旅が好きだ……という一方で、出不精の側面もあるわたしは、家で過ごすことに、あまり抵抗がない。昨年3月下旬からのロックダウン以降、空に飛べないのであれば、制限の多い中、近所をうろうろしても、さほど楽しくない……と思っていたが、今年に入って、危機感を覚えた。
頭の回転が悪くなっている。記憶力が低下している。猫らと戯れている場合ではない。刺激を与えねば。
……かくなる次第で、昨日は、約10カ月ぶりに、インディラナガールへ出かけた。自宅から5〜6キロのご近所、バンガロール市街東部。30年くらい前までは、閑散とした住宅街だったが、今は「ちょっとした繁華街」だ。
南北に横たわる目抜き通り、100フィートロードは、無理やり例えるなら、東京の表参道、福岡の天神西通り、といった位置づけか。
100フィートロードに交差するCMHロードや12th Mainロードにも、ブティックや飲食店が軒を連ねる。過去16年を振り返るだけでも、栄枯盛衰は著しい。10カ月も足を運ばなかったのは初めてのこと。潰れた店が多いだろうと、覚悟はしていた。
祝日とあって交通量は少なく、速やかに流れる車。車窓からの光景は、さほどの変化なく、人々の往来もある。
行ったことのない店でランチをとろうと調べていたら、天井が高くて雰囲気の良さそうな東アジア料理の店を見つけた。開放的な空間が好きだという理由だけで決めた。
そこは、「アムステルダムの運河沿いの家」並みに、間口が狭くて奥行きのある構造だった。ちなみにアムステルダムの間口が狭いのは、輸送に使われる運河に面している家は、その長さに応じて「間口税」が課せられていたため、狭く建築される傾向となった。
メニューを見て選択肢に悩む。MSG(化学調味料)不使用ということなので、珍しくラーメンを頼んでみた。決して「おいしい!」とは言えなかったが、海鮮スープがいい味だった。が、もう来ることはないだろう。
その後、Nature’s Basketへ。この店は、2005年、ムンバイ拠点のゴドレージ財閥のCEO夫人が立ち上げた高級スーパーマーケット。輸入食材を扱うスーパーマーケットのパイオニアだ。ムンバイと二都市生活をしていたころ、我々夫婦の住まいは、南ムンバイのカフパレードだった。道路を挟んで目の前にワールドトレードセンターがあり、そのグランドフロアにオープンしたばかりのNature’s Basketがあった。ずいぶんお世話になったものだ。
ちなみに、Nature’s Basketは、2019年、RPサンジヴ・ゴエンカ・グループの小売事業部門であるスペンサーズ・リテールに買収されている。
昨日はあちこちの店を回る予定だったのに、この店で、ずいぶん長い時間を過ごした。商品を手にとって吟味することの大切さを、久しぶりに思い出す。
利便性を追求しすぎると人間はダメになる的なことを、あれほどガンディ先輩から口酸っぱく言われていて、それをさらには、自ら若い世代に伝え続けているにも関わらず。衛生面には気をつけつつも、外に出ねばならぬと痛感する。
店内をじっくり眺めつつ、お気に入りのスナック菓子(ムンバイの老舗)やバンガロール郊外で製造されている本気ポークソーセージ、先日「歯」の動画で紹介した高品質ケララ産チョコレート、引きこもりライフで不可欠となったバンガロール産シングル・モルトのAMRUT FUSIONなど、あれこれと買い込む。
そして、お気に入りのカフェ、LAVONNEへ。ここは、バンガロールに古くからある製菓学校に付属するカフェで、フランス風の焼き菓子やパンなどが楽しめるのだ。
義父の命日に買ったのと同じ白い菊が上品に飾られた、大きなテーブルに席を取る。久しぶりにスイーツを味わい、カフェラテを飲む。傾き始めた日差しの眺めも心地よく、旅をしているような気分になる。すいぶん、長居をした。夫の好物、エクレアとチーズケーキをお土産に買った。
他に、ブティックなどを巡るつもりが、ランチと買い物、そしてカフェで終了してしまった。遠くへ旅に出られずとも、身近にある魅力的な場所を、これからは彷徨ってみようと思う。