日曜の午後。夫は遅くに起床して、朝食が遅かった。しっかりランチを食べたのでは、夕飯が入らなくなる。夕飯は久しぶりに北インド家庭料理を作る予定につき、軽めにすませたい。
オーガニックのジャガイモ。すぐに芽が出るジャガイモが、キッチンの一隅で「早いところ、使ってくれ」と叫んでいる。仕方ない。ジャガイモだ。
ジャガイモだけ?
と、そのとき、閃いた。数週間前にネット上のどこかで見かけたハッセルバック・ポテト(Hasselback potatoes)のことを。
スウェーデンでは、肉料理などの付け合わせとして出されるというこのポテト。単なるジャガイモが華やいで見えて、しかもおいしそうだ。チーズだとかなんだとか、トッピングのアレンジもあれこれあるようだが、シンプルにオリーヴオイルとオーガニックのバターを使うことにした。あとは、塩胡椒。庭のパセリ。
片面を薄く切って底にし、まな板の上に載せて安定し、両端を挟むように、割り箸を置く。その上から包丁で薄く薄く切る。割り箸で包丁が止まるので、下まで切れてしまう心配がない。
パウンドケーキの型にぐいぐい詰め込んで、塩胡椒、オリーヴオイルをふりかけて、250度ほどに熱したオーヴンで焼く。40分ほどか。最後にバターを載せ、パセリをまぶして完成。
この見た目に、一瞬、焼き菓子だと勘違いした夫、ジャガイモと知るや否や、明らかに落胆。まあ、そう落ち込むなよ!
芋だけ、である。
従っては、ロケーションを変え、サンルームでワインを開け、「演出」してみる。
芋だけ、だけど。
しかし、表面の皮の部分はパリパリと香ばしく、中はホクホクとやさしく、かなりおいしい。とてもおいしい。また作りたいと思わせる味わいだ。特にオーガニックのジャガイモは、味に力があるので、よい。
ところでスウェーデンもまた、わたしにとっては忘れ得ぬ国のひとつ。あれはかれこれ25年前。当時、昭和シェル石油のクレジットカード会員向けの情報誌の編集者をしていた。
非常にたいへんな(のひと言では語れないほどにたいへんな)仕事であったが、隔月で、2カ国ずつ、海外取材に出かけられるのが、たいへんな魅力だった。しかも、ドライヴ旅。世界各地のシェルで給油する、というシーンさえ撮れれば、ルートなどはほぼ自由に決められた。もちろん、プレゼンでクライアントに承認してもらう必要はあったが。
インターネットのない時代。図書館や政府観光局を訪れ、情報を収集して旅先を決めた。
スウェーデンへは、まずデンマークのコペンハーゲンから入り、高速船でマルメへ。南端からスコーネ地方を走り、当時、欧州一長かった橋を渡ってエーランド島へ行き、それからガラス工房が点在するガラス王国を走った。
ガラス工場では、ガラスを焼いた余熱でニシンを焼いて食べるという伝統を体験できるプログラムを企画していた。そのときに食べたジャガイモやソーセージ、ニシンのおいしさといったら、なかった。
懐かしい。
遠い昔、ニューヨークでわたしが出版していたフリーペーパー、muse new york。「旅するミューズ」という連載に記していたスウェーデンの記録が、ネットの海の底深く、沈んでいたので、今、引き上げてみた。
こちらをお読みいただければと思う。
◎ガラスの国、妖精のダンス (←Click!)
ちなみにこの陶器の皿は、社会人になったばかりのころ、駆け出しの編集者として旅のガイドブックを作っていたとき、スペイン取材で購入したもの。バルセロナ・オリンピックの準備で沸くバルセロナのゴシック地区にある陶器店で買った。
1989年だったか。その店の近くにあったチョコレートドリンク専門店で飲んだ、そのトロトロ、いやドロドロとしたホットチョコレートと、マヨルカ島名産のエンサイマーダという菓子パンの、なんとおいしかったことか。遥か遠い昔のことなのに、つい最近のことのように思い出す。
だめだ、また話が長くなった。
芋だけ、なのに。
前のめりすぎだよ、ROCKY。