🌞日本の約9倍の国土面積を持つインドは、ただ広いというだけではない。異なる気候と土壌、食文化を背景に、極めて多様性に富んだ農作物が育まれている。
🌞1991年、経済自由化政策により市場が解放された結果、徐々に海外の食文化が浸透する一方、モンサント社をはじめとする欧米の「農薬会社」が進出。一時期は農作物が高収穫を誇ったものの、綿花農業などは顕著に悪影響を受け、余剰生産その他、数々の問題が発生した。農民らが農薬を煽って自殺するというニュースは社会問題ともなっている。
🌞米国企業などが運び込もうとした「単一作物の大量生産(モノカルチャー)」即ち大規模農園は、インドの風土や食文化に適さない。農業一つをとっても、この国はこの20数年のうちに、ダイナミックな試行錯誤を繰り返している。
🌞インスタント食品、加工食品の台頭と停滞にしても然り。食文化の温故知新にしても然り。食生活のグローバル化は進む一方だが、新旧を巧みに混在させ、「サステナブル」で「エコロジカル」な、昔ながらの土地の特徴を重んじ守りつつの「農業の新しい姿」が追求され始めてもいる。
🍛インド料理といえばカレー、カレーといえばスパイスが閃くばかりというのが、外国人から見るインドの食文化の印象だろう。しかし暮らしてみれば、この国の農作物の多様性を目の当たりにし、その豊かさに感嘆するばかりだ。
🍛穀物、豆類、野菜に果実、オイルにスパイスなどはもちろんのこと、乳製品、ティー、コーヒー豆、カカオ、ワインなどの嗜好品、昨今では各種スーパーフードなどを、この国では自給自足できている。魚介類、肉類にしても然り。先日も記したが、インドはブラジルと並んで世界最大の食肉牛輸出国でもある。
🍛インドの食料自給率は軽く100%を超えている。13億人の生命を支えるだけの潜在力がある。
🍛従来は製法の問題、ロジスティクス(輸送)の問題などもあり、普く国民に届かなかったものが、昨今のインフラストラクチャー整備によって流通網も構築されつつある。それに加えてEコマースの台頭により、これまで店舗では目にしなかった食材を、自宅に届けてもらえる利便性が加わった。即ち、「調理法」や「食べ方」さえ工夫すれば、この国では廉価でおいしい食生活がたやすく実現できる。
🍪前置きが長くなったが昨日土曜日。夕方、ゲストが来訪することになっていたが、気づいたら「お茶菓子」がない。お隣タミル・ナドゥ州の農園で生産されたカカオ豆で作られたチョコレート、SOKLETのダークチョコレートがある。ちなみにこのブランドは、カカオの木から育てて、カカオ豆を収穫、チョコレートを製造するインド初のブランドだ。今や、インド産のカカオ豆を使用したアルチザンチョコレートのブランドは少なくない。
🍪さて、いくらおいしいからといって、板チョコをゲストに出すのも味気ない。もっとも簡単に作れるお菓子ということで、チョコチップクッキーを作った。自宅にあるオーガニックの小麦粉に砂糖、オーガニックバター、フリーレンジの卵、そしてサクサク感を出すためのコーンパウダーとベーキングパウダー少量を全部まとめてざっと混ぜ合わせる。ベーキングシートにポトポトと落とし、小さく切ったチョコレートを載せてオーヴンで焼いて出来上がり。食材のよさが手伝って、ごく簡単に、おいしいおやつの完成だ。
🍸夜はインディラナガールにある友人夫婦宅を訪れた。トゥシャールが作ってくれた、非常においしいカクテルを飲みつつ、彼が手がけるビジネスの一つであるヘルス・アプリ(HealthifyMe)のスナックを味見する。インドでは昔から食べられている「蓮の実 (MAKHANA) 」のスナックだ。ポンポン菓子のような軽やかなそれは、軽くヒマラヤの岩塩で味付けされているだけなのだが、香ばしくておいしい。その上、極めて栄養価が高いことでも知られている。
🍀10時を過ぎてようやく、夕食をとりに徒歩数分の場所にあるレストラン、Sante Spa Cuisineへ。店名からも察せられるとおり、オーガニックの食材を用いたヴェジタリアンで、ヴィーガン料理も出す。3カップル揃って日本料理が大好き、毎週のように寿司だ刺身だを食べている彼らは、「超ノン・ヴェジタリアン」ではあるのだが、トゥシャールが、この店の料理は特筆すべきだというので訪れたのだった。
🍀すでにムンバイやプネ、ハイデラバードやチェンナイに店舗を持つこの店。プレゼンテーションの楽しさ美しさ、食材の豊かさ面白さ、味付けの繊細さ巧みさが秀でていて、どれもおいしい! 昨今のインド都市部は、このような健康志向のレストランが増えているが、この店は画期的だ。メニューの一つ一つを説明したいところだが、この辺にしておく。近所にあればしばしば通うであろうクオリティの高さだ。
🍀インド。住めば住むほどに好奇心がかきたてられ、あらゆるジャンルにおいて、新しい発見は尽きない。不都合を補って余りある刺激。本当に、おもしろい。