英国の伝統的なおやつ、ショートブレッドを、初めて焼いた。レシピを見て、あまりにも簡単に作れることを知り、近々試してみようと思っていたのだ。
ミューズ・クリエイションの集いであるところの、毎週金曜日のサロン・ド・ミューズでは、この3年間というもの、ほぼ毎週のように、お菓子を作ってきた。誰に頼まれたわけでもなく、あくまでも自分がやりたかったからだ。
このインドの地においても、食材をうまく使えば、それなりにおいしい料理やお菓子が作れるのだということを実践したい。簡単に、望む味のものが手に入らないからこそ、自分で創造してみたくなる、ということもある。
一般人の作るお菓子が苦手な人もあるのは承知しているから、無理に押し付けるつもりは毛頭ない。
幸い、ほとんどのメンバーが喜んで食べてくれていると思う。金曜の午後の、お菓子を囲んでのひとときは、以前からも記したところの「ロンパールームの牛乳効果」で、特筆すべきものでなくても、おいしく幸せな雰囲気を醸し出してくれる。
ただ、このごろは参加人数が常時25人前後となり、一気に作るには多すぎる人数となってしまった。これからは作る頻度を減らし、その分、ローカルのお菓子を出したり、あるいはみなさんに持ち寄りを頼むなどの頻度を増やそうとは思っている。
が、明日は祝日で参加者が20名を切ったことから、やっぱり、焼いてみることにしたのだった。
なにしろ、使う材料はこれだけ。すべて家にあったもので賄えた。使用したものは、小麦粉一袋500グラム、バターは1パック半、砂糖もちょうど残っていたのが分量とほぼ同じだったので、これを使い切った。
素材はすべて、オーガニック。味わいも、やさしく仕上がるに違いない。
生地は午後、ランチのあとに混ぜ合わせて形を整え、冷蔵庫に寝かせておいた。それを夕飯のあと、取り出して、切り分けてオーヴンで焼く。そのあいだに、食後の食器洗い。
20分もすると、いい香りが漂ってくる。が、まだ焼きが甘い気がするので、追加で5分ほ焼く。
24個分のショートブレッドができ上がった。30個分の分量を24個分に切り分けたので、1つがやや大きめだ。
明かりを落としてみると、これはこれで、おいしそうに見える。刹那、英国の港町、ワージングに3カ月間、ホームステイをしていたときのことを、思い出す。
1995年。今からちょうど20年前の春のことだ。
あの家のお母さんは、お料理上手で、毎食後、デザートが出たものだ。ルバーブのクランブル、ルバーブのアイスクリーム添え……。初めて食べる素材のおやつが懐かしい。レモンカードもよく食卓にのぼったものだ。
「太るから」と、食前のスープを食べず、しかしデザートはしっかり食べていた、丸々と太っていたお母さん。実は非常に難しい人で、決していい思い出ばかりではないのだが、それでも、3カ月もおいしい夕飯を出し続けてもらえたことは、本当に幸運だった。
やっぱり、食は、大切だ。