ここ5年あまり、インドのEコマースが急成長したおかげで、日常の買い物のほとんどを、デリヴァリーですませるようになった。かつては頻繁に訪れていた近所のスーパーマーケット「トムズ・ベーカリー」、通称トムズを訪れる機会も激減した。しかし、どんなに歳月が流れ、新規参入のスーパーマーケットが栄枯盛衰のドラマを展開しようとも、トムズの存在感は他の追随を許さない。
昨日は久しぶりに、トムズに足を運んだ。平日にも関わらず、店内はクリスマス関連の食料を買い込む人々で賑わっている。昔ながらの「昭和ムード」あふれるクリスマスの装飾が、生き生きと郷愁を掻き立てる。
トムズ。ここに久しく暮らすバンガローリアンなら誰もが知る、ごちゃごちゃとした、昔ながらのスーパーマーケットだ。所得階級の差を問わず、地元の多くの人々に愛されている。まだバンガロールの人口が少なく、静かな地方都市だった20年ほど前までは、土地の人々だけでなく、駐在員家族にとっても大切なスーパーマーケットだった。
今では信じられないが、バンガロール東部の新興エリアであるホワイトフィールドに住む友人家族も、ここまで買い出しに来ていた。無論、当時は交通渋滞もなく、速やかにたどり着けたのではあるが。
2年前の記録の残した同店の背景や特徴。加筆修正して、記しておく。
◉バンガロールの老舗スーパーマーケット兼コンビニエンスストアといえばトムズ。ケララ出自のクリスチャンにより1962年に創業された。従業員もまた、その大半がケララ州のクリスチャン・コミュニティが出自だ。
◉西暦52年という早い時期に、インドにキリスト教をもたらしたとされるキリスト十二使徒の一人、聖トマスに因んでの「トムズ」だろう。ローカルのクリスチャンの中には、この店のことを、故に「トマス」と呼ぶ人もいる。
◉創業当初は、ベーカリー&カフェだったこともあり、素朴な味わいのパンやケーキ、スナック類が豊富だ。「昭和テイスト」なドーナッツが安くて美味。かつて、金曜日のミューズ・クリエイションの集いの日には、毎週のようにお菓子を焼いてきたが、自分で作らないときには、トムズのドーナッツ(2005年は1個10ルピーだったが今は18ルピーに値上がり……しても激安)を買い、ふるまったものだ。昨日は久しぶりに買った。素朴においしくて一度に二つも食べてしまった🍩
◉店内には生鮮食品や乳製品、加工食品、各種調味料に日用消費財とあらゆるものが揃っている。リカーショップも併設されており、新銘柄のアルコールは大抵入手できる。売れ筋の商品については、店のお兄さんに聞くと的確に教えてもらえる。リカーコーナーはパンデミックの間に改築されてきれいになった。外には果物店もあるなど本当にコンビニエンス。
◉2010年前後、バンガロールでは、小売業のテストマーケティングが全国の都市部に先んじて行われ、数々のスーパーマーケットの旗艦店が一気に林立した。トムズの行く末を案じたものだが、杞憂だった。新しいスーパーマーケットが数年のうちに淘汰されても、昔と変わらぬ風情のまま、多くの人々に利用されて続けている。
◉イースター、そしてクリスマスの時期には、普段に増して込み合う。昨日も、店内に入った途端、2005年に初めて訪れたときと変わらぬ世界が広がっていた。創業当初から変わらないのであろう、そのクリスマスケーキ(プラムケーキをアイシングでコーティングしたもの)の風情に、毎年、安心させられる。
◉この界隈のクリスチャンにとって、クリスマスケーキといえば、この茶色いプラムケーキが定番なのだ。ドライフルーツやナッツ類が入ったもので、ラム酒の風味が利いているものもある。日持ちするので早めに購入する人も多い。
➡︎Kerala: The sweet story of India's 'first' Christmas cake
https://www.bbc.com/news/world-asia-india-64062202
◉このほか、クリスマスの時期に食べられるローズ・クッキーやKulKulsと呼ばれる菓子類なども山と積まれている。十年以上住んでいつつも、食べたことのないお菓子も少なくない。
◉バンガロール在住、クリスチャンの画家、ポール・フェルナンデス氏の本に描かれた1970年代のトムズ。パンタロン姿の男女が、時代を映している。我が家の近所には、彼のショップ&小さなミュージアムがあり、バンガロール土産に好適な絵画やグッズもある。以下の記録は、彼の講演を聞きに行ったときのもの。
◎昔日のバンガロール、ゴア、ムンバイの情景を慈しみ描く。
https://museindia.typepad.jp/2017/2017/11/paul.html
◎aPaulogy Gallery
https://apaulogy.com/