4泊5日のケララ州コチの旅を終えて、一昨日の夜、バンガロールに戻ってきた。しかしながら、書き残しておきたいテーマがまだいくつもある。いつも、旅を終えたら日常に戻り、新しい出来事が重なり、旅記録を残す衝動が損なわれてしまう。だから極力、旅の最中に書き留めておきたいのだが、今回もまた、取りこぼした。
経験して、有意義に思ったことは、たとえ関心がある人が少ないとしても、誰かとシェアしたいし、何より未来の自分のためにも、残しておきたい。しかしながら、何につけても歴史と文化の多様性が深く潜んでいるインド。書いている最中にも、調べておきたいことが次々に発生する。
食文化もその一つ。
インドに暮らして18年目になる。この歳月、それなりに、いろんなインド料理を口にしてきたと思う。ケララ料理だって、あれこれ食べてきたつもりだった。たとえばアーユルヴェーダの理念に基づいた、健康的なサトヴィック料理。ココナツオイルやバナナの花、さまざまなスパイス、ふっくら丸い米……。
米の粉で作られたパンケーキ「アッパム」や、アッパムと共に食すホワイトシチューは定番だ。
ヴェジタリアンの料理が主体かといえば、そうではない。ケララは牛肉を含むさまざまな肉料理や魚介類の料理も豊かだ。今回は、ケララ州の、いや、このフォート・コチだけでも、その料理の多様性の極みを思い知った。わたしの味覚や胃袋を満たしてきたそれは、氷山の一角に過ぎないのだということを、旅をして改めて思う。
無論、4泊5日の滞在中に食べた料理は限られている。しかし、その奥行きを知ることができたのは、今回、「コチ=ムジリス・ビエンナーレ」の展示の一つが契機だった。「Table」というタイトルの展示をしていたアーティストでありキュレーターでありライターでもあるTanya Abrahamにお会いし、ほんの短い時間ながら言葉を交わせたのは有意義だった。
彼女の執筆した2冊の本を教えてもらい、ホテル近くの書店に立ち寄り、早速、購入。
1冊はフォート・コチの「知られざる歴史」を記したもの。そしてもう一冊は「食」を通して、フォート・コチの歴史をたどるもの。数千年前の古代、アラブ人がスパイス貿易をしていたころからの影響を受けている食の世界……。この1冊を仕上げるのに4年の歳月を費やしたというが、開いてみて納得する。
前半は、フォート・コチの多様なコミュニティの歴史や文化、後半はそれぞれのコミュニティの代表的な家庭料理のレシピが記載されている。
シリアン・クリスチャン、ラテン・カソリック、マラバリ・ジュウズ、アングロ・インディアン(インド人と英国人の混血)……と、フォート・コチの過半数を占めるクリスチャンや、今ではもう風前の灯のユダヤ教徒のコミュニティに伝わってきた料理など。単なるレシピ本ではない、食の背後にある歴史がわかりやすく綴られていて、なんとも魅惑的な内容だ。
「月光ライブラリ」には、インドの多様性の片鱗を示す料理の本もたくさんある。それらのこともまた、いつか記したいものだ。
今回の旅。最後に泊まったホテルの「家庭料理」が、極めておいしかった。作り置きではない。すべての料理が、注文を受けてから作られる新鮮なものばかり。だから、唐辛子が苦手な夫のリクエストにも応えてもらえる。また、Tanya含め、地元の人、複数名が勧めてくれたローカル食堂Fusion Bayの料理も最高だった。ナスとヨーグルトの煮込み、海老のシチュー、魚の蒸し焼き……。他の料理も試したかった!
🌶
Instagramの、1回に投稿できる写真が10枚で、文字数が2000文字で、むしろよかった。さもなくば、際限なく書き続けてしまう。
◉Eating With History: Ancient Trade-Influenced Cuisines of Kerala
https://www.amazon.in/Eating-History.../dp/9389136261
◉Fort Kochi, Art, Therapy and Food: A Peek Into Tanya Abraham’s Creative World
https://eshe.in/2020/12/24/tanya-abraham/
🍴FUSION BAY
https://www.zomato.com/kochi/fusion-bay-fort-kochi