⬆︎バンガロールのコーヒー省にある販売店&コーヒーハウス。昔ながらの食堂で軽食を楽しんだ後、サウスインディアン・コーヒーで締めくくる。
⬆︎伝統的なサウスインディアン・コーヒーを淹れる際に用いる器具
⬆︎ローカルの食堂でドーサやワダを食べた後、このステンレスの容器に入ったサウスインディアン・コーヒーを飲む。飲み方は下に添付の動画を参照のこと。
⬆︎最近、日本でも飲める店があるらしきBLUE TOKAI。インド国内は、他のブランド同様、オンラインでも手軽に購入可能。いろいろ試したが、坂田は個人的に、Blue Tokai誕生以前から、Monsoon Malabarが好き。ちなみにアルチザンコーヒーのブランドが、インドのハーブティーやアルチザンチョコレート(カカオ豆も南インド産)のブランドとタイアップしているケースも多い。アルチザン系をMake in Indiaでまとめるマーケティングは、消費者にとってもうれしいものだ。
BLUE TOKAI https://bluetokaicoffee.com/
☕️このところ、日本でも「南インドのコーヒー」のことが、「ちらっと」話題になっているようなので、ここに南インドのコーヒーに関する情報を整理しておこうと思う。今後も過去の情報を「発掘」したら、ここにまとめる予定。コーヒー好きの方はブックマークをどうぞ。
*『AGORA』2020年5月号に掲載。文字数1000文字のところを、間違って2000文字書いてしまった。書いた後に気づいたので、オリジナルを残し、削ったものを入稿した(上の写真)。
【AGORAアゴラ(JALカードの上級会員誌)に寄稿した原稿のオリジナル】
インドを代表する嗜好品といえば、紅茶を思い浮かべる人が多数だろう。しかし、ここ南インドでは、昔から紅茶よりも、コーヒーが愛飲されている。南インドは赤道を中心に南北25度の範囲内であるところの「コーヒーベルト」に位置しており、ここカルナータカ州とケララ州、タミル・ナドゥ州は、コーヒー豆の一大産地なのだ。
インドにおける紅茶の歴史は19世紀の英国統治時代に始まるが、コーヒーの歴史はさらに古く17世紀に遡る。当時、コーヒー豆は、生産者や商人らの利権を独占すべく、アラビア半島から持ち出すことは禁止されていた。そんな時代、ここカルナータカ州チッカマガルール出身のイスラム教聖人ババ・ブーダンが、メッカ巡礼の帰路、現在のイエメンに滞在。その際、「7粒のコーヒー生豆」を盗み、こっそりと隠し持って帰国、故郷で発芽させることに成功した。
18世紀になると、英国人によって商業プランテーション(大農園)が本格化、南インドのコーヒー産業は発展を始めた。コーヒーの木の疾患(サビ病)によって壊滅的な被害を受けた時代もあったが、現在は世界7位の生産高を誇る。
インドのコーヒー生豆は、主にアラビカ種とロブスタ種の2種類。高地で栽培されるアラビカ種は、マイルドで香り豊か。繊細で栽培が難しい分、市場価値が高い。一方、タフで栽培しやすいロブスタは、芳香が強めであることから、ブレンドに使用されることが多い。
ここベンガルール市内には、インド経済産業省下のコーヒー委員会があり、コーヒー豆の生産や輸出を管理。6〜7割が輸出、残りが国内で消費されているという。
伝統的な「サウスインディアン・コーヒー」の飲み方は、「フィルターコーヒー」と呼ばれれ、二層になった円柱形の器具を用いる。底にたくさんの小さな穴が開けられた上層のフィルターに、たっぷりのコーヒーパウダーをいれ、軽く内蓋を載せ、少量のお湯を注いでゆっくりと抽出。デコクションと呼ばれる濃縮液を作る。下層に溜まったそれを少量、金属のカップに入れ、煮立たせた牛乳を注ぐ。たっぷりの砂糖を入れ、金属の器をふたつ使い、高い位置から繰り返し注いで撹拌する。そうすることでいい香りがあたりに漂い、ほどよく飲みやすい温度になり、まろやかな味わいになる。
インドにおけるコーヒーの革命を起こしたのは、チッカマガルールを本拠地とするコーヒー豆の貿易会社「カフェ・コーヒー・デー」だ。アラビカ種のコーヒー豆生産及び輸出においてインド最大規模を誇る同社は、1996年、ベンガルール市内にコーヒーショップをオープンした。従来のインドにはなかった「若者たちの集いの場」「WiFiカフェ」として、瞬く間にインド全国に店舗を拡大。現在では、ウィーンやプラハなど海外にも店舗を展開している。同店のコーヒーは、シアトル系コーヒーで知られる、いわゆる「セカンドウェーブ・コーヒー」。伝統的な南インドの飲み方とは異なる、カフェラテやカプチーノ、エスプレッソほか、コールドコーヒー、軽食類が楽しめる。
そんなインドのコーヒー業界に、数年前、新たなトレンドが生まれた。米国発のサードウェーブ・コーヒー、すなわちコーヒーブームの「第三の潮流」だ。「ブレンド」ではなく「シングルオリジン」の良質なコーヒー豆を用い、焙煎や抽出方法にも配慮、1杯ずつ丁寧に淹れるのが特徴だ。米国では「ブルーボトルコーヒー・カンパニー」がそのパイオニアとして知られている。ベンガルールでは、コーヒー・エステートを持つ一族に生まれた若い世代が新たな試みとして、あるいはコーヒー豆農家を支援するスタートアップが「アルチザン・コーヒー」と称して、高品質のコーヒーを販売する旗艦店をオープン。産地直送のコーヒー豆を用い、焙煎したばかりの香り豊かな深みある味わいのコーヒーを提供している。
マイルドに優しいもの、やや酸味があるもの、フルーティなもの……と、同じ南インドのコーヒー豆でも、その産地やブランド、焙煎方法によって味わいが異なる。
代表的な店に、「サードウェーヴ・コーヒー・ロースターズ Third Wave Coffee Roasters」「ブルー・トカイ Blue Tokai」「アラクAraku」「ザ・フライング・スクアラルThe Flying Squirrel」「カフェ・メカニクス Coffee Mechanics」などがある。
どの店のカウンターにも、日本の喫茶店文化を彷彿とさせるHARIOのドリッパーやサーヴァー、ケトルやサイフォンが恭しく並べられている。ほとんどの店は、若者たちでいっぱい。ラップトップ持参で、オフィスよろしく真剣に画面に向かいつつコーヒーを飲む人もいれば、大きなテーブルで活発に議論する人たちもいる。ここもまた、次代を担う人々の、大切な社交の場でもあるようだ。
そんな洗練されたコーヒー文化が浸透する一方で、「ハッティ・カーピHatti Kaapi」のように、昔ながらのサウスインディアン・コーヒーの飲み方をモダンにアレンジ、金属製のカップに注がれたミルクたっぷりの甘いコーヒーを出す「温故知新」系の店もオープンしている。
ちなみにサウスインディアン・コーヒーを試せる場所は大きく3つのカテゴリーに分けられる。昔ながらのローカルな味わいを体験するなら、ドーサやイディリ、ワダといった、典型的な南インドの朝食が楽しめるローカル食堂で。この場合、コーヒー豆は廉価なものが用いられており、カサを増すためにチコリが配合されている場合もある。それはそれで、砂糖をたっぷり入れて飲むと風味も増し、独特の味わいがある。次に、既述の「温故知新」系のカフェ。こちらはコーヒー豆の品質も比較的よく、モダンな店内で伝統的なコーヒーを味わえる。
優雅な雰囲気で良質のサウスインディアン・コーヒーを楽しみたいなら、タージやオベロイといったインドの高級ホテルにあるカフェがおすすめ。ただし、注文時には必ず「サウスインディアン・フィルターコーヒーを」と伝えるべし。さもなくば、一般的なカフェラテやカプチーノを出されてしまう。コーヒー一つをとっても、多彩な楽しみ方ができるベンガルール。これからも時代に応じた「愉しみ方」を提案する店が誕生することだろう。
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♨️必見動画♨️
南インドのコーヒー。歴史と伝統、そして現在。飲み方も説明
*この動画は、2020年5月18日に、坂田マルハン美穂個人のチャンネルにて公開したものを、ミューズ・クリエイションのチャンネルに転載したもの。ちょうど1年前、動画の撮影&編集を始めたばかりの時期で、動画をトリムする方法すらわからず(先に調べろよと自分に言いたい)流しっぱなしにつき、冗長な点もあるが、内容は濃く充実しております。それなりに面白いので、お楽しみください。
[CONTENTS]
●南インドのコーヒー文化を語るに際しての背景 日本航空発行の情報誌『アゴラ』に坂田マルハン美穂が寄稿した記事に関する説明。
●南インドのコーヒーの歴史
●インド産コーヒーの拠点バンガロール
●サードウェーヴ・コーヒー(高品質)のブランド。BLUE TOKAI, ARAKU COFFEEなど
●伝統的なサウスインディアン・コーヒーの楽しみ方(淹れ方)
●旅のお供にコーヒーを
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☕️南インド産コーヒー豆を使ったアルチザン・コーヒーのブランド
🌱Third Wave Coffee Roasters
➡︎https://www.thirdwavecoffeeroasters.com/
🌱Blue Tokai
➡︎https://bluetokaicoffee.com/
🌱Araku
➡︎https://www.arakucoffee.in/
🌱The Flying Squirrel
➡︎https://www.flyingsquirrel.in/
🌱Coffee Mechanics
➡︎https://www.coffeemechanics.co.in/
🌱Toffee Coffee Roasters
➡︎https://toffeecoffeeroasters.com/
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⬆︎ケララ州コチを旅したときに立ち寄ったローカル食堂。やっぱり締めくくりはサウスインディアン・コーヒーで。
⬆︎2016年ごろから、いくつかのアルチザン・コーヒーのブランドが誕生、瞬く間に普及している。
⬆︎高級ホテルで注文する「サウスインディアン・コーヒー(もしくはフィルターコーヒー)を、デコクションで。しかもコーヒーとミルクをセパレートで出してほしいと頼むと、実演してくれるところもある。過去十数年の間にも、イタリアンなマシンで出されるカフェラテやカプチーノが一般的になったけれど、わたしはこの「昔ながらの出され方」が好き。自分で「濃度調整」しながら飲むのも楽しいのだ。
☕️カフェ乱立の昨今、南インドコーヒー取材(2020年2月)
➡︎https://museindia.typepad.jp/eat/2020/02/coffee.html
☕️南インドはコーヒーの産地。伝統的な飲み方があるのだ。(2018年5月)
➡︎https://museindia.typepad.jp/eat/2018/05/southindiancoffee.html
☕️今しばらくは、翼を閉じて。2020/05/10
➡︎https://museindia.typepad.jp/2020/2020/05/ld046.html
【ワールドクラスのコーヒーを提供するARAKU COFFEE関連】
☕️ARAKU COFFEE(夫の友人マノジが経営するコーヒー会社。マノジはソーシャル・アントレプレナーとしても社会に貢献する実業家。下に動画あり。
➡︎https://www.arakucoffee.in
☕️ARAKU COFFEEのすてきなカフェレストラン、パリに次いで、遂にオープン
➡︎https://museindia.typepad.jp/2021/2021/03/araku.html
☕️まちがいなく常連と化す。I had lovely lunch at ARAKU COFFEE again.
➡︎https://museindia.typepad.jp/2021/2021/04/araku.html
☕️お好み焼きではありません。ARAKU COFFEEで、日本男児2名とランチ
➡︎https://museindia.typepad.jp/2021/2021/04/araku-1.html
💝ARAKU COFFEE/ 高品質オーガニックコーヒーを生産するソーシャルアントレプレナー。アラク・コーヒー創業者マノージが語る日本との関わり/撮り下ろし
💝通販を賑わせるおしゃれな手工芸&天然素材のマスク/農家支援のワールドクラス高品質コーヒーARAKU
【南インドのコーヒーの産地クールグへ。旅の記録】
☕️クールグ。コーヒー農園のリゾートにて(2010年の旅記録)
➡︎https://museindia.typepad.jp/2010/2010/06/coorg.html
☕️4年半ぶりのクールグ。コーヒー豆の産地にて(2014年の旅記録)
➡︎https://museindia.typepad.jp/miphoneindia/coorg-2014/
【サウスインディアン・コーヒーをより深く知りたい方へ、おすすめのリンク集】
☕️COFFEE BOARD IN INDIA(インドのコーヒー委員会のサイト)
➡︎https://www.indiacoffee.org
🇮🇳サウスインディアン・コーヒーの淹れ方がわかりやすく紹介された動画
🇮🇳南インドにコーヒー豆がもたらされた経緯がよくわかる動画
🍰2012年にミューズ・クリエイションを立ち上げて以来8年間、バンガロールにいる限りは毎週金曜日をオープンハウスにして、毎週のように20人前後のメンバーのために、お菓子を焼いてきた。コーヒーを出してきた。写真のファイルから「コーヒー」「お菓子」を検索すると、山のように溢れてくる過去。よくやってたなあと、しみじみしつつ……お腹空いてきた!