澄んだ青空広がるデカン高原、バンガロール。無事に新年を迎えることができたことを感謝しつつ、今朝から友人知人とメッセージのやりとりをしている。日本に澄んでいたころは年賀状を、米国に住んでいたころは、グリーティングカードを、1枚1枚書いてきた。「手書き」のやりとりが激減してしまった今、せめて言葉だけも、伝え合いたい。
大晦日のランチは、夫と二人でFarmloreへ。ちょうど、新居と旧居の中間地点あたりの、長閑な田園地帯にあるこの店。パンデミック下の2020年に開業した。わたしたちは、8月31日、我が誕生日に初めて訪れた。
約37エーカーの広大な土地の一隅に、マンゴーやバナナの木々に囲まれた場所に立つこの店。バンガロール出身のオーナー、そしてチェンナイ出身の若き3人のシェフがキッチンを仕切る。コペンハーゲンの名店Nomaでインターンの経験があるヘッドシェフの女性、Mythrayie。二人の男性シェフは、それぞれ、スウェーデンやマレーシアのレストランで働いた経験を持つ。
前回の訪問時にも記したが、この店のコンセプトが、とてもいい。自然農法に基づいた食材選びに始まり、環境に配慮したキッチンや店舗の構成。発電はソーラーパネルによって自給自足され、併設の水耕栽培ファームで育まれた新鮮な野菜が用いられる。
店は完全予約/前払い制で、テーブル数にも限りがある。グループは6人まで。子どもは12歳以上。料理は基本的に「シェフにお任せ」で、ランチは5コース、ディナーおよび週末のランチは10コース。1カ月に一度、メニューが刷新される。
前回は5コースのランチメニューを楽しんだが、今日は10コース。今月はクリスマスを意識した内容ということもあり、前回よりはインド的な香りが抑えられ、欧州のクリスマスを彷彿とさせるフレイヴァーが、随所に鏤められていた。
料理を供するたびに、シェフやスタッフが、丁寧に食材などを説明してくれる。それがまた、興味深い。この店もそうだし、ムンバイの名店、Masqueもそうだが、この実験的なキッチンは、かつてスペインのカタルーニャ地方にあった世界的に有名な前衛的レストラン、「エル・ブリ(エル・ブジ)」の流れをも組んでいると思われる。
わたしたち夫婦は、2016年にバルセロナを旅した際、エル・ブリで腕を振るっていたシェフらが創業した「Dis Fru Tar(ディスフルタール)」で食事を楽しんだ。
見た目からは想像できない素材や味覚を楽しみつつ、こころはカタルーニャ地方に飛ぶ。料理を演出する陶器や陶磁器類もユニークだ。ポンディシェリの陶芸家に作ってもらったという卵の器。あるいは、デリーの陶芸村で作られた平皿……。
指になじんで、使い心地がとてもいい、細くて繊細なポルトガル製のハンドメイドによるカトラリー。スパークリングワインをやさしく受け止めるフランス製のグラス……。
店の空間も、テーブルの雰囲気も、とてもすてきで、リラックスできるのだ。
前回も、Mythrayieとは少し話をしたのだが、今回も、彼女が日本の料理にも強い関心を持っていることを再確認し、何かと話が弾む。デザートも数種類、しかし重すぎず甘すぎず、なんともいい塩梅。最後のチョコレートドリンクを口にした刹那、1989年に初めてバルセロナ取材をしたときに訪れた、チョコレートドリンクの店を思い出した。
「ココア」という概念を大きく覆す、こってりチョコレートを溶かしたような飲み物をエスプレッソ・カップに入れて、飲む。芋づる式に旅の記憶が蘇り、だめだ話が終わらない。
食後、キッチンを見せてもらえたのが、とてもうれしかった。彼女が「実験的に」さまざまな素材から発酵している味噌を見せてもらう。先日の、Vegan Marketの記録でも紹介したBrown Koji Boyの味噌のことも、もちろん彼女は知っていた。
敢えて「原始的な」雰囲気のそのキッチンの、得も言われぬ魅力的な様子! 「まかない飯」のおいしそうなこと! 長時間の蒸し焼き料理にも使うという釜の燃料は、敷地内のマンゴーの木。……尽きない。
彼女たちは、日本の食事や食器にも関心があるということで、今度、拙宅へ遊びに来てもらうことになった。今年もまた、楽しい出来事を育むために、よく食べ、よく寝て、よく遊び、よく働き、元気にがんばって、生きよう。
ちなみに、ヴァラエティに富んだ10コースの料理は、いずれも少しずつ供されるので、お腹がいっぱいになりすぎることはない。とはいえ、夕食は抜いたが、年越し蕎麦はしっかり食べた。
🍾Farmlorenのホームページ。アルコールは提供していないので、ゲストが持ち込み。
https://www.farmlore.in/
💕Double Happinessな2022年8月31日/我が誕生日(前回訪問時の記録)
https://museindia.typepad.jp/2022/2022/08/bd.html
🇮🇳ゴア産のお味噌、おいしいんです!
https://brownkojiboy.com/
🌏[Barcelona 10] Dis Fru Tar/五感と五味を刺激せよ! 未知の味覚世界へ。(2016/10/08)
https://museindia.typepad.jp/_2016/2016/10/barcelona10.html
🌏「貧困の根絶」を使命に社会貢献型ビジネスを具現化。ARAKU COFFEEの足跡と背景(2021/11/08)
(ムンバイの名店Masqueのオーナーであるアディティが関わっている)
https://museindia.typepad.jp/library/2021/11/araku.html