古くから、「パブ・シティ」として知られるバンガロール。数年前からマイクロブリュワリーが急増し、益々アルコール指数が上がっている。
英国統治時代。ビールが好きなインド在住の駐留英国軍は、本国から届けられるビールを待っていた。IPA (Indian Pale Ale)は、インド輸出用に製造されたもので、海上輸送中に傷まぬよう、防腐剤の役割を持つホップを大量に投入したことから、香りと苦みが強いという。個人的に、このIPAがもっとも好きなビールのひとつだ。
やがて英国人たちは、本国からのビールを待ちきれなくなり、1857年、バンガロールに醸造所を創業した。キングフィッシャー・ビールでおなじみのユナイテット・ブリュワリーの前身だ。印パが分離独立した1947年、同社に勤務していたヴィッタル・マリヤは、22歳という若さでディレクターとなり、やがて同社を経営するに至った。
かつてビール工場があったユナイテット・ブリュワリーの拠点は、2008年に「UBシティ」と呼ばれる商業コンプレックスに生まれ変わっており、ビジネス・ビルディングや、高級ショッピングモールなどを擁している……と、綴り始めれば尽きぬので、このへんにしておく。
さて数カ月前、バンガロールのMGロード沿いにオープンしたリカーショップ、TONIQUE。1号店はハイデラバードにオープンしていたが、規模に関しては、バンガロール店が「アジア最大の店舗スペースを擁するリカーショップ」とのこと。
オープン直後に下見に行こうと思っていたが、わたしは8月31日に帯状疱疹を発症して以降「アルコール欲」が激減していたことから、店内に入る好奇心を完全に喪失していた。日本旅を経て、アルコール欲が復活した先日、店内に入ってみた。
広い。「無駄に」といってしまいたいほど広い。空間が多い、即ち品数はさほどでもないとの印象を受けるが、それでもこれまでのインドのリカーショップのスケールを思えば、隔世の感ありだ。店のスタッフに話を聞きながら、この10数年の「インド・アルコール史」が、走馬灯のように脳裏を駆け巡る。
最近お気に入りだったBIRAのIPAが、いつも売り切れている。ここにもない。他にお勧めのクラフトビアはないかと尋ねたところ、スタッフのお兄さんが強く勧めてくれたのが、この “EIGHT FINGER EDDIE” というゴア発のIPA。試しにと4本購入。
その他、ワインやスパークリングワインなども少しずつ。日本のアルコール類も少ないながらも陳列されている。
さて、 “EIGHT FINGER EDDIE”を昨日飲んでみたところ……。パンチの効いた苦味走りっぷりで、旨い! かなり好みの香りだ。アルコール度数は6%とやや高め。このところお酒に弱くなっているのか、1本飲んだだけで、やや酩酊気味となってしまった。
夫も気に入った様子で、2本目を開けている。また今度、買いに行こう。EIGHT FINGER EDDIE(8本指のエディ)という名前が気になって調べてみた。
Yertward Mazamanian。アルメニア系米国人で、1960年代後半、ゴアのアンジュナビーチに移住。ゴアをヒッピーの聖地にする端緒を築いた人物らしい。彼は生まれた時から、右手の指が3本しかなかったことから、「8本指のエディ」と呼ばれていたとのこと。ビール1本にもインドの歴史が透けて見えて、おもしろい。長閑な週末に、乾杯!
追記:帰路の車中、ドライヴァーのアンソニー曰く「エントランスに今、塀を作っている最中だそうですよ。向かいにマハトマ・ガンディの像があるので、アルコールショップが強くアピールされるのはよくないと、行政から指示があったそうです。夜間の照明も最低限にと言われたそうです」とのこと。伝統とモダン、保守と革新が混沌と混在するバンガロール。「なら、最初から言えよ!」というようなことが、次々に襲いかかってくるのがデフォルト。たいへんそうだな。ちなみにアンソニーは、ローカル言語によるローカル情報を入手してくれる、貴重な情報源でもある。