土曜の夕暮れ時。TAJ WEST ENDと並んで、個人的に思い入れのあるホテル、OBEROIの緑に満ち溢れた庭へ赴いた。ジャーナリストの友人、SHOBA の新しい書籍の出版記念パーティが開催されたのだ。バンガロールに移住したばかりのころ、わたしは彼女と、とある勉強会で出会った。夫同士はまた、ビジネスでの関わりがあった。
チェンナイ生まれのSHOBAは、ニューヨークやシンガポール在住を経て、わたしたちと同じ2005年に、バンガロールへ移住した。彼女はこれまで、4冊の本を上梓し、経済紙のMintなどにコラムを寄稿してきた。2009年、家族で訪れた京都で舞妓を取材し、自ら舞妓姿に挑戦したエピソードは、今でも彼女のブログ(下記にURLあり)で読むことができる。
彼女たちと同様、ニューヨークに暮らし、同じ年にバンガロールへ移り住んだわたしにとって、彼女の視点によるこの本は、コンテンツ(目次)を読むだけで、強い共感と懐かしさを感じさせる。
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オベロイホテルによって主催された『NAMMA BANGALORE : The Soul of a Metropolis』出版記念の催し。会場は、デカン高原の心地よい風がそよぐ緑に満ち溢れたガーデン。パネルディスカッションの登壇者には、知人のファッション・キュレーターやサイエンティストも名を連ねている。会場に足を運べば、共通の友人らが何人もいて、会話が弾む。
登壇者による同書の説明や印象を聞きながら、わたしは紛れもなく、バンガローリアンなのだなということを、しみじみと感じ入る。旅行者として、初めて訪れて以来、ちょうど20年。2003年12月、初めて訪れたバンガロールの印象と、現在の街の様子の、激変したところ、変わらないところ……。脳裏で記憶が巡り巡る。
バンガロールの食、文化、芸術、ライフスタイル、自然、人々……。カテゴリー別にまとめられたこの本は、バンガロールを知る上で役立つ「情趣を伴ったガイドブック」のようでもある。
SHOBAと我が家の住まい(旧居)が比較的近いこともあり、わたしのThom’s Bakeryはじめ、老舗の飲食店や商店への愛着に触れた描写にさえ、共感を覚える。サウスインディアン・コーヒーやビール、ワインなどへの思い、伝統的な建築物への視点など、さっとページをめくるだけでも、随所に、自分の印象と重なる部分がある。同じ街に住み続けていてなお、沸き上がるノスタルジア。感傷的な心持ちにさせられる。
もう、18年も経ったのだ……。
そう、インドでの暮らしは、普段はもう喧騒にまみれて怒涛。感傷に浸るには余りにリアルな日常で、事実は小説より奇なり。さらには四季の変化に緩やかなバンガロールでは、季節の変わり目の移ろい、センチメンタルな心の動きを自らの内に見いだしにくい。ホテルのロビーに飾られたクリスマスツリーを見て「そうだそうだ、師走なのだ」と再認識するくらいだから。
しかし、この日の夕暮れは、鬱蒼の緑の中で、登壇者の語りを聞きながら、バンガローリアンである自分をしみじみと振り返り、浸ったのだった。
その後、ホテルの一隅で提供されたドサやワダ、カスタードプリンなど、「インドならでは」の軽食やスイーツが楽しくおいしく、ゲストらとの交流も楽しく、いい時間を過ごしたのだった。
そしてこの日は、我が家にしては珍しく、パーティのハシゴである。師走といえば催しに溢れており、友人らは一晩に2、3のイヴェントを掛け持ちすることも少なくない。わたしはこう見えて(!)連日のパーティは苦手だし、深夜の帰宅にならぬよう早めに退散するし、ましてや一晩に2イヴェントは避けているのだが、この日はどちらも、大切な催しだったので、出かけることにしたのだ。(つづくのだ)
◉NAMMA BANGALORE : The Soul of a Metropolis
https://www.amazon.in/NAMMA-BANGALORE-Metropolis-SHOBA-NARAYAN/dp/9357024662
◉SHOBA NARAYAN
https://shobanarayan.com/
◉My Life as a Geisha
https://shobanarayan.com/my-life-as-a-geisha-condenast-traveler-october-2009/