しばしば書いているが、我が夫は日本料理が好きだ。1996年、ニューヨークで彼と出会った当初から、日本料理が好きだった。
彼が初めて日本食を口にしたのは、わたしと出会う数年前の大学時代。ボストンにある日本料理店で「天ぷら」を食べたのが初体験だという。
彼が新卒で勤務していたミッドタウンにあるオフィスの向かいには、今はなき「築地 寿司清」という寿司屋があった。仕事の終わり、そこでしばしば、寿司を食べていたらしい。なんという贅沢者。
わたしの新卒時代といえば、東京で、極貧で、寿司はおろか、ろくなものを食べていなかった。当時のボーイフレンド(1つ年下の大学生)と、月に一度、「肉のハナマサ焼き肉食べ放題」へ行き、1カ月分の肉を食べまくるのが習慣だったというのに。
二人で居酒屋などへ行くときも、食事代を浮かすために、まずは近所でラーメンを1杯食べて「腹ごしらえ」をしてから、出かけたものだ。どれだけ旺盛な食欲か、という話だ。
バックグラウンドが異なる我々夫婦の最大の共通点は食の嗜好。「国際結婚」における、さまざまな齟齬や軋轢を乗り越えて、食欲が共通していることで救われた事態は多々ある。彼がもしヴェジタリアンだったら、我々は多分、結婚に至っていなかった(断言)。そこを乗り越えられるだけの愛も、なかった気がする(残念)。
さて、西京味噌である。幾度となく記しているが、海外留学や海外在住経験のあるインド人にとって、日本料理は欧米や香港、シンガポール、あるいはオーストラリアあたりで食したものがスタンダードとなる。日本へ赴いた経験のある人は圧倒的に少ないから、日本での日本料理に親しみがない人が多い。
寿司、刺身(サーモンが主流)、天ぷらなどの定番もさることながら、ニューヨークの日本料理店でよく見られるところの、「えだまめ」「揚げ出し豆腐」「銀ダラの西京焼き」「ハマチカマ」「豚の角煮」「茶碗蒸し」「ナスのシギ焼き」「ナス田楽」「ウナギの蒲焼」「焼き鳥」などは、夫がどれも食べたがる料理。
特に、「西京焼き」系は、日本人が思う以上に、米国でも人気メニューのはずだ。我が夫も例に漏れず、先日Yataiiを訪れた時にも、「タラの西京焼き」には即座に反応をして、注文した次第である。
前置きが長くなったが、昨夜は簡単に、豚バラ肉とキャベツで炒めようと思っていた。ところが行きつけのポークショップの豚バラ肉(コリアンスライスポーク)が品切れだったので、スペアリブを購入。
仕事が立て込んでいるので、料理の時間を節約したく、閃いたのが西京味噌グリル。ホイル焼きにしたいところだが、ホイルが肉に直接あたるのに抵抗があり、間にクッキングペーパーを敷く。
先日、紙工場を訪れて以来、一般のクッキングシートにも有害物質が含まれるものがあると知り、使用に抵抗を覚えているのだが、自宅にあるのはニューヨークのホールフーズで買ってきた、環境にも人体にも害を与えないと明記されたもの。少々割高でも、毒性の低いもの(ないもの)を利用したいものである。
スペアリブを並べ、西京味噌を塗り塗りし、軽く塩と醤油をかけて包み、「オーヴントースター」で30〜40分ほど焼く。低中温で長時間焼くほうが、多分、肉が柔らかくなる。タイマーは15分しかないので、2、3回、巻き戻す。ただそれだけの、簡単さ。
我が家のオーヴントースター、年季が入っているが、大活躍である。魚の塩焼きなども全部これですむ。オーヴントースターはかなり高温になるので、庫内に匂いが残らないのも魅力。我が家は電子レンジを敢えて置いていないので、オーヴントースターの使用頻度が高いのだ。
昨夜炊いたヘルシーなブラックライスの残りを、軽く茹でたグリーンピースと使いそびれていたマッシュルーム(乱暴に、手で握りつぶす)で炒める。マッシュルームは包丁で切るより、手でクラッシュしたほうがおいしい気がする。
いっそ包丁とまな板を使わずに料理を完了しようと思ったが、ほどよく熟していたトマトがあったので、適当に切って、ホワイトビネガーとオリーヴオイルで和える。豚の脂肪を気持ち、洗い流してくれる感じ。
蒸し焼き上がった豚スペアリブのおいしいこと! 夫も大喜び。久しぶりに「これまでの人生で食べた料理でもっともおいしい」発言が出る。前回のおいしかった料理をすぐに忘れるので、結構、頻繁に、「人生でいちばん」が更新される。幸せな性分である。
生姜のすりおろしでも添えると、風味が増したかもしれん。
というわけで、西京味噌、最強。と、心中でつぶやきながら、黙々と食す、夕食であった。お試しあれ。
ちなみにカップに入っているのは茅乃舎の野菜だしを煮出して、ほんの少しバルサミコ酢と醤油を垂らしたもの。これも簡単においしい。