAFE。
点心はテーブルにつくなり楽しめるから、
時間がないときにも便利なのだ。
シンデレラでスパゲティを食べているシーンがあった。
それは、すさまじく、「おいしくなさそうな」食べ方だったのに、
ものすごく、パスタが食べたくなり、
今まで訪れたことのない、イタリアンへ。
素朴なビストロ風のその店。一応、人気店である。
パスタと野菜とピザを注文。
どれも素朴な家庭料理風の味わいで、
アットホームな食卓だった。
外は気持ちのよい風が吹く。
ホテルは目の前。
このロケーション、
我々のニューヨーク滞在には本当に最高だ。
今日は、母の日、日曜日。
ニューヨークの空は青く澄み渡り、すばらしい好天だった。
むしろ日差しは夏のように暑く、
外出の途中でホテルに戻り、半袖に着替えたほど。
セントラルパークでは、日本祭りが行われていた。
ステージでは、日本にまつわるさまざまな出し物が披露される。
バンガロールの「ジャパン・ハッバ」の豪華版といった感じ。
無料で人気店のラーメンや餃子が提供されているらしく、
飲食店のテントの前には長蛇の列!
夫はオリジナルのTシャツを購入。
確かにデザインはすてきだけれど、
……違和感。
10日ほど前に訪れたときとは異なる、緑の様子、花の様子。
チューリップは終わり、八重桜も散り、
この日は、この白い桜のような木が1本、満開で美しかった。
数年前から、胃腸の働きが悪くなっている我。
昔のように、連日に亘っての外食に対応できなくなっているので、
(とはいえ、平均的日本女子の食欲よりは、まだ上をいくはず)
なるたけ重いものを避けて、夜は軽めにしている。
レストランで注文する料理も、以前よりも少なくなった。
ところでこの見目麗しい豆腐サラダ。
先日の濃厚な葉野菜たっぷりのサラダもおいしかったが、
今日のこの、盛りつけに凝った豆腐サラダも美味だった。
野菜量は少ないが、見た目がかわいい。
ちなみにこれは、お皿の一部分。
今日は「赤丸」を試してみた。こちらの方がコクがあって濃厚。
マイハニーはこちらがお好みのようだ。
たっぷり食べたが、ニューヨーク滞在中はともかくひたすら歩くので、
十分に消化できる。
ちなみに、ニューヨークの一風堂はラーメン1杯15ドル。
思えば日本でラーメンを食べるのに比べると、倍ほどのお値段だ。
気軽なファストフード、ではない。
地下鉄に乗り、チェルシー界隈で下車。
それからは、ひたすらの、散歩。
ハイラインは、あまりにも人が多すぎて、すぐに退散。
昔はこの界隈、がらんとしていたが、
今や人気の観光スポット。
空を仰げば、「○○、ぼくと結婚してくれる?」の文字。
○○ WILL YOU MARRY ME?
○○の名前の部分が、あっというまに風であおられ、消えていた。
プロポーズ、うまく成功したのかなあ。
ユニオンスクエアへ向かう道すがら、
絞り立て、新鮮なジュースの店を発見。
ユニオンスクエアのマーケットはもう終わっていたので、
今度はワシントンスクエアを経由して、SOHOへ向かうことに。
ダウンタウンを歩くときには、だいたい同じようなルートになってしまう。
ウエストブロードウェイにて、
先日の、NEW YORK IDEASのイヴェントで登場した
ギリシャヨーグルトの店を発見!
ヨーグルトには興味があるが、今、味見をする気分ではなく。
パリの人気店、ラデュレもオープンしていた。
夫はシャンゼリゼ店で食べた「タルトタタン」が大好き。
しかし、あいにく売り切れていた模様。
さあれば、特にここでお茶をすることもなく。
ともあれ、果てしなく歩いて疲労困憊。
スニーカーを履いていても、足が疲れた。
というわけで、休憩を兼ねて、
NEW YORK IDEASのイヴェントで知った、
別のベーカリーを訪れることに。
外観の写真を撮っていたら、道行く人が、
「お二人の写真を撮ってあげますよ」
というわけで、店頭で記念撮影。
人気商品は午前中に売り切れる(長蛇の列)とのことで、
夕方のこのときには、「普通」のスイーツしか残っていなかった。
夫の好物エクレアと、焼きたてのミニマドレーヌ。
ラデュレとは違って、気取らないカジュアルな店。
素朴においしいスイーツだった。
日曜日のSOHOは、6時ごろにはほとんどの店が閉まる。
急にあたりは静まり返り、
かつての様子を蘇らせる。
わたしが移り住んだ1996年はすでに、それなりに、にぎわっていたこの界隈。
それよりもずっと時を遡ると、
閑散としていたエリアであった。
ふらふらと、ウインドーショッピングを楽しみながら、
最後にはイーストヴィレッジへ。
昔、何度か訪れたことのあるスパニッシュで、
軽めの夕食を。
先日のTELEPANとはうってかわり、
カジュアルなサングリア。
これはこれで、おいしかった。
野菜のタパスと、一人前のポーションのパエーリャをシェア。
昔なら、軽く一人で平らげていた量であるが、
腹八分で、ちょうどいい塩梅。
なにしろ今日は、おやつもしっかり食べたしね。
長いと思っていた滞在も、
毎年のことだが、あっというまに終わってしまう。
今回もまた、遂には旅の終盤。
気持ちを、インドに切り替えなければ。
しかし今回は、なぜかとても、切り替わらない。
インドが、益々遠い。
困った。
インドにいるときには、
週に1、2回は発信しているミューズ・クリエイション通信。
ニューヨークに来て以来、すっかり途絶えていたのだが、
久しぶりにバンガロールを思いつつ、久しぶりに送信した。
バンガロールはそろそろモンスーンの到来。
マンゴーもおいしい季節だ。
そんなことを思いながら、気持ちをインドに、少しずつ移す。
今朝はヘアサロンへ。
アッパーウエストサイドからミッドタウンイーストまで、
30分ほどの道のりを、歩く。
マンハッタンにいるときには、本当によく歩く。
バンガロールが歩きにくい分、
ここぞとばかりに、歩く。
到着したころからは気温もぐっとあがり、
早歩きの果てに、汗ばんでしまうほど。
目の前を歩く女性の格好よさにほれぼれしつつ、
あんなボディに生まれてみたかったと思う。
ランチのあとは、ミッドタウンを横切り、今度は西へ。
インドでは入手しにくいものを、買い求めるために。
途中で、以前よく訪れていた工芸品店へ。
ミューズ・クリエイションの、「チーム布」のメンバーが見たら、
きっと狂喜するに違いない、それはもう山ほどの手芸用品。
コリアタウンの界隈は、このような卸店が軒を連ねている。
路傍のストリート・パフォーマーを見て、ハッとする。
この「楽器」。そして体つき。
間違いなく、この人、あの人だ!
帰宅後、過去ホームページに掲載した写真を遡ってみたら……やはり!
2000年9月。今から14年前の写真。
夕方は、ホテルに戻り、しばし読書など。
旅行というには長過ぎる半月。
ときにはゆっくりしなければ、心身ともに疲れるというもの。
夕飯もまた、軽めにしたいところ。
夫がサーチしてくれたタイ料理の店を試すことに。
米国の人気店だから大丈夫だろうと思ったが、念のため、確認したところ、
MSG(グルタミン酸ナトリウム、化学調味料)は使われていないとのこと。
米国では「中華料理店症候群」という言葉がある。
わたしも軽症のアレルギー反応があるので、口にしないようにしている。
なにしろ現代のタイ料理の多くは、MSGたっぷりだから、
気をつけねばならないのだ。
昔はがらんとしていたヘルズキッチンのこの界隈。
新しい店がたくさんできていて、雰囲気が一変している。
わたしが住んでいたころ、あったらよかったのに……という店が、
そこここに、何軒も。
料理はさっぱりとした味付け。
麺も野菜もヘルシーにおいしくて、満足。
食事を終えたころには、あたりは夕闇に包まれており。
心地よい夜風に吹かれつつ、ホテルへの道のり。
目の前を、左足が義足で、
両腕肘から下を、包帯でぐるぐる巻きにした男性が、
ぎこちなく歩いていた。
年齢、風貌から察するに、間違いなく傷痍軍人だ。
日本人にとって、最後の戦争は1945年に終わり、
戦場の記憶は遠い。
しかしこの国では、わたしたち日本人が終戦でくぎりをつけたあとも、
延々と、いくつもの戦争を繰り返しており、
今のこの瞬間にも、
血を流し続けている兵士たちがいる。
足を引きずり歩く彼の目に、
きらびやかな街のネオンは、どう映っているのだろう。
映画に見る戦場は、過去ではなく、常に現在進行形。
911直後の、
この国の、アフガニスタン侵攻のすさまじさを思い出して、
しばし、心が凍結した。
先日、記したキッチン用品店、Sur la Table。
クッキングクラスも随時開催されている。
ホームページでクラスの詳細を確認したところ、
いろいろと魅力的な内容。
最も興味のあったいくつかのクラスはタイミングが合わず。
しかし、一度は訪れたいと思っていたので、
今日、時間的に都合がいいこともあり、
ピザ作りの講習を受けることにした。
午前11時の開始。ホテルからは10分足らずのロケーション。
教室では、レシピの資料とエプロンが用意されている。
そして、朝からワインが飲みたくなるようなスナックも。
用意された素材をまぜ、しっかりこねて、まずは生地を作る。
今まで使っていたレシピに比べると、水分が多くて柔らかい。
ちょっとしたコツ、お勧めの銘柄のドライイースト、
そしてその保存法など、
随所随所で、ちょっとしたことが、勉強になる。
自分たちで捏ねた生地が発酵するのを待つ間、
すでに用意されていた生地を使って調理。
奥の二つはオリーヴオイルを入れていないもの。
手前の二つは、オリーヴオイルをいれているもの。
入れていない方が、大きく膨らんでいる。
生地を捏ね、両手で伸ばす。
均等に伸すのではなく、
ちょっと薄い部分もあったりする方がいいのだ、と先生。
正直にいえば、
「そんな形でいいのか?」
というくらいに、乱暴なのだが、そこはアメリカン。
これでいいのだ。
ガーリック、それにトマトのみじん切りをオーリヴオイルで炒め、簡単に味付けをしてソースを作る。
あとは新鮮なモッツアレラチーズとイタリアン・ベイジル。
きつね色になるまでじっくり炒めたタマネギ。
ブルーチーズ、ローズマリーのみじん切り、
そしてジャガイモのスライスの組み合わせ。
こちらはリコッタチーズに洋梨のスライス、
そしてプロシュート。ユニークな組み合わせ。
作って、焼いて、味見をして……。
作って、焼いて、味見をして……。
を、繰り返す。
焼きたてのピザは、どれもおいしかったけれど、
個人的には、ブルーチーズやプロシュートなど、
普段は使わないトッピングがとてもよかった。
夫はブルーチーズを好まないので、
リコッタやモッツアレラを代用して、
もっといろいろとアレンジのきいたピザを焼いてみようと思う。
クラスのあとは、店舗内に移って、
おすすめの調理器具などの説明を受ける。
いろいろと買って帰りたいものがたくさんで、
取捨選択が、悩ましい。
午後は諸々の用事をすませ、
夕刻はセントラルパークを通過する。
5月も半ばで、ツツジやハナミズキが花盛り。
この時節、不安定な天候だけど、
花や緑が麗しくて、やっぱり、いいなあ。
セントラルパークの、シープメドウに寝転んで、
空を仰ぐ。
肌寒い風も心地よい、薄暮のひととき。
韓国人の女子学生によるピアノのリサイタル。
ふらりと立ち寄り、ふらりと聴けることの幸せ。
ついには、明後日、機上の人。
なんだか今回は、いつもよりも名残惜しい、ニューヨーク。
半月余りのニューヨーク滞在も、まもなく終わる。
明日の夜、再びロンドンを経由して、バンガロールへ。
世間に公開する記録ゆえ、基本は「いいこと」を優先して記しているが、
半月のホテル暮らしは、それなりにストレスがたまる。
帰国するに、潮時である。
なにしろ、狭い。
バンガロールの広々とした空間に比すれば、実に息苦しい。
バスルームが1つしかない。
外食続きで、胃腸が疲れる……。
夫と毎日、顔を突き合わせているのは……。
という感じで。
サーヴィスアパートメントを借りればいいのだが、
この時期はどこも込んでいて、
うまく予約をとれた試しがない。
来年は、早めに計画を立てて、早めに予約をした方がいいな。
と、毎年思いながら、実行できぬまま。
毎年、滞在の形は似て非なる。
今回は、エンターテインメントをよく楽しんだと思う。
妻が「遊びほうける」一方で、
夫は休暇中ではあるものの、
ニューヨーク本社には数回足を運び、
それ以外にも、都合25人を超える人たちとミーティングをしたと、
この半月を振り返って、満足していた。
彼は明日、MIT時代、初めての寮生活のルームメイトだった友人トルガと再会する。
ロンドンに住んでいる彼が、たまたま今日、ニューヨークに到着したことを、
Facebookを通して知ったのだ。
普段はFacebookを使わない彼だが、
「旅行のときなどは再会に役立つよ」と提案した矢先のこと。
彼とて忙しいスケジュールにも関わらず、即返信が来て、
「明日のランチは、トルガとNOBUに行くことにしたら」とうれしそう。
今回もまた、わたしより、日本食率が高い夫。
そんな次第で、今日が二人でゆっくり楽しむ最後のランチ。
わたしは先日友人と訪れた、TELEPANに再び。
お店の人が、二人の写真を撮ってくれた。
ニューヨークでは、どちらかがどちらかの写真を撮っていると、
「撮ってあげましょうか」と気軽に声をかけてくれる人が多い。
昼間から、少々酔っぱらっている我。
マンハッタンの住宅街では、犬の散歩をしている人をよく見かける。
凛々しい横顔の犬。かわいらしい。思わず近寄る。
犬好きの夫。飼い主と話を始める。
写真を撮ってもいいですか、と問えば、「どうぞどうぞ」とフレンドリーに。
バンガロールの友人が飼っている犬、チャーリーを思い出した。
実物を見たことはないけれど、
やはりFacebookの写真でよく見ている。
……と、この犬のお名前も、チャーリーであった。
カナダから来た4歳半、
ビーグルとなんとかいう犬(覚えていない)の混血らしい。
毎日、数時間、セントラルパークを散歩しているという。
このあたりは、犬を飼うのに、本当にいいエリアだ。
夫が一足先にホテルに戻ったので、
わたしはアッパーウエストサイドをのんびりと散策。
最後に、毎度足を運ぶ、ジュイッシュ系の高級食料品店、ゼイバーズへ。
ここの2階のキッチン用品コーナーは、
実にごちゃごちゃとしているが、魅惑的な商品がたっぷり。
そして最後の夜は、またしてもリンカーンセンターへ。
今回最後のエンターテインメントは、
アメリカン・バレエ・シアターの「ドン・キホーテ」。
このポスターは闘牛士のイメージ写真だが、実際はそうではなく。
ドン・キホーテとサンチョ・パンサが旅を始めるシーンに始まり、
セビーリャの華やかな舞台。
色とりどりのドレスと華やかな舞踏。
フラメンコを思わせる、しかし艶やかなバレエ。
ドン・キホーテの「夢」のシーンは、
妖精が踊り、まるで「白鳥の湖」を思わせる清澄なイメージ。
これがまた美しく……。
もちろん、オーケストラの演奏もすばらしく、
起伏に富んだ、本当に楽しい舞台だった。
先日のオペラ「シンデレラ」も、
ウィットがきいた、大人のストーリーがすばらしかったが、
この「ドン・キホーテ」は、ただ、見て、聴いて楽しめるものだった。
生まれ変わったら、バレリーナになりたい! と子供じみたことを思いつつ、
ところで舞台には、2名の日本人ダンサーもいたようだ。
日本人の活躍は、なんとなく、うれしい。
さて、明日は荷造りなどをして、旅をしめくくる。
自分の気持ちもまた、いろいろと整理するために、
ゆっくりと過ごそうと思う。
ニューヨーク最終日は、曇天。
時折、小雨が降る中、ホテルからほど近いコロンバスサークルへ。
先日見つけた「眺めのいいレストラン」に予約を入れておいたのだ。
夫は大学時代の友人とNOBUでランチ故、ひとりである。
ひとりでも、最後の食事は気持ちよく過ごしたい。
予約を入れたときには、すでに時遅く、
窓際は満席だったのだが、
どうやら来なかったゲストがあったらしく、
眺めのいい席に通してもらえた。
なんという幸運!
かつて住んでいたご近所さん、
コロンバスサークルと、北に伸びるブロードウェイを見下ろしながら、
こんないい場所に住んでいたなんてと、改めて感慨深く。
わたしが住んでいたころは、
このミュージアムのビルディングも、もちろんこのレストランも、
そして、タイムワーナービルディングもなかった。
目の前にそびえるトランプタワーは、
わたしが暮らしていたころに、建設された。
1996年とは、すっかり様相が変わっており。
ランチはプレフィックスメニューを注文。
まずはスパークリングワイン。
この景観に乾杯だ。
思い出に、今日はしっかり料理の写真も載せておこう。
これは前菜、カリフラワーのスープ。
こちらは主菜、サーモンのグリル。
このような「眺めのよい店」というのは、
料理が今ひとつ、ただ値段が高いばかり……というケースが多いが、
この店は、素材がとても新鮮で、
料理が思ったよりもおいしく、実に幸せだ。
デザートも、いつもは避けているチーズケーキを。
なにしろ典型的なニューヨークのチーズケーキは、
濃厚、甘過ぎの傾向があり、キャンディ的な濃密さ。
しかしこれは、甘みもほどよく、風味豊かで美味だった。
最後にコーヒーで締めくくりつつ、
窓の外に広がる光景を眺めながら、
旅を振り返る。自分のさまざまを振り返る。
この街に出合えてよかった。
この街と縁を持ててよかった。
そんなことを改めて思う。今年は殊更に。
今回の旅は、異質だった。
インドが気持ちから、とても遠く離れていた。
多分、いろいろな因果関係の果てに。
明日のインドは、総選挙の開票日。
インドのこれからが、ぐっと変化する結果となるだろう。
激変するインドの中で、自分のポジションをどう据えるか。
もっと真剣に、考える時機なのかもしれない。
ともあれ、今年もありがとうマンハッタン。
また来年、訪れます。